増税の前にやるべきことがあるだろう!

10年ひと昔である。

10年ひと昔だと本当に感じる。

現参議院議員、元内閣府特命担当大臣、渡辺よしみ氏の10年前の記事がまだ残っている。おそらく今こんなことをブログにすれば、嘲笑されるのではなかろうか。

”難問山積の日本で、国会は民自公談合により閉幕させられた。ボーナス給料は国会議員も国家公務員も全額マル取り。みんなの党の議員歳費3割カット・ボーナス5割カット法案、及び、国家公務員給与2割カット法案は廃案となった。”

10年前、国家公務員の給与を減らすのは当たり前のように政治家が掲げていたが、10年後、今度は「まともに残業代を払ってないのはおかしい」と現役大臣がいうようになった。国の債務状況は悪化しているのに、公務員給与について言っていることは全くの正反対だ。

もともと、国家公務員給与は自衛隊を含め精々5兆円、マクロレベルでインパクトがあるほど削ろうと思うと、2割とか尋常じゃないレベルの削減をしないと追い付かない。地方公務員の人件費は全部で20兆に及ぶが、それでも合計25兆円。2割削減して、ようやく消費税2%分。とても追いつかない。

だから、渡辺よしみ氏はこう続ける。

”役人のヘソクリを吐き出す(国債整理基金特会10兆円、労働保険特会5兆円他)。不要資産を売却する(公務員住宅1.8兆円、JT・NTT・JR・日本郵政株など15兆円)。”

「へそくり」と称される特別会計は、もちろんストックであり、フローではない。労働保険特会の積立金は失業保険の原資であることは言うまでもない。そしてコロナですでに底をついた。

”歳入庁を作り、法人データーベースを国税と日本年金機構が共有すれば、80万社の取りっぱぐれをなくして、厚生年金保険料と医療保険料で10兆円増収。”

”社会保障番号・納税者番号を作れば、所得税で5兆円増収。消費税に税額を記載した送り状(インボイス方式)を導入すれば、これまた取りっぱぐれの3兆円が増える。”

歳入庁は現時点で存在しないので、厚生年金保険料と健康保険料の未払いが本当に10兆円相当もあるのかは分からないが、年金、国保、協会健保、介護、雇用、保険料収入がある保険全て合わせて年間75兆円、このうち事業主負担はおおよそ半分なので35兆円強。もし未納が10兆円なら、未納率が20%に近い計算になる。事業主負担がされない以上、サラリーマンの5人に1人は無厚生年金、無医療になるのだが、本当だろうか。また、マイナンバーが制度ができて早数年、所得税が5兆円増えた話は寡聞にして聞かない。

”復興対策や景気対策で20兆円に及ぶデフレギャップを解消し、日本銀行が供給マネーを50兆円増やせば、円は100円台に戻り、2年以内にデフレ脱却、空洞化も回避できる。”

これは本当にやった。確かに円は100円台に戻った。空洞化も以前より聞かなくなった。でも、デフレギャップはまだ依然として存在し、デフレではない状況は作り出せても、もうデフレに戻らないという意味での脱却はできていない。こればっかりは、もうやってみないと分からないものだけど、、

10年前、大臣まで勤められた方が、正直、荒唐無稽な数字をネットにのせて、「公務員給与削減」と叫んでいた。別に削減することが悪いわけではないのだ。公務員の給料なんて、どの国でもフレキシブルに削減されている。アメリカは予算とおらず公務員が無給休職になるし、Strait Timesによると、シンガポールでは2020年、コロナの影響で去年の夏・冬ボーナスなしだったという(低所得の公務員には別途特別手当を支給)。

でも、「一律2割削減」とか「定員削減」等をスローガンに掲げ、ろくに財政的インパクトもないのに政治的コストをかけて一部実現して、それで10年後に、過重労働が原因となって新人に敬遠されるようになり、「やはり公務員にも優秀な人材が必要だ」「通告を早くすべきだ」と叫びだす。あまりにも近視眼的すぎるんじゃなかろうか、、

「何を解決したいのか」「それをどう解決するのか」を考えるときに、その手段の1つとして人件費削減は当然、選択肢にあるべきだ。でも、結局そもそものインパクトが小さいことは誰の目にも明らかで、わざわざ労働基本権と憲法との兼ね合いまで引っ張り出してコストをかけて、それで乾いた雑巾を絞って、その雑巾があまりにカラカラになったときに、「ちょっとやりすぎちゃった」というのは、ちょっとアホなんじゃないだろうか。

でも10年前、確かにこういう雰囲気はあった。政治家は国民の雰囲気に極めて敏感だ。特に自民党は、地元の後援会を通じて、世間の雰囲気、世情を事細かに把握する。政治家は国民の気持ちを映す鏡であって、その気持ちを必ず国政に生かす。それが不合理なものであったとしても、少しの現実味を添えて、国民の気持ちを制度にする。

そうすると、10年後、国家公務員はどんな声をかけられているのだろう。願わくば、時間外労働が本当に減少して、働き方が変わって、志望者が増えて、「この財政状況で、残業も少なく、給料も人並み以上、こんなに恵まれてる国家公務員は削減すべきだ」といった言説が広がるくらい、今と変わってればいいなと思うけど、まぁ有り得ないだろうな。