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2500万円を全回収して下剋上!教育費が無駄な子の特徴と予防方法

画像:unsplash, Annie Spratt
#教育費#下剋上#

ご存じでしたか?文部科学省が発表しているデータ(1)によると、子供を一人、大学卒業までにかかる教育費用が1000万〜2500万ほどかかるそうです。そのグラフは次の通り。

私立に関して言えば、文系も理系も意外と教育費が変わらないようです。どうせ私立に入れるのであれば、こちら(2)やこちら(3)でも分かっている通り、将来の所得が高い傾向にある理系に入ってもらった方がお得ですね。

もし全て公立で済ませようと思えば19年間の教育費が1000万ほどです。仮に親が非正規雇用であっても年間50万ちょっとで済むので、教育費(養育費は別)だけに限って言えば払えるかもしれません。実家暮らし、奨学金などを活用すればさらに教育費は少なくなるでしょう。

教育のリターンが小さくなるなら中卒で働けばいいじゃないか?!

しかしノーベル経済学賞のヘックマン教授の総説(4)によると、教育の投資は時期が早いうちが最も社会的なリターンが大きく、子供が成長するに従ってそのリターンは小さくなると言われています。

社会的なリターンというのは、社会福祉に頼らない、犯罪により収監されない、生活保護を必要としない、職業訓練の使用頻度が少ないなどをいいます。これらは一般市民の税金によってまかなわれるため、小さいうちにそのようなリスクを取り除くことで結果的に国全体としてマイナスの支出を予防できるということになります。

たて軸は、掛けた教育費とその社会的なリターンを示しています。上に行けば行くほどリターンが高く、掛けたお金が何倍にもなって戻ってくる計算となります。逆に下に行けば行くほど、リターンは小さくなり、ゼロを下回ると赤字になります。

仮に、リターンが13倍とすれば、100円のお金をかけるごとに1300円の社会的なリターンが見込めると言うことです。反対に、リターンが「-0.4倍」と言うことは、100円のお金をかけるごとに60円になって戻ってくると言うことです。40円の赤字ですね。もし「0.4倍」であれば、100円かけるごとに140円となって戻ってくるので、ギリギリ黒字です。

よこ軸が、年齢です。右に数めば進むほど年齢が高くなります。

この表をみると、割と早い段階でゼロを下回り赤字転換を迎えます。大体小学校あたりで赤字転換しているように見えます。大学や職業訓練に至っては絶望的なリターンです。ノーベル経済学賞のヘックマン教授は赤字になるから国全体として大学教育への投資効果はないと言いたいのでしょうか?。

赤字になるくらいなら、中卒でさっさと正社員として働いてもらった方がいいような気がします。

実は例外が存在するリターン率

ご安心ください。この表にはある例外が存在します。それは何かという・・・

「赤字転換の線は、子供の能力によって上下する」

と言うことです。同じくヘックマンらの研究(5)によると優秀な子供であればあるほど、赤字転換の線が遅れてやってきます。つまり、もし子供の性格も知能も優秀であれば、たとえ大学に入ったとしても黒字のリターンが見込めると言うことです。その図がこちら。

この図は、大学入学時点での能力によって得られるリターンの違いを表したものです。三次元で描かれていますが、100マス計算の要領で見ていただければ良いかと思います。

オレンジで囲ってある数字は、非認知能力の高さを表しています。数字が大きくなればなるほど、より望ましい性格をしていると言うことです。

一方で、青い破線で囲ってある数字はIQの高さを表します。こちらも、数字が高ければ高いほどIQが上位にある人たちであると言えます。

最後にたて軸は、リターンの高さを表しています。ゼロを上回る場合はリターンを期待できますが、ゼロを下回る場合は赤字になると言うことです。

非認知能力の役割

オレンジで囲ってある非認知能力に関して詳しく解説します。望ましいとされる性格特性は具体的に言うと以下の通りです。


  • 知的好奇心が高く、何事にも学ぶ意欲を持っている

  • 自制心が高く、衝動的な行動が少ない

  • 勤勉性が高く、コツコツと地道に努力し続けられる

  • 自己評価が高く、物怖じせずに毅然と振る舞える

  • 不安を感じにくく、モチベーションが下がりにくい

これらの性格特性は、子育てスキルの質や親子関係の良好さによって形成されることが分かっているので、いかにこの性格特性を望ましいものにするかが非常に重要となります。基本的に、子育てをする上での親としての役割はこの「非認知能力」をそれぞれ1%でも高めることだと言い換えられます。

認知能力の役割

青い破線で囲ってあるIQに関しては、幼少期に一時的に高めることはできても、それを持続できるかどうかに疑問が残り、仮に高い状態をキープできたとして長期的にみて効果があるかどうかまだ分かっていません。

IQはほとんど両親からの遺伝である以上、とにかくIQが遺伝的限界ギリギリまでしっかりと成長してくれるように親が間違った育児をしなければ良いと言うことが科学的には一番現実的な方法であると言えます。

まとめると、親の役割は二つに分けられます。


  • 子供のIQの遺伝的な限界ギリギリまで成長するのを邪魔しない

  • 子供の非認知能力を、1%でも高く可能な限り高める取り組みとスキルを学び実践する

これらを親が意識することで、次の表のような差が生まれると言えます。

大学生になってもリターンが出せる子に育てられたら、社会に出たときも重要な人材として重宝される訳ですね。

教育投資の恩恵には2種類ある

教育投資の時期によってリターンが変わるということは理解していただけたかと思います。また、子供の能力によって将来的にリターンが得られるかどうかの差があることもお伝えしました。では、生まれつき能力が高い子供とそうでない子供とで、能力の獲得に差はあるのでしょうか?

教育投資の効果をまとめた研究(5)によると次の通りです。

縦軸は教育に掛けた投資の効果を表しており、リターンの高さを示しています。横軸は年齢を表しており、子供から思春期にかけてどのようなリターンを得られるのかを示しています。

破線と実線の2種類とでありますが、それぞれ対象者が違います。破線は、生まれつき犯罪、高校中退、不健康、生活保護のリスクが高い子供たちを表しています。一方実線は一般的な子供やリスクの低い子たちを表しています。

リスクの高い子供たちの場合

破線の場合、0歳から6歳までの教育が最もリターンが高いようです。しかし、6歳をすぎるとリターンが小さくなります。

リスクが高い子供たちの場合は将来、生活保護に頼らず自活できて、犯罪によって社会に害を与えない子に育てることが目的となります。勤勉で自制心のある子に育てることで、細々と幸せに自立して暮らせるようになってもらうことが現実的な選択肢となります。

6歳になる頃には、適切に育てることができていれば十分に土台ができていると言えます。世知辛い話にはなりますが後半の伸びはあまり期待できません。年齢を重ねるごとに健常者や優秀な子供との能力の格差は埋まるどころか広がります。そういう意味では、社会に大きく貢献できる子に育てるよりは、本人が無理なく社会参加しつつ適度に貢献できる子に育てることが無難です。

リスクの低い子供たちの場合

実線の場合、生活保護や犯罪のリスクはそもそも少ないので、リスクの高い子のような恩恵はほとんどありません。しかし、後半の伸びが大きいことに注目してください。

この層の子供たちは、将来自分の才能を社会に貢献できるようにしっかりと能力を伸ばす訳ですから、適切に育てることができていれば、スキルの獲得が加速的に進みます。「スキルがスキルを呼ぶ」の原則に基づき、早いうちに必要な社会スキルや学習スキルを学ぶことでそれが複利効果のように雪だるま式に成長します。

ただ、スキルを提供し続けられる環境や、適度なラーニングゾーンを親が用意する必要があります。せっかく13歳までに適切な育児をしたとしても、それで十分という理由で全く成長機会や刺激がなくなってしまえば新しいスキルを呼び込みようがありません。

所得格差のせいで出来ない!は科学的に間違い

しかし、一部の人はこう思うでしょう。

「教育投資なんて金持ちの贅沢だ。我々には縁がない話で、どうせ当てはまらない。金持ちは金持ちのまま、賢い人は賢い人のままだから下剋上はできない」

こういう考えも理解できます。教育をするにしたって習い事、教材、文化的な生活、私立の学校に入るなど何かとお金はかかると考えるでしょう。もしかするとこのグラフを体感的に理解しているのかもしれません。


このグラフは、「ギャッツビーカーブ」と呼ばれており、所得格差とその格差の固定度を表しています。

よこ軸が国ごとの所得格差です。たて軸が、「親が貧乏なら子も貧乏のまま」ということがどれだけ高いかを表しています。

イタリア、英国、アメリカはどうやら所得の格差が大きく、それを変えるのは非常に難しいようです。つまり、貧乏な生まれの子は大人になっても貧乏なままで、金持ちの生まれの子は大人になっても金持ちのままであると言うことです。アメリカは医療保険未加入の場合、医療費が高いことで有名ですね。

反対に、フィンランドやデンマークは所得の格差が小さく、また貧乏な家に生まれても子供が将来金持ちになるチャンスがアメリカよりは大きいようです。フィンランドやデンマークは所得税が高いため、富の再分配が公共福祉という形で現れています。医療費や教育費が無料ということは、誰もが平等に学ぶ権利、医療を受ける権利があると言うことです。

富の格差を小さくしても、結局は親次第

デンマークの教育費や医療費が無料なので、ある程度の生活水準が保証されています。貧乏だからいい教育を受けられない、貧乏だからチャンスがないと言うことはアメリカに比べたら可能性としては小さいはずです。平等に無料で教育を受けられる訳ですから、無事下剋上を果たせているはずです。

では実際にその仮説は正しいかみてみましょう。


こちらのグラフは、アメリカの子供たちの進学率とデンマークの子供たちの進学率を比較したものです。濃い緑色がデンマークで、薄い緑がアメリカとなります。

それぞれ親の最終学歴と子供の進学率をみてみると、富の格差が小さいはずのデンマークが、富の格差が大きいアメリカとほとんど変わりません。どうやら、富の格差があろうがなかろうが、子の進学率の高さは親の最終学歴による影響の方が大きいようです。教育や医療が無料だからといって、健康格差や教育格差が埋まらないのはどうやら所得格差以外のところに原因があるようです。

「親子のIQが低いから進学率が低いのでは?」

この結果をみてこのように思ったのではないでしょうか?

「きっと親のIQが低かったからダメだったんだ。富の格差よりも、親と子供に遺伝するIQの格差がモロに子供の進路に影響を与えたに違いない。そうなると、親がいくら努力したところでIQの低さをリカバーすることはできないに決まっている」

ではこれが正しいかどうかみてみましょう。



幼児教育の効果に関して検証した有名な研究を二つ紹介します。ペリー就学前計画(6)とアベセダリアン計画(7)はどちらも子供の頃にIQを測定し、その後も定期的にIQがどのように変化したかどうかを追跡調査しています。


二つの研究からみてわかる通り、幼児教育の参加者は非参加者に比べてIQが一時的には上がりましたが結局元通りになりました。しかし、興味深いのはここからです。こちらの記事(8)でも説明している通り、子供のIQの高さは非参加の人たちと違いが無いにもかかわらず自制心やモチベーションなど、性格に違いがあったことで将来性に大きな差が出ました。

具体的には、犯罪率の低下、進学率の向上、就職率の向上などです。このことから、IQが低かったとしても性格をよくすることでリスクを予防できることが分かりました。

これは治安、栄養状態、平均IQ、平均所得などが軒並み低いジャマイカでも同様の結果(9)が得られています。どうやら子供の非認知能力の高さは、富の格差、平均所得の低さ、治安の悪さ、親のIQ、栄養状態にかかわらず、結局は親のスキルの高さが与える影響ほど大きくないと結論づけられそうです。

とはいえ、確かに親のIQが低いとそもそもモチベーションも低いためなかなか継続するのは難しいという問題はあります。この場合、ある程度の外部からの介入が安定して継続されないと難しい部分はあると言えそうです。

分かったよ、下剋上するためには親のスキルでしょ?

では一体何をすれば、子供の将来性を向上させられるのでしょうか?実際は非常にシンプルです。前半の生まれてから5〜6年はしっかりと親子の信頼関係を構築する、ハグをする、話を聞いてあげる、本の読み聞かせをするなどが最も効果的な「教育投資である」ことが分かっています。

こちらのレポート(10)によると、未就学児に読み書きを教えるなどの早期英才教育はむしろ学力が悪化するようなので「早期英才教育」と「早期教育投資」の違いは明確に理解しておく必要があります。

親が自習するためにおすすめの教材はあるのでしょうか?あります。まずはこの本から初めても良いでしょう。

こちらの本の教えの特徴としては、以下の二つです。

  • 親子関係の構築方法を第1ステージとしている

  • 命令の出し方やしつけ方を第2ステージとしている

この全く逆に思える親としての行動を、わかりやすい言葉と身近な事例で解説してあります。第1ステージだけでも相当変わるので、自信がなければまずはそこだけでも良いです。

まとめ

  • 子供の教育投資のリターンを最大にするには、13歳までの教育投資が重要

  • 「早期英才教育」と「早期教育投資」は全くの別物。一方は悪化し、他方は向上する。

  • 子供のリスクの高さによって、将来的に目指す現実的なゴールは変わってくる

  • 富の格差、治安の悪さ、栄養状態、親のIQや最終学歴よりも親のスキルの影響の方が大きい


ソース

1 https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/main_b8.htm online 2022/09/10
2 https://superstrength22.wordpress.com/2014/02/19/stem-subjects/ online 2022/09/10
3 https://www.ngpf.org/blog/question-of-the-day/question-of-the-day-what-college-major-provides-graduates-with-the-highest-median-career-earnings/ online 2022/09/10
4 HECKMAN, J.J. (2008), SCHOOLS, SKILLS, AND SYNAPSES. Economic Inquiry, 46: 289-324. https://doi.org/10.1111/j.1465-7295.2008.00163.x
5 Heckman, James & Mosso, Stefano. (2014). The Economics of Human Development and Social Mobility. Annual review of economics. 6. 689-733. 10.1146/annurev-economics-080213-040753. 
6 Heckman, James J., Integrating Personality Psychology into Economics (August 2011). NBER Working Paper No. w17378, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=1919451
7 Kyllonen, P.C., Roberts, R.D., & Stankov, L. (2007). Extending Intelligence: Enhancement and New Constructs (1st ed.). Routledge. p51-70   
8 https://note.com/pare_kyoukai/n/nbd51a38b59e4
9 Walker, Susan & Chang, Susan & Powell, Christine & Grantham-Mcgregor, Sally. (2005). Effects of early childhood psychosocial stimulation and nutritional supplementation on cognition and education in growth-stunted Jamaican children: Prospective cohort study. Lancet. 366. 1804-7. 10.1016/S0140-6736(05)67574-5. 
10 Nancy Carlsson-Paige, Geralyn Bywater McLaughlin, & Joan Wolfsheimer Almon. (2015). Reading Instruction in Kindergarten: Little to Gain and Much to Lose. Published online by the Alliance for Childhood


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