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猫背で小声 season2 | 第8話 | 膜張さん

隠しているわけではないけれど、ぼくにはいま「離人症」という症状がある。

メンタルの病気なのだが、かんたんに言うと「生きている現実感がない」。

自分の見ている風景に膜が張られたようで、現実の世界に自分がいなくなってしまったような症状に悩まされている。

通称「膜張(まくはり)さん」

自分の中ではそう呼んでいる。

わかってはもらえないだろうけれど、知恵を絞って目一杯わかりやすく言うなら、「録画した荒い画質の世界」で生活しているような感じ。

まず視界がクリアじゃない。

目の病気かと思い眼科に行ったけれど、初期の「白内障」と言われた。この膜の正体は目の病気ではないらしい。

原因はストレス。これが現実。

「統合失調症はよくなってきています」と言われるようになったけれど、それをかき消してしまうほど、離人症は辛い。

朝起きると、視界にはもう膜が張られている。

大人になってからと言うもの「気持ちがいいゼ!」と起きられた朝は数えた程しかないけど、離人症はさらに追い討ちをかける。

膜張さんとの朝はとてつもなく辛い。

顔を洗い、ご飯を食べ、電車に乗り、会社へ着く。
どこへ行くにも、何をしようとも、膜張さんがへばりついてくる。

休職する前からこの症状はあったかもしれないが、だんだんこの膜張さんの存在が酷くなってきた。

主治医からは「気にしないことが治る方法」と言われているが、それが難しい。だって見るものすべてに膜が張られているし、見るものすべてが録画みたいだ。

人は視覚から情報を得る。

その「見る」という情報がヤラれているので、この症状から逃れられないという現実もある。

そんな現実も、好きなことをしているとき、何かに集中しているときはあまり症状が気にならないこともある。

ぼくの場合は文章を書くこと。

発想を転換すれば、書くために離人症になったかもしれないし、離人症になったから書けるようになったとも思える。

膜張さんの事を考えては、泣き喚きたくなることも多々あるけれど、人生はアメとムチ。イジめてくる「ドSの離人症」、蜜を味わわせる「ドMの物書き」の両方を兼ね備えた創作オジさんにとっては、これがなんともバランスのとれた現実だ。

膜張さんには恨みしかないが、こうしてこの連載を書いていること自体が癒しであり答えなんだよと、姿の見えない膜張さんからの問いに答える日々を送っている。

膜張メッセのど真ん中にいる毎日。

辛いけど、ぼくなりに、他人には味わえないぼくだけの人生を送っているのかもしれない。

こんな人生さえも大切に録画しよう。

つらいけどね。


【あとがき】

今回、離人症ではないにせよ、似たような症状に悩まされている方と気持ちの共有をしたり、少しでもそんな誰かの役に立ちたいと思い書いてみました。もしなにかあれば気軽にメッセージください。


文 : 近藤 学 |  MANABU KONDO
1980年生まれ。会社員。
キャッチコピーコンペ「宣伝会議賞」2次審査通過者。
オトナシクモノシズカ だが頭の中で考えていることは雄弁である。
雄弁、多弁、早弁、こんな人になりたい。
https://twitter.com/manyabuchan00

絵 : 村田遼太郎 | RYOTARO MURATA
北海道東川町出身。 奈良県の短大を卒業後、地元北海道で本格的に制作活動を開始。これまでに様々な展示に出展。生活にそっと寄り添うような絵を描いていきたいです。
https://www.instagram.com/ryoutaromurata_one/

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