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えかきもじ展によせて 最終回

えかきもじ展』最終日です。
えかきもじ展によせたコラムもこれでおしまい。

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最終日まで唯一、 SNS やオンラインに発表せずに、店に来た人にだけ楽しんでもらおう思っていた作品があります。これ。

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普段は漫画家として活動している大橋裕之くんによる『えかきもじ』です。

「三輪二郎って誰ですか?」この会期中でいちばん多かったのがこの質問かと思います。その度に「“さんりん” じゃなくて “みわ” です」と答えたり、「演歌歌手じゃないですシンガーソングライターです」と答えたりしてきました。BGM で流すとみんないい曲だと言って喜んでくれます。

大橋くんと知り合ったのはいつかはっきり覚えていないけれど、2008年に仲間と一緒に作っていた漫画雑誌『スニフティ』に『グレートロンリー』という漫画の連載をしてもらってたのが印象的。当時、ぼくらは漫画雑誌を作ったり毎月都内で音楽イベントを開催したり、山の奥のキャンプ場や河原にサウンドシステムを組んで爆音の中で酒を飲んで警察に怒られたりしていた。ライブハウスやレコード屋のイベントに遊びに行くと時々大橋くんがいて、すこし話したり、とかそういう感じ。いまみたいに「約束して集まる」っていう感じではなく、行けば会う、というような時代だった。この感じのイベントにはこの人が毎回いるとか、そんな感じ。時々、2、3年に1度、大橋くんにはたまたまどこかで会ってる気がしていたけれど、去年の11月に阿佐ヶ谷のギャラリー VOID で個展をやっていて、久しぶりに大橋くんの作品を見て、そういえば大橋くんも「えかき」だよな、と思い、久しぶりに連絡を取って声をかけた。後日、大橋くんから送られてきた「三輪二郎」とだけ書かれた色紙を両手でしっかりと持ち、ずっとニヤニヤしてた。この「ニヤニヤ」わかるひといるのかなあと、さらにニヤニヤし続けた。

三輪くんとはよく遊んでよく飲んだ。よく歌ってよくおどけた。前野健太、三輪二郎、あだち麗三郎の三羽ガラス。才能あふれる音楽家たちが産声をあげるように歌って鳴らした時代だった。ぼくらはその『時代』を生き急ぐようにデザインした。誰が次の扉を開けるのかは時間の問題だったけれど、2009年に本秀康さんが、前野健太のアルバムの絵を手がけた瞬間、光がさした。平成の東京のアンダーグラウンドミュージックシーンのはじまりだったと思う。この時の話はまたいつか書こうと思う。

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大橋くんが描いた「三輪二郎」の4文字からは、あの時の時代の音が聞こえてくる。あれから12年。みんな少しずつ変わってしまって寂しいけれど、三輪二郎だけは驚異的なレベルで変わらず、相変わらずきっと出不精で、いつでもギターを片手にキザな歌をうたってる。

大橋くんの絵といえば発明とも言えるあの『目』を思うひとが多い。あの『目』があれば買ったなあというひともいるくらいだから相当なアイデンティティ。けれど、大橋くんの真の魅力の正体はこの4文字を選ぶところにあると思う。同時多発的に起きている「俺たちにしかわからないニヤニヤ」を描くのが、大橋裕之という漫画家なのだ。ちょっと右に傾いてるのもいいよね。

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さて、この大橋くんが描いた「三輪二郎」という『もじ』を見ながらニヤニヤしてる男が会場にもうひとりいます。当時、漫画雑誌『スニフティ』を一緒につくったり、前野健太や三輪二郎、あだち麗三郎と一緒に東北ツアーに同行したり、いつも隣でビール片手に一緒に歌って踊っていた男・イラストレーターのなかおみちおくん。昨年の10月に PARK GALLERY で開催していた個展『DO NOT DISTURB』の記憶もまだ新しいし、もうなかおとは20年くらいの付き合いになるので、あまり多くを語る気はないけれど、ずっと変わらないぶれないスタンスでイラストを描き続けているのは本当にすごいと思う。なかおみちおの武器は、大橋くんと似ていて、オリジナリティあふれる『目』の描写と、俺たちにしかわからない『世界』。アメリカのB級映画のワンシーンみたいな主人公やできごと。絶対に体に悪いガムとかキャンディみたいな色彩感覚。大好きなスケートやパンク、ヒップホップフレーヴァーをふんだんに込めた唯一無二の世界観。

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今回届いた作品の世界も、あきらかにアメリカの少年のベッドルーム。「ずっと一緒にいたい」というメッセージを「かわいい」と取るか、逆に恐怖感を募らせるホラー映画のワンシーンのようだと取るかは受け取り手の自由。なかなか写真では伝わらないラメのテクスチャなど、会場じゃないと楽しめない要素でもあるので、ぜひこの機会を逃さずに。

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ちなみに、前野健太くんが売れた時にかぶっていたキャップはなかおみちおくんのデザインで、なかおみちおが描いたキャップをかぶった前野健太を、本秀康さんが描いている、という小さな奇跡が起きていて、なかおと喜んだりしたのでした。


そんな大橋くんとなかおくん、ぼくが尊敬してやまないイラストレーターでアートディレクターがいます。先述の阿佐ヶ谷のギャラリー VOID の運営も手がける小田島等さん。サニーデイ・サービスやシャムキャッツのジャケットなどで知らないうちに見ている、好きだっていう若いひとたちも多いと思います。ぼくも知らない間に『小田島ワールド』に引きづり込まれていたひとりで、一番最初に小田島さんに会ったのは、2010年、WEEKEND というラップユニットで連載していた企画のゲストとしてきてもらった時でした。

それがこれ

このあたりからたまに小田島さんと音楽を通じて遊ぶようになったり、飲んだり、時々電話で話したりするようになって、その度に怖いくらいニュートラルで、自然体なひと。いつも「加藤くんは名前のない(アノニマスな)ことをやってて偉い」と言ってくれて、その度に少し勇気をもらったり、それはアノニマスポップこと小田島さんもずっとそうだったという話で、時間がかかるし、なかなか陽の目を見ないんだよという話になるので、少し落ち込んだり。でもこの業界にルールなんてないし、のびのびと自由にやりたいことやろうと思わせてくれる先輩のひとりなんです。

そんな小田島さんから届いた作品がこちら。

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もー自由。

いつだって文脈を大事にし、その時代の空気や、できごと、世間を騒がせる言葉に含んだ本質を見抜こうとする小田島さんから届いたのは、もしかしたら新しい時代に役に立つ哲学かもしれない。ヤンキーがいままで積み上げてきたルーティンとも言える実績と、コモディティ化していく時代と、暴力的になっていく日々の事件の数々、そんなできごとの比較をアートの視点からうんぬんかんぬんと見るもいいし、単純に小田島さんという1人のアーティストの色彩感覚、鮮やかなピンクと黒のマリアージュを楽しむのもいいかもしれないですし、デザイナーとしての視点で、リーゼントをうまく活かした言葉の配置にグッとくるのもいいかもしれない。耳のかたちや首の向きなど、型破りな風に見えて、ちゃんと伝統的な小田島等スタイルなのもファンにはたまらない。

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「こっちの道でだいじょうぶだよ」と、まるでそんなふうに言ってくれる小田島さんが50人目のイラストレーターに決まって、無事開催された『えかきもじ』展。泣いても笑っても今日で最後。

緊急事態宣言下、たくさんのイラストレーターの、さまざまなかたちのクリエイティブに支えられて今日まで無事やれました。本当に感謝してもしきれないです。

来年もきっと笑顔で、「えかきもじ展」を迎えたいと思いますので、それまでどうかみなさん健やかにお過ごしください。

では、今日も思い切り楽しみたいと思います。情熱を燃やそう。

PARK GALLERY 加藤


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