【見返したい名試合】2021年最終戦 アブダビGP

記憶に新しい、劇的な幕切れとなったシーズン。

ホンダのPU(パワーユニット)を搭載したレッドブルを駆るマックス・フェルスタッペンが初のチャンピオンを獲得した。

ホンダにとって、これ以上ない有終の美となった。

ただ中継を見ていた僕は、ハミルトンがチャンピオンだろう…と半ば諦めに近いような心持ちだった。

それくらい、レッドブルとホンダにとっては勝ち目がないように見えた。


それが結果として、フェルスタッペンが優勝を飾り、ドライバーズタイトルを勝ち取ったのだから、レースというのは本当にわからない。


1%を掴むために

このレースは、ハミルトンとメルセデスチームが支配したレースだった。
そして、楽々優勝できるパフォーマンスを持っていた。

それくらい、フェルスタッペンには勝ち目のないレースだった。

レースペースを見ても、フェルスタッペンとハミルトンの差は大きかった。
見ている側としては、「これはハミルトンがチャンピオンだな…」と感じててしまうのも無理はなかった。

まさに99%以上、ハミルトンのチャンピオンが約束された展開。

しかし、レッドブルチームは一丸となって、7度のチャンピオンに立ち向かった。
VSC(バーチャルセーフティカー)が入った際にタイヤを交換し、新しいタイヤでハミルトンを追う。
そして、タイヤ交換を遅らせていたペレスが鬼神の走りでハミルトンを抑え込み、フェルスタッペンをハミルトンに近づけさせるためのチームワークを見せた。

レッドブルは、不測の事態に備えてできることは全て行っていた。
僕にはそう見えた。

可能性は0%でない。1%くらいはあるかもしれない。
その1%を掴むために。


そして、その瞬間は訪れた。


残り8周。ウィリアムズのラティフィのクラッシュによりSC(セーフティカー)が入る。

フェルスタッペンはピットに入り、ソフトタイヤへ交換する。

対するハミルトンは、トラックポジション優先のためステイアウト。
40周近く走り続けたハードタイヤで、最後まで走ることを決めた。

このときの両車のタイム差は絶妙だった。
メルセデスチームは、ハミルトンをピットインさせるには微妙なタイム差だったためステイアウトを選択せざるを得なかった。
レッドブル陣営は、SC解除を見越して最後のアタックができるようフェルスタッペンにタイヤを交換させたのだった。

コース上にはマシンの残骸、オイル処理でしばらくSCランが続きそうだった。

周回数的にこのままSCでチェッカーか、もしくは赤旗で再開か…

その矢先、ハミルトンとフェルスタッペンの間にいた周回遅れのマシンはSCをオーバーテイクするよう指示が出る。

そして、矢継ぎ早にSC解除がアナウンスされる。

残り1周というタイミングでレース再開。

車列はレーススピードで走り去る。
どのクルマも、一つでも前の順位でフィニッシュするために。

5コーナーに差し掛かったところで、フェルスタッペンがハミルトンのインに飛び込む。

フェルスタッペンがトップの座に立った。

観客から凄まじい声援がこだまする。

ハミルトンはストレートで抜き返そうと追い縋るが、タイヤの差は大きかった。

フェルスタッペンはハミルトンの猛攻をしのぎ、トップでチェッカーを受けた。
そして、史上33人目のワールドチャンピオンが生まれた。


無理かもしれない。でも、やれることはやらなければ何も変わらない。やってみなければ、先のことは分からない。

結果として、レッドブルチームは、1%の可能性を信じ、そして掴み取ったのだ。


歴史は繰り返す

2008年。ハミルトンは絶望的な状況から、ファイナルラップで初のチャンピオンを掴み取った。

2021年。51周目までチャンピオンを約束された走りを見せながら、ファイナルラップで8度目のチャンピオンの座から滑り落ちた。

そして、チャンピオンを獲得したのはフェルスタッペン。
絶望的な状況から、ファイナルラップで初のチャンピオンを掴み取った。

こんな因果なことがあるのだろうか。


肩を落とすハミルトンと慰める父親のアンソニーを見て、2008年の時のマッサと重なって見えた。

そして、フェルスタッペンが父親のヨスと共にチャンピオンになった喜びを噛み締めていた様子は、若き日に初めてチャンピオンとなったハミルトン親子のようだった。


15年以上F1を見続けてきた僕は、立派な歴史の目撃者なのかもしれない。

「歴史は繰り返す」瞬間を、この目に見ることができたのだから。



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