【第0068稿】北海道の特殊ワード「○○さる」を懇切丁寧に説明します。

「押ささる」「書かさる」という言葉

北海道特有の「○○さる」という言葉。道外の人には本当に分からないらしいと聞いて、「え?なしてよ?」「んなもん簡単だべ?」と思うわけですが、じゃあ分かりやすく説明してよ、と言われると難しい。

ただ、難しいからと言って説明を放棄するわけではない。これからしっかりじっくり分かりやすく説明していくので、もしよろしければお付き合いいただきたい。いや、交際の申し込みではない

「○○さる」について。

まず大前提として、北海道の人は「俺のせいじゃない」という精神が強く染みついている。厳しい環境で生きていく上では、誰か(何か)のせいにしないと生きていくことが出来ないのだ。

本来、「押ささる」という言葉を標準語に置き換えると「押してしまう」が一番近いのだが、「押してしまう」には「自分がうっかり」という言葉が頭につくので、ともすれば「自分のせいで」という意味になる。

「俺のせいじゃない」という道民の精神からすれば、この「自分のせいで」というのが納得できない微塵にも「俺のせい」にしたくない。ゆえに、「押してしまう」とは言えない。

では、「押ささる」を出来る限りその意味の通りに置き換えるとどうなるか。「俺が意図してやったわけじゃないが、押した状態になってしまった」だ。これが「押ささる」である。どうだろう、そんなに力強く自分のせいではないことをアピールしなければならないのか、とも思うかもしれないが、しなければならないからこそ、○○さるという言葉が生まれたのだ。

具体的にこの言葉を使った文章を考えてみると、こんな感じになる。

「いやー、さっきエレベーターに乗って、壁によっかかったっけそこにボタンがあってさー。全部の階が押ささっちゃったわ」

どうだろうか。「俺のせいじゃない」という前提を理解していると、「押ささった」という言葉がさも「偶然そうなってしまった」ように聞こえてくるのではなかろうか。

「書かさる」でも考えてみよう。

よく聞く例えだと、「このボールペン、全然文字が書かさらない」。標準語にすると「このボールペンでは文字が書けません」になるだろうが、この場合、「このボールペンの形状がとても手に合わず、持ちにくいので文字が書けない」という意味も含まれそうじゃないか?

その点「書かさらない」だと、「書いて試してみたがインクが出ない」という意味にしかならない。持ちにくいボールペンであれば「持たさらん」という。

「このペン書かさらんから投げといて」

「このボールペン、インクが切れているのか文字を書いてもインクが出てこないのでもう捨てちゃって」という意味だ。かなり短い文章で意味が伝わる分、北海道の方言の方が優秀ではないだろうか。

では最後に問題。

Q.「○○さる」という言葉の使い方について、間違っているものを選べ。

(1)「信号が点滅したら走らさるよね」
(2)「おっきな音が聞こえたらそっち見ささる
(3)「星野源の動画を見ても年寄りの私は全然踊らさらない
(4)「授業中に騒ぎすぎて廊下に立たされる

分かるよね?


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