2分の1の魔法

ほどよく時間が空いていたのと丁度いいタイミングの上映があったので、大した期待も無いまま視聴。ピクサーだし大外れはないでしょう。


とんでもねぇ作品だった!!!!!!!!!

今回の2分の1の魔法にはどう考えてもキャッチーさが足りてない。リメンバー・ミーみたいな鮮やかさとか、トイ・ストーリーみたいな愛らしさ、モンスターズインクみたいな好奇心、好奇欲とか、いろんなものが欠けてる。だからきっと見る前の私と同じように「まぁ、見なくてもいいかな」って思う人が絶対に多い。見るとしてもそこまでの期待を描いて劇場に足を運ばない。

そんな宙ぶらりんな気持ちをとても気持ちよく裏切ってくれる作品だったーーーー!わーーーやられた。個人的には最近見た中で1,2を争う名作だった。

細やかな伏線を一本にまとめていくさまが本当にお見事としか言いようがない。積み上げた経験をクライマックスに生かし、ラスボスを倒す。冒険物として主人公への描写も綺麗に描き切られている。丁寧な王道ファンタジー、でもクライマックスはそれを覆すとんでもないものだった。

イアン(主人公)が生まれる前に亡くなってしまった父親。一度でいいから父親に会いたいと願い、その為に山を越え、川を越え、過酷な旅をしてきた結果、それは報われずに終わる。父親に会えたのは兄のバーリーだけ、どこまでも感情移入させられて、視聴者がさんざん応援していた主人公は、クライマックスシーンで岩の隙間から彼方で抱擁する兄と父親を眺めるだけに終わる。
結局つまりこのお話はバーリー(主人公の兄)の物語だった。冒頭から、母親は新しい恋人を見つけている。イアンは気弱な青年で、思い通りに振舞えているとは言い難いけど、きちんと大学に通い、ちゃんと未来を見ている。過去に縛られて、動けずに立ち止まってしまっていたのは、バーリーだけだった。病室でチューブに繋がれた父親を見るのが怖くて、逃げ出したバーリーは、あの日からずっと病室に囚われたまま。それを解き放つまでのストーリーだったんだな、っていうのが最後の最後に、やっとわかる。

イアンには確かに父親の記憶がない、でもその代わりはずっとバーリーが務めてくれていた。0の記憶を1にするのではなく、あと1足りないバーリーの記憶を最後10にするために「父親に会う権利」を譲るイアンが本当に最高で素敵だった。

飛び方を忘れたマンティコアもピクシーも、劇中で昔の栄光を思い出してはばたくようになる。イアンとバーリーも失った父親を捜して旅にでる。

過去の栄光に縋るように、昔はよかった、魔法があったころは、父親が生きてた頃はって、暗に回顧に滲むメッセージを、前を向いたイアンがバーリーの背中を押したことによって断ち切る。温故知新を奥底に込めた本当に素敵な映画だった……。

大ヒットしなくていい。ただこれもまた必要なひとのもとに寄り添うような映画になっていってほしいなーとか勝手なことを思います。