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今年のナポリを表す漢字一文字は「変」であることに気付かされたリヴァプール戦 その1


【変化】【異変】【変幻自在】【変貌】【可変】
【変革】【変節】【不変】【変遷】【変則】
【変調】【臨機応変】【一変】

昨年の暮れに行われたアンフィールドでのリヴァプール戦から約1年後
再び同じ舞台に立ったナポリ。
サッリのカラーを踏襲して何とかそこまで戦い抜いてきたアンチェロッティ体制の初年度はアンフィールドでチームの限界を露呈。
スコアこそ1-0で僅差ではあったが、終始ナポリは赤い戦士に圧倒され続け、サッリボールの片鱗すら示すこともできず欧州のトップレベルで戦い抜くには強いプレッシャーに動じないフィジカルが必要不可欠な要素であることを改めて認識させられる試合内容となった。
自分もそうだが試合を見た多くのナポリファンは【変化】が必要だと痛感しただろうし、そのことにいち早く気付いたのはチームの象徴で屋台骨を長年支え続けてきたハムシクで、自分がここに居座り続ければチームの【変革】の足手まといになると判断し移籍の決断をこの惨敗が促したと思われる。

またこの試合はハムシク以外の多くの主力選手たちにとっても、サッリ時代からずっと築き上げてきた自信を打ち砕き、これまでのナポリのやり方では欧州のトップチームには太刀打ちできないことを実感させたのではないかと推察する。

年が明けハムシクが去りミラン戦で2連敗した以降、ファンはチームに起きている【異変】に気付く。
「何か違うぞ、これまでと」
特にアンフィールドで唯一互角に渡り合っていたアランの調子がシーズン後半に入ってからすっかりおかしい。(原因はこちらを参照)

ユヴェントスの独走にさしたる抵抗を見せるでもなく、CL権を得られる4位以内を確保すればいいという覇気の無さ
来季を見据えたアンチェロッティの、とくにインシーニェを巡る試行錯誤はなかなか結果が伴わず、業を煮やしたファンは連日この【変調】について盛んに議論を重ねていく。
やがてこの議論を契機にサッリ時代のやり方こそナポリの生き残る唯一の道だと信じて疑わない勢力と、実績のあるアンチェロッティを信じてチームが【変革】を成し遂げるまで我慢強く待とうという勢力にファンが二分されることに。
このニ派による論争はとうとう長らく共闘関係にあったゴール裏の決別にも繋がって、チームを覆う雰囲気は最悪の状態に。
サッリ支持派の急進的な一部は試合後にカジェホンが投げ入れたユニフォームをスタンドから投げ返すという事件がとうとう起きてしまう。
自分も含めナポリを長年見守ってきた人々からすると、例えチームの調子が悪く野次を浴びせ罵ることはあっても選手本人に直接このようなことをする人はこれまで居なかった。

ファンにこうした【変節】が見られるようになった原因ははっきりしている。
それはボスマン判決以降ファンの意識に【変化】が見られ、それまであったクラブと選手、ファンの関係が希薄になったからに他ならない。
移籍が流動的になったことで資金力のあるビッククラブが有力選手を買い占めたことで起きた勝利至上主義がフットボールシーンを蝕み、移籍による補強で結果を性急に求めるファンが急速に増えてきたのだ。
その逆らえない潮流が家族的な経営でボスマン判決以前に多く見られたファンと選手とフロントによる三位一体のクラブ運営をしていたナポリにも到頭押し寄せたという象徴的な出来事だった。

数字の上では2位という好成績を収めた一年目のカルロ体制。
しかしサッリに見切りを付け、ナポリ史上最もネームバリューのある監督を招聘したからにはサッリ以上の成績を収めないことにはファンも納得しない。
一期目はサッリ体制を引き継ぎ、徐々にカルロのカラーをチームに反映していくシーズンであると誰もが割り切ることができた。
しかし二期目はそうしたエクスキューズはできない。
夏の移籍市場はそうした状況の中で始まった。

まずナポリが最初に獲得したのはエンポリに所属する若手のSBであるディ・ロレンツォ。
多くのナポリっ子は冬の時点で「大型補強」があると明言していたADLの言葉を信じ、この移籍は前触れに過ぎず、これまでもよくある無名の選手を育てていくチーム方針の一環だと感じており、自分もはっきり言って肩透かしを食らわせられた気がした。
しかしディ・ロレンツォの獲得こそジュントーリとアンチェロッティがアンフィールドで足りなかったピースを埋める選手であることが後に判明する。

そしてアルビオルに代わる選手としてマノラスをローマから獲得、メルテンス等前線の選手に年齢的に衰えが訪れることを見越してロサーノを移籍金チーム史上最高額で獲得。
ディアワラとヴェルディがチームを離れ薄くなった中盤を若いエルマスで補強。
しかしロサーノもマノラスもADLが言う「大型補強」だったのかは今後を見てみないことにははっきりしない。
ファンは夏のメルカートの間ずっと誰もが認める大物選手のナポリ入りを夢見て信じていたし、メディアは連日報じていた。
ハメス・ロドリゲスというスタープレーヤーの名前を。

アンチェロッティが獲得に前向きであることを隠さず、ADLが言う大型補強に相応しい選手として、この夏の移籍市場はこの話で持ちきりだったと言っても過言ではない。
そしてハメス・ロドリゲスがナポリに齎すものは何であるかもファンもイメージできていたと思う。
それはサッリの頑迷とも言える一徹な固定メンバーに拘るスタイルから長いシーズンを乗り切るにはどの選手が起用されても【変幻自在】に対応できるようにチームの要としてハメスの独創性やユーティリティ、また決定力を活かそうというものだったはずだ。


結局レアルのチーム事情やジュントーリとの意見の相違もありハメスの移籍は幻に終わり、カルロ体制二期目がスタートする。

【中編】につづく



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