民事系第3問(民事訴訟法)

[設問1]
1.課題1
 Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決ができない場合にはどうなるか。立退料は更新拒絶(借地借家法6条)における正当事由を基礎づける事実であり、立退料が増額されXがその額を支払うことができない場合には、「正当事由」をみたさず、更新拒絶を行えない、つまり更新拒絶に基づく建物収去明渡請求が失当しなり、「請求棄却。」となる。
 そして、Xの申出額と格段のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決ができる場合には、その額の支払いと建物収去明渡の引換給付判決となる。
 請求棄却判決をする場合には、原告の合理的意思に反するとの問題がある。原告としては、立退料を支払ってでも、土地の明渡しを望むことから建物収去土地明渡請求をするものである。とすれば、原告の合理的意思としては、全部棄却判決よりも質的一部認容判決としての引換給付判決を望んでいると考えられる。請求棄却判決はその意思に反することになる。
 したがって、全部棄却判決ではなく、引換給付判決をすべきである。実際に、本件のXは、立退料の金額にこだわりがなく、立退きを強く望んでいるという意思に沿うものである。
しかし、昭和46年判決が言う「格段の相違のない一定の範囲」を超えて立退料を増額するという引換給付判決を行う場合には、X自体の請求は認められることになるが、予期しない立退料負担を強いられる。その額について原告に不意打ちとなるおそれがある。
 そこで、原告がそこまでの立退料の増額を予期しているか等について、裁判官は釈明(民事訴訟法(以下略)149条1項)すべきである。
 そうすることで、原告への不意打ちを防ぎ、引換給付判決が可能である。
2.課題2
 Xの申出額よりも少額の立退料の支払いとの引換給付判決をすることはできるか。処分権主義との関係が問題となる。処分権主義とは、訴訟の開始、訴訟物の選択、判決によらない訴訟の終了を当事者に委ねるとするものである。
 Xの申出額よりも少額の立退料を認定することは、Xに有利であるもののXの選択した訴訟物に反しないか。
 もっとも、Xの選択した訴訟物は賃貸借契約の終了に基づく建物収去明渡請求権であり、立退料は、更新拒絶の正当事由としての反対債務の申出といえる。つまり、それ自体が訴訟物を構成するわけではない。
 したがって、Xの立退料の申出額よりも少額として認定しても、処分権主義に反するわけではなく適法である。
 しかし、一応は訴訟開始時点において原告本人が申し出ている額であり、当事者尊重の観点から、原告の意思を尊重する必要がある。そこで、口頭弁論期日における当事者の陳述等に基づき、原告本人が申出額より少額を立退料とすることを許容している場合には、少額を立退料として認定できるとすべきである。
 本件では、Xは第1回口頭弁論期日において1000万円という申出額に強いこだわりがあったわけではなく、それは早期解決の趣旨で若干多めに提示したものとした上で「より少ない額が適切であると思っております」と述べた。X自身も申出額より少額の立退料負担を望んでいるといえる。
 したがって、Xの申出額である1000万円よりも少額の立退料の支払いとの引換給付判決は許される。
[設問2]
 本件においてZが訴訟承継(50条1項)したといえるか。「承継(50条1項)」について問題となる。
 訴訟承継制度の趣旨は、紛争の実効的解決、既判力の及ばない者に対して係争物等を移転する等の法の趣旨を潜脱する行為の防止にある。仮に、義務承継人の訴訟引受け(50条1項)等の規定が無ければ、敗訴が見込まれる場合に、誰かに係争物等を移転してしまえば、判決の執行力を無意味にすることが可能となってしまう。そのような法の潜脱行為を防止し、民事訴訟における紛争の実効的解決のために同規定が存在する。
 そして、「承継」にかかる議論については、既判力の主観的範囲における「承継人(115条1項3号)」の議論と共通する。そのため、議論を参考にする。
 上述の趣旨及び上述の議論を鑑みれば、「承継(50条1項)」の対象を、訴訟物に限定してしまえば、法の潜脱行為を防止することはできず、上述の趣旨に反する。
 また、当事者適格とする場合も限定し過ぎるため、上述の趣旨に沿わない。したがって、承継の対象を「紛争の主体たる地位」と考えるべきである。
 本件訴訟は賃貸借契約終了に基づく建物収去土地明渡請求であるが、土地上に築造した本件建物をZに賃貸している場合、Zに「承継」したといえるのか。
 Zは土地上の建物を賃借しているに過ぎないが、建物収去土地明渡義務は、土地上の建物を賃借している者に対する明渡も包含しているものといえる。
 したがって、「係属中(50条1項)」である本件訴訟について、訴訟の目的たる建物収去土地明渡しの「紛争の主体たる地位」の「一部(50条1項)」を「承継(50条1項)」したといえる。
 したがって、Xが申立てをしており、裁判所は第三者たるZに本件訴訟を引き受けさせることができる(50条1項)。
[設問3]
1.課題1
 XはY自身が本件新主張をした場合に、時機に後れた攻撃防御方法として却下(157条1項)を主張する。
 まず、Yは被告であり「当事者」である。そして、①「故意又は重大な過失」とは、攻撃防御方法を後れて提出し、訴訟を遅延することについての認識であるところ、Yが最終期日に本件新主張をした場合には、それまでの訴訟における過程において出せたはずであり、最終期日に本件新主張をすることは後述のとおり、訴訟の遅延を招くことが明らかであり、故意があり、少なくとも重過失が認められる。
 ②「時機に後れて」とは、適切な提出時機に後れることをいうが、最終期日に提出することは適切な提出時機に後れているといえる。
 ③「攻撃防御方法」について、本件新主張は更新拒絶の正当事由の評価障害事実であり、抗弁といえ、攻撃防御方法といえる。
 ④「訴訟の完結の遅延」とは、当該主張をしない場合に比べて訴訟完結が遅れることをいう。本件新主張をすれば、本件通帳の審理や、Aの証人尋問等を行う必要があり、BからAに対しての1500万円の性質が更新料の前払的性質を有するか否かについての攻防が繰り広げられるため、本件新主張がなされない場合に比べて、訴訟の完結が遅延する。
 ⑤③と④に因果関係が求められるが、本件新主張により、訴訟完結が遅延することが明らかであり因果関係が認められる。
 また、本件訴訟は弁論準備手続(168条以下)を行っているため、本件新主張を、弁論準備手続終了後に攻撃防御方法を提出した理由について、終了前にこれを提出することができなかった理由の説明を求めることができる(174条、167条)。XはYに対して本件新主張を弁論準備手続終了前に提出できなかった理由の説明を求めることで、時機に後れた攻撃防御方法として却下されることが容易になる。
 したがって、裁判所は時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである(157条1項)。
2.課題2
 Zの立場としては、仮にYとの関係で、本件新主張が時機に後れた攻撃防御方法(157条1項)として却下される場合であっても、手続保障の観点からZが主張しても却下されないと反論する。
 時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)は、あくまでも、本来は早く提出できた主張について、故意又は重過失によって提出が後れた者への制裁的規定と考えられる。
 とすれば、訴訟を引受けた(50条1項)者がいる場合には、その者については被承継人とは別に判断すべきである。なぜなら、そうするのが、承継人への手続保障に資するからである。
 本件では、Zが本件訴訟に参加できることになるのは、最終期日前であった。つまり、本件訴訟において、Zが独自に主張ができる機会は最終期日のみということになる。
 Zが本件新主張を最終期日に行うことについて、Zのみで判断されるため、時機に後れた攻撃防御(157条1項)として判断されることは無い。
 したがって、Y自身が本件新主張をしたら時機に後れたものとして却下される場合でも、Zとの関係では却下されない。
 以上のようにZは反論する。
以上。(3311字。)


再現度 80%
時間:1時間55分
・設問1は難しかった。引換給付判決という文字を見た瞬間は多少安心したが、中身は良く分からないものだった。設問1の課題1はほとんど民訴の議論をしていない。
・問題を解いているときの主観としては、設問1は、一部請求における、原告の明示額を超える判決の可否、明示より少ない判決の可否とパラレルだとは思った。
・既判力が問題になる(?)のは気づかなかった。
・設問2は、訴訟承継云々の議論は勉強した記憶もあまり無いため、わからなかったが、既判力の主観的範囲の議論が降ってきたので、それに基づいて「紛争の主体たる地位」に沿って書いたら、間違っては無いらしい。
・設問3の課題1の弁論準備手続終了後の新たな攻撃防御方法の提出の際の理由説明は、全く知らなかったが、条文を探して気づいた。
・設問3の課題2について、実は自分は「Xの主張→Zの反論」を書くべきところ、「Zの反論」しか書いていない。見落としてしまったため、設問3の配点の4分の1?(10点)?が白紙ということになる。残念。
・設問1はいまいちだが、設問2と3は「ふってきた」ところがあったので、全体としては最低限は書けたのではと思う。

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