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お56話・女の子におんぶしてもらいたい男子~美術館女性案内員のおんぶで館内作品鑑賞

 美大卒でキュレーターになりたいが、今は、一般企業でOLをしているアツコから
「チケットが2枚あるんで、美術館一緒に行こうよ、抽象画展なんで、クロくん興味ないかもだけど、つきあってよ」と誘われた。都区内某美術館前で待ち合わせをして正面ゲートへ入るところで、アツコから
「おんぶはしないからね」と先に言われてしまった。
 館内はかなり広々としていたが、平日ということもあってか、来客は、まばらだ。ボクは、おんぶダメを言われて、かなりシュンと落ち込んでしまったが、そんなことで落ち込んでることをアツコに悟られたくないという防衛的な感情が働き、アツコから距離を離して歩くことにした。アツコは、そんなボクの傷心には興味ないようで、展示されている抽象画に見入っていた。
 一方、ボクは、抽象画の深みを見出すポイントが、まったく、わからない。どちらかというと、抽象画の一点一点の作品に対してよりも、薄暗く広い館内で、ただ静かに動いてゆく不規則ともいいきれない人影たちのシルエットの動きになにか感じるものの感触を得ていた。
 鑑賞客たちのゆっくりとした動きの中で、ひときわ、ボクの目を惹いたのは、ほとんど静止したまま動かない女性のシルエットだった。しかもハイヒールでスーツ姿でスレンダー、長い髪。他の展示作品なんか、すべて消し飛ばす美しい作品だ。
 近づいてゆくと、美術館の接客案内員であることがわかった。ということは、話しかけてもいい、もしかしたら、接客サービスもしてくれるかも。。
 ボクはさっそく話しかけて、前述のような、抽象画の見方を質問し、
「でも、あなたの立ち姿が最も美しい展示作品だったので・・」と伝えた。
女性職員は「えっ、そんな・・・」と、はにかみながらも、館内全景に感じたボクの感覚には、喜んでくれた。
「で、おねがいが、あるんです。最も美しい展示作品である貴女に、おんぶしてもらって、館内の他の作品を見てまわりたいのです」
「えっ、私、男人をおんぶなんて、できないかと・・」
ハイヒールの女性に飛び乗るのは、怪我させる危険があるので、壁のほうを向いて、壁に片手を突く姿勢で、フロアーにしゃごんでもらい、その上にボクは、跨るように彼女の背中に覆いかぶさり
「ハイ、そのまま足腰に力入れて立ち上がって」と。
女性は、ボクをおんぶした体勢に立ち上がることができ、ボクは、スーッと浮くような浮遊感は気持ちよかった。ハイヒールで2~3歩コツコツと歩く振動と、静かな館内に響く「コツンコツーン」が、ドキドキバックンドッキンだ。
 案内員女性のおんぶで観てまわる館内展示は最高すぎて、でも展示されて抽象画群にボクの心はいかず、スーツ女性のおんぶを全身で感じ
「こんな素敵な女性のおんぶで観れるって素晴らしいです。館内はけっこう広いから、自分の足ですべて歩いてまわると、けっこう疲れるけど、これだと楽なんで、うれしいです」
「おんぶしてる私のほうは大変なんですけど」
「うん、、貴方が大変な重労働をしてくれてるそれは上に乗っていて感じ取れるんで、その感じ取れる貴方のおんぶで鑑賞する芸術作品、深みを見いだせそう」
 女性が、見知らぬ男の快楽のために大変な重労働してるなんて、最高の芸術ではないだろうか、少なくとも、その快楽を享受しているボクにとっては、そうだ。では、ボクたちの姿を目撃している他の鑑賞客にとってはどうなのか・・、そして、作品の製作者であるスーツハイヒール女性にとっては、芸術を感じれているのだろうか。
「ハイヒールなんで、足痛いので、これ以上はもうムリです」と女性は、しゃがみこんだので、ボクは
「足痛くなるまでしてくれて、ありがとう。貴女のおんぶは、最高の芸術作品でしたよ、すごく感動しました」と言って、おりた。 

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