民事系第1問(民法)

[第1問]
1.請求1
 Aは工作機械甲の所有権に基づく返還請求権を行使している。要件は①自己の所有、②他者の占有である。①について、Aは自己の甲に対する所有権を主張する。②について、現にCが甲を占有していることを主張する。
 それに対して、㋐として、Cは自己が物権的請求権の相手方ではないという反論をし、上記請求が自己に対して請求できないことを反論する。Cとしては、甲をDから借りており代理占有者(民法(以下略)181条)として、物権的請求権の相手方にならないと主張する。
 ㋐の反論について検討する。物権的請求権は所有権の円満な行使に対する妨害が発生していることについて、その妨害を各態様に応じて除去する所有権の権能である。
 物権的請求権の相手方については、所有権の円満な行使を妨害していれば、代理占有者であっても該当することになる。
 したがって、本件では、Dではなくとも、代理占有をしているCに対しても行使が可能である。よって㋐の反論は失当である。
 次に、Cとしては、請求1に対して、占有権原の抗弁を行う。占有権原としてはDから甲を借りていることを主張するが、それにはDが即時取得(192条)により、甲を取得していることが前提となる。
 即時取得(192条)の要件は(1)取引行為により(2)平穏、公然と(3)動産の占有を始め(4)善意(5)無過失である。
 (1)Dは、Bより代物弁済として甲を受けており取引行為といえる。(2)平穏かつ公然な態様であり、(3)Dは甲がBに属すると信じており、(4)甲には所有者を示すプレート等なく甲が他の所有者であることを示す不審事由等がなく、Dは無過失といえる。
 そこで、Aは上記(3)について㋑指図による占有移転では即時取得(192条)はできないと反論する。BからDへの甲の所有権移転は、BがCに対して以後Dのために占有することを命じる、指図による占有移転(184条)である。これは「占有(192)」とはいえないと主張する。
 ㋑の主張の当否について検討する。たしかに、占有改定(183条)は、現実の占有を伴わないとして即時取得における「占有」とはいえない。しかし、指図による占有移転(184条)をもって即時取得することは可能である。したがって㋑の主張は失当である。これにより上記要件の(3)もみたす。
 さらに、Aは仮にDによる即時取得が可能としても、㋒甲が「盗品」として盗品回復請求(193条)を行う。甲は「盗品」であり、Aは盗難の「被害者」であり、盗難にあった令和2年4月10日から、同年10月15日は「2年」以内である。したがって、「占有者」たるDまたはCに盗品回復請求を行使できる。
 ㋒の主張の当否について、各要件を充足し、Aによる盗品回復請求は認められる。その上で、DまたはCは、代価弁償請求(194条)を主張するも、DはBから購入したのであり、「競売もしくは公の市場(194条)」で購入したとはいえず、主張が失当となる。
 したがって、請求1については、Aによる盗品回復請求(193条)が認められ、CはAに甲を返還する必要がある。
2.請求2
 Aとしては令和2年5月1日から返還までの甲の使用料返還請求を行っている。この性質は、不当利得返還請求(703条)と認められるが、この行使は認められるか。
 また、上記のとおり、甲の所有権をめぐる訴訟ではCは敗訴することから、訴え提起時から、悪意の占有者とみなされる(189条2項、190条1項)。
 したがって、Aが主張する起算点である盗難時である令和2年5月1日からの使用料返還は認められないが、訴え提起時である令和2年10月15日から返還時までの使用料の返還は認められる。
 したがって、請求2については一部について認容されることになる。
[設問2]
(1)契約①は、「乙検定の合格者数に応じた成功報酬を支払う」とする契約であり、合格を請負うとすることを約しており、契約の性質が問題となる。
 しかし、契約の基本的性質は、Eによる、乙検定のための出張講座を行うことであり、内容としては、準委任契約(656条、643条)であると考えられる。なぜなら、Aが負っている債務は、講座を行うことであり「法律行為でない事務」だからである。
 そして、債務の性質としては、結果債務ではなく手段債務と考えられる。したがって、Eが債務に対して、尽力したと認められれば、履行を果たしたことになる。
(2)ア.請求3
 まず、EはAに対して、8月分の月額報酬60万円の支払いを求めている。それに対して、Aは、Eによる大量の課題や受講生に対する叱責を問題視し、Eの態度に失望していたこともあり、8月分については、Eに求められる債務内容を尽くしていなかったとして支払に応じないと反論する。
しかし、債務の性質は手段債務である。そこで、Eが契約①に基づく、本件債務について尽力していたかを考える。Eとしては、乙検定のための合格させるためのプロとして、Aの従業員を同検定に合格させるために試行錯誤していた。少々、手厳しい面はあったものの、令和3年8月の態様を見れば、Eは乙検定についての講義をするという債務を果たしており、十分に尽力していたと認められる。したがって、Aによる反論は失当であり、AはEに8月分の報酬60万円を支払う必要がある。
 また、Eの報酬請求を委任契約の割合的報酬請求(648条3項)と構成した場合に、Aは、Eに過失があった(648条3項1号)と主張すると考えられる。
 Eの過失の有無について、EA契約の解除の原因は、コミュニケーションミスや、やり方の違いを原因とするもので受任者たるEに原因があったとはいえない。したがって、Aの反論は失当である。
 したがって、Eは委任契約における割合的報酬請求(648条3項)によっても、既に履行した令和3年8月分を請求できる。
イ.請求4
 Eは9月・10月の報酬についてAに請求できるか。請求の根拠は損害賠償請求ということになる(415条1項)。令和3年8月31日に解除されている。もちろん、当初の計画では10月までの予定であった。しかし、令和3年8月をもって解除されてしまっており、その後はEは働いているわけではない。したがって、9月・10月分はAに対して請求できない。
 そして、Eが支出した40万円については、それ無しでは、Eが委任事務たる講師業務に専念できなかったといえるため、「委任事務を処理するのに必要と認められる費用(650条1項)」といえる。
 したがって、EのAに対する、40万円については費用償還請求(650条1項)として請認められる。
[設問3]
(1)Fについて、本来であれば催告の抗弁(452条)や検索の抗弁(453条)を行使することが考えられるが、Fが締結したのは連帯保証契約(436条以下)であり、特則(454条)により、これらの抗弁を行うことはできない。
 したがって、FはHの支払請求を拒むことはできない。
(2)FがHに300万円を支払い、残りの200万円につき、HはFに対して支払を免除している。
 この点、Fは支払免除を受けており、主債務者Aや連帯債務者Gに対して、自己が支払った300万円の全額を求償(459条1項)できないのではないか問題となる。
 しかし、更改や相殺や混同を除き、連帯債務者の1人について生じた事由については、相対的効力となるのが原則である(441条)。そして、債務の免除については、445条について明文化もされている。
 したがって、免除は債権者と連帯債務者との別段の意思表示が無いかぎり(441条2項)、相対的効力となる。
 本件では、Hがした200万円の免除について、F・H間で別段の意思表示が無い。したがって、200万円の免除はFとの間のみで効力を有する(441条1項)。
よって、FはA、Gともに300万円を求償することができる(442条1項)。
(3128字。)


再現度75%(設問2が覚えていない部分があった。)
時間:2時間
・設問1の㋐は答え方を少し間違えたかなと思う。単純にCはDが即時取得したということを反論していたのだと、再現を書きながら気づいた。とはいってもその後書いてあるので、大きなミスではないかな、とも思う。
・設問2は648条3項1号の使い方が誤り。割合的報酬請求について、改正後民法では受任者の責め〜という規定ではなく、委任者の責め〜という規定になっている。
・設問2は書けているわけではないが、無難な感じかなと。解きながら思っていた。
・設問3は相対的にも、書けていない方だと思う。設問3(1)はほとんど何も書けなかった。(2)は免除の相対的効力だけ拾えた程度だった。
・民法答案作成に際して、パラパラと問題を見ながら作戦を練った。作戦としては、設問1はパラパラ見た感じ、殆ど分かる問題だったので設問1を厚く書き、配点35点をほとんど得点できれば、設問2は、色々と考えて書けば合計50点はいくのではないのかと、現場で判断した(配点40の設問3は時間をかけても高得点は望めないと判断した)。
・概ね作戦どおりいったと思う(配点40点の設問3は15点ぐらい取れれば良いと思っていたが、そこまで取れているかは不明。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?