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AI教材という最先端のシステムを導入する塾から、時代のニーズに合わない大学生が生まれていると信じている理由

AIが勉強をサポートしてくれるシステムってどうなんですか?

という質問をよくされるので、自分が考えるAIによる学習指導のメリットとリスクについて書きました。


■AIによる学習サポートは知識を覚えるには素晴らしいシステム


まずはじめに、AIが学習をサポートするとはどういうことかについて、私見を示します。


市場に出回っているAI教材についての私見

現在市場に出回っているいわゆるAI教材は(実際には人工知能ではないのにAIと言い張っているものも含めて)色々な種類が出てきています。


単なる映像授業や、点数をグラフ化するだけのシステムもAIと呼んでいるものがあったりもします。

「AI」と言えば中身はどうあれ売れるのかもしれません。


学習サポートしてくれるAIがやってくれること


学習サポートをしてくれるAIは、主にアダプティブラーニング(Adaptive learning)を行ってくれます。

簡単に言うと、「個人個人の学力に合わせて学習内容を提供すること」を指します。


AIが生徒一人ひとりに問題を出し、その問題が解けたか解けなかったかを記憶し、その正誤によって次に出題する問題を選択してくれます。


つまり、問題に間違えると、「これができないということは、一つ前の単元のここもできないかも」ということで、AIが少し簡単な問題、または一つ前の単元の問題、さらに基礎に戻った問題などを出してくれます。


逆に問題に正解していけば、どんどん先の範囲や難しい問題を出してくれます。できないところまでくると、それ以上むやみに難易度を上げたりはしません。


AI教材は知識を覚えることに特化したシステム


このシステムは個人的には、知識を覚えるには素晴らしいシステムだと思います。


AIが出す問題をひらすら解くモチベーションさえあれば、問題をこなせばこなすほど、AIがこちらの得意と苦手を理解していってくれて、絶妙に苦手な問題を出してくれるようになるからです。

非常に効率良く勉強することができるようになります。

※繰り返しますが、AI教材と謳っているものすべてがこのシステムを備えているわけではありません。



***


一方、個人的にこのAIの学習システムを学習塾が安易に導入するのは、そこに通う高校生にとって、長期的にはかなりリスクが高いと考えます。



■AI教材のリスク①:自分の頭で考えられない大学生がうまれる

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AI教材で勉強した高校生が大学に上がると、自由度の高い大学生活を有効活用しきれない可能性が高いと考えます。

そう考える理由を書いていきます。


勉強で試行錯誤できない高校生が、大学に上がっていきなり試行錯誤できるはずがない


AI教材のサポートによって、高校生は「次にどんな教材をどのように勉強すればいいか」を一切考える必要がなくなります。


AI教材で受動的に勉強して学力だけを身につけた高校生が、大学に入った瞬間、自分のやりたいことに向かって行動なんてできるはずがありません。

高校生のうちから、それに近い行動をしていないと難しいのは明らかで、「好きなことをしていいよ」と言われていきなりそれに向かって自分で努力できる人はごく少数です。


大学受験に真面目に取り組むと習得できる能力


大学受験によって習得できる学習プロセスとして、勉強して、その結果を振り返り、改善点を考えて、それを実行する、という試行錯誤(社会人的にはPDCAサイクル)を学ぶことができます。

AI教材をつかうと、この試行錯誤を全くしないまま、大学受験対策をすることになります。

AI教材に頼り切った勉強をすることによって、試行錯誤する経験を奪われてしまいます。


「一旦いい大学に入って、それからやりたいことをやる」なんて甘すぎる


「一旦いい大学に入れればそれでいいです」
という反論があるかもしれません。

目標があればまだしも、試行錯誤する力を捨てることは「とりあえずいい大学に入るため」に払う代償としては大きすぎると考えます。


遊ぶだけの大学生活を送る大学生がまだまだ多いのは言うまでもありません。

「明日から本気出す」が信用できないのと同じように、「大学に入ったらちゃんと目標を持とう」という気概だけでは、どうにもならない類の問題だと考えます。



さらに言えば、大学受験の他に、本気で試行錯誤する経験ができる機会は何回あるでしょうか。

受験以外に真剣に頑張っているものがあれば、試行錯誤する力は身についているかもしれません。

しかし、本気で取り組んでいるものがない高校生は、大学受験を逃すと、就職まで、もしくは就職後も、試行錯誤する機会を持つことができません。

つまり、自分の頭で考えられない、今社会が求めている人材と真逆の社会人になる可能性をはらんでいます。


以上により、AI教材で勉強した高校生は、自分のことを振り返ることができない試行錯誤できない人間になる可能性があると考えます。



■AI教材のリスク②:試行錯誤しない指導者がより一層増える



AI教材を塾や学校に導入することによって、高校生の周囲にいる大人、つまり現場の学校教員や講師が、試行錯誤しない人になっていく可能性もはらんでいます。


これは教育分野だけに関わらず、AIを利用する人間に関する議論でもよく出てくる論点ですが、


AIが学習をサポートすると、AIの見解を絶対視してしまい、講師はその生徒のことをよく知らないまま「頑張れ」とか「いい調子」とか声がけしてしまうでしょう。


本当は自分のこと何もわかってないのに、「頑張れ」とか言ってきて、、
なんだこの人は

高校生はこのような思考に一瞬でたどり着きます。どれくらい自分のことをわかった上で話してくれているかは、高校生はしっかり感じることができます。


それ以上に、AIの結論で高校生を決めつけてしまい、本人の声に耳をかさなくなってしまうリスクもあります。


AIに頼り切って思考停止になる人間がわかるドラマ


AIの見解を絶対視してしまうことの問題点として個人的にわかりやすいと思っているドラマがあるので紹介させてください。

ドクターX~外科医・大門未知子~ のシーズン6


このシーズン6では、AIを信じ切って思考停止している医者がたくさん出てきます。

AIがそう判断しているし、自分もそう思う、だから他の検査はしない、他の術式の可能性は検討しない

こんな流れになります。


あまり言うとネタバレになるので控えますが、AIが間違った判断をしているわけではありません。

AIがはじき出した結果を人間がどう解釈するかがいつも問題になります。


※当然ですが、AIによってこれまでミスばかりで組織のお荷物だった医者のミスが減ったりすることもあると思うので(その事例はドラマには出てこない)、このドラマだけを見て「AIはやばい」と決めつけてはいけないと思います。


AIの結果を疑えない指導者がいるとすると、その人は「自負や覚悟がない」以外の理由も考えられる


AIの結果を上手に活用しようとすると、少なくとも、指導者自身の生徒に対する見解が必要になります。


仮にそういった見解を指導者が持っていたとして、AIがはじき出した結果を目にすると、簡単に自分の見解をひっくり返してしまう場合も多く起こると予想できます。

これは簡単に言えば、「AIが出した結論を信じること」を、指導者自らが自分にそうしむけている可能性もあります。


この説明のために、最近になって提唱されている「構成主義的情動理論」でこの事例を捉えてみます。


この本では、

気分:運転手
理性:乗客

と例えられています。

今回の事例に当てはめると、AIを信じている指導者は、AIが正しいと思えるように理性を働かせます。

外部から情報を感じ取って、理性的に判断しているのではなく、気分が理性をどう判断させるかを決めているという考え方です。


例として、

ゴキブリが好きな人は少数かもしれませんが、ゴキブリが好きな人は、ゴキブリを見ると喜びますが、嫌いな人(自分はかなり苦手です)がゴキブリを見ると、必要以上に騒いでその場からできるだけ離れます。

ゴキブリがどのように動こうとも、上記のように人によって反応が異なるのは、ゴキブリに対するイメージが個人個人異なり、大雑把に言えば、ゴキブリを見たらどういう反応をするかを個々人がある程度決めているからです。


まとめますと、自信や覚悟がない指導者はAIの結果に頼り、むしろどんどんAIを信じる方向に考えるようになり、AIを信じて疑わなくなってしまう状況が容易に想像できます。


こうした指導者とAIによって、今以上に決めつけ教育が行われます。


***


以上が、個人的に考えているAI教材に対するメリットとリスクです。


■最後に、AI教材を導入している塾に対する私見


知ってか知らずか、AI教材を導入している塾は

明確に

「試行錯誤できるようにならなくていいから、ただ受験に受かればいい」

というスタンスであることの証明であると考えます。


当然ですが、厳密にはAIの使い方によって方向性や、その塾が目指すビジョンは異なると思います。


しかし、AI教材の機能を知っていれば、高校生や浪人生にどんな影響があるかは、現場の肌感覚を持った良い先生ならすぐに分かることだと思います。


それでもなおAI教材をメインの学習システムとして導入する(積極的にアピールする)塾があるとすれば、その塾は「試行錯誤する力を育てずに、学力だけ上げて受験に合格させよう」というスタンスの塾であることを証明してくれています。


ビジネス的には売上が予測しやすくなったり、生徒が増えても管理が楽になったりするので、塾が採用するのは納得です。


しかし、高校生が受験を経て大学に入学することまで考えると、AI教材に頼り切りの勉強では、大学入学後、もっと言えば今の社会で必要とされている人材から遠のきます。

(言うまでもなくパラリアは、試行錯誤の力にすべてを捧げた塾です)


そういったAI教材のリスクを知らずに、AI教材に頼った学習を提供している学校や塾があるとすると、こんなに罪深い教育の場はありません。

個人的には、何も知らずに「気持ちよくなるよ」とドラッグを勧めているのと何ら変わらないとさえ思っています。



最後にまとめますと、


・AI教材そのものは結構すごい。効率よく勉強できる
・AI教材に頼り切りの勉強は、考えない人間になる最高の手段
・AI教材のリスクを知らずに学習の機会を提供する指導者や教育機関は罪深い



今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


=書いた人=


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