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お61話・女の子におんぶしてもらいたい男子・1度おんぶしてくれた女性の身体の引力

 初冬のちょっと風のある晴れた日の昼すぎ、エレガントな黒いコートを着込んで歩く女性が、道を正面から来て、擦れ違った。知り合いか、どこかで縁のあったことあるような気もしたが、顔や髪型や衣装からは、思い当たらない・・・。
 女の子大好きなボクは、すれ違ったあと、立ち止まって考え、脳内記憶の糸を手繰り寄せるように、向こう側へ歩き去ってゆく黒コート女性の歩く後姿を目で追い「ハッ」と気づいた。
 「あっ、いぜんに一度、道で声かけして、おんぶしてもらったあの女性だ。あの後ろ姿、体形姿勢、歩くテンポ感・・、一度でも、おんぶで乗せてもらえたことのある女性の固有振動数は、ボクの身体にボクの脳裏にプログラムされているのだろう、後ろ姿を見て瞬間的に、あの夜のことを全て思い出した、第37話にでてきた女性である。ボクは、あわてて彼女を追い、声をかけた。
「あのー、三丁目ほうで、ボクをおんぶしてくれた方ですよね」
「知らないわ」
「あっ、やっぱり当たりだ、その張りのある声。ね、当たりでしょ」
「まったくもう、なんなんですか?」
「髪型もすごく変わったし、全体の雰囲気もぜんぜん違ってたので、正面から見たときはわかりませんでした。でも、すれ違いぎわに、なんか引き込まれる引力を感じたのです。で、歩く後姿を見たときに、あの乗せていただいた夜とまったく同じように、ボクの全身が反応したのです・・すみません」
「なにそれ、なんか気持ち悪い」
「ですよね、すみません。でもあの引き込まれる引力・・・」
「なにを言いたいの? おんぶとか、しませんからね」
「さっきの引力をたしかめたい・・、んで、その素敵なコートちょっと脱いでみてください」
 ボクは、彼女の脱いだコートを受け取って自分が羽織ると、片手で女性の手を握り
「やっぱり引き込まれるよ、引力・・」と、女性の背中がわへ。
「ごめんなさい。あなたの後ろ姿に触れたら、また、おんぶしてほしくなっちゃいました。乗りますね」と、そのまま飛び乗ると、女性は反射的に両腕でボクの両足を持ってくれたのだが
「なんでまたこういうことになるのよー」と不満気。
 一度でも前回みたいに長い距離おんぶしてくれた女の子の身体の個性は、ボクの身体と脳に記録されてるみたいで、こうして2度目のおんぶ、すごく安心感あって、我が家へ帰ってきたみたいな居心地、なつかしさもある。
 ボクの身体がいま全身で、キミの身体の乗り心地を確認してて「ああー、前回のあのときのおんぶとここが同じだ、あそこが同じだって」。キミの暖かい身体とキミのこのエレガントなコートに挟まれてる間に入ってるボクの身体は、キミの引力に引き寄せられて、こういうふうにキミの暖かみに包まれて、おんぶ、っていう形に。ボクの全てはキミの香りになっちゃって、もうキミのものだよ、お持ち帰り自由だよ。
「ぜんぶ、キミにあげる」
「こんな重たいの、いらない」
こんな会話でも、受け答えしてくれただけでも、なにかがつながった気して、ジンワリと指先に弱電が流れる感じの・・・。
 ボクは、女性の腰のクビレの位置に自分の両足で彼女の細いウエストを挟む状態になってることに「あっ、前のときは、この感覚で射精しちゃったんだったか」と、青春の思い出にニヤけてしまった。
 今ボクをおんぶしてくれてる女性は、お互いに名前も知らない仲で、しかも彼女は、イヤイヤだったのに2度もおんぶしてくれて・・。たぶん、お互いの生活圏はかなり近所同士で重なり合っている。今回の2度目があったということと、ボクの全身がビビッと反応したことで、出会いの運命を感じた。
「ねえねえ、ボクたちって、運命で結ばれる、おんぶカップルだよね」
「なんで、わたし、また男なんかおんぶしてんだろ、降りて」

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