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海と山と展 #09 ナカムラミサキ「あたまぺったんにんげんの誕生秘話」

あたまぺったんにんげんたちがナカムラワールドを縦横無尽に駆け巡る!かと思えば、突然、感情無し人間が佇むまたは浮遊する。その自由すぎる作風が好きだ。聞けば、彼女の絵のルーツは実家に眠っていた『自分の幼少期の絵』にあるという。こどものナカムラミサキが発明した「あたまぺったんにんげん」は、大人になったナカムラミサキの創作意欲を掻き立てる。美術学校の先生に「いいね!」と背中を押してもらい、こども時代の絵からインスピレーションを受けた新しいタッチを探しつつける。こどもっぽい、無邪気な絵にするには、『左手で描く』ことがヒントだったと言う(ちなみに納得のいく現在のタッチを見つけたあとは右手に戻して、しっかりと描きたいものをコントロールしているそう)。すごくいい話だなって思った。「三つ子の魂百まで」という言葉があるように、ひとの本質ってそんなに変われない。だから、物事のルーツや文脈を大事にすべきクリエイターやアーティスト、表現者にとって、幼少期の体験、原風景、タッチ、考えかた、感覚を追うのは自然なことだと思った。けれど、たぶん、多くのひとがそんなにさかのぼったりしないよね。そう言うぼくは時々、いやだいぶ、こどものころのことを思い出して、ひとに話す。あの時の感覚を、常に新鮮な状態にして、ものづくりの際の『感動』に活かしたい。あの時の感動やドキドキを忘れずにいたい。初恋の相手「村岡さん」の話を知らないひとはぼくのまわりにはあまりいないだろう。
ナカムラさんの絵にはもう1つ特徴がある。仕上がりが PC のデスクトップ上だということ。フリーハンドで描いた絵を、まずスキャニングし、「すでに用意している絵の具や筆のアナログ感のあるテクスチャ」を背景として合成して仕上げている。いわば、ナカムラさんの絵の背景は「サボりの延長」であり「価値が低いのでは」と、本人は思っていたみたいだけれど、ぼくはそんな風には思わない。「絵の具が出すのが面倒」「アナログ感が好き」という自分の性格を分析した結果であれば、立派な発明だと感じる。本人が納得していないのであれば、それはサボりだよ。と言おうかと思ったけれど、その手法がどうやら「好き」みたい。好きなら、その方法は誰に否定されようと続けた方がいい。時々、新しいテクスチャを発明して、みんなを楽しませることができるのであれば、立派なイラストレーターの在り方だと思う。パソコンで絵を描くイラストレーターのいしいひろゆきが、ある時、「出力には価値がないのでは」と悩んで、パソコンで一度描いた絵を、慣れないアクリル絵の具で描き起こした作品を発表していたけれど、ぼくは、その時に、出力の方が好きと伝えた。アナログ感がない方がきれいな世界もあるのだ。写真の世界も、パソコン上のレタッチ処理や色補正は当たり前になっているし、絵を前に『原画』にしか価値がないと言ってるひとはもうとっくに古い。
データ出力は無限に複製できるから、価値がないという話はある。わかる。だから今回は3つしか出力をしないと決めてます。複製の権利としてデータを譲るとか、額装にこだわるとか、サインを入れるとか、出力の上に、手を入れるとか、価値の作り方はいくらでもあるので、パソコンで絵を描いたりしている作家さんは悩むことなく、自分の好きな世界を突き進んでください。なにか悩んだら展示に関係なく、PARK GALLERY に相談ください。


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