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【感想】ハロルドとモード2022

noteのパスワードを忘れて長期的にログインできなかったのだが、本日天啓があり奇跡的にログインすることができたため、今更ながら、佐藤勝利くんと黒柳徹子さんが主演をつとめた朗読劇ハロルドとモード、東京公演のの感想をnoteにまとめたいとおもう。

なお、お察しの通り2ヶ月以上前の記憶を辿るため、変なことを書いていても気にしないで頂きたい。

悪いのは私ではなく、私の記憶力である。

■ハロルドとモードのストーリー


ハロルドとモードの簡単なあらすじはこうだ。

狂言自殺を繰り返す19歳の青年ハロルド(佐藤勝利)と、79才の破天荒なおばあちゃん、モード(黒柳徹子)は、ある日共通の趣味である「赤の他人の葬式への出席」で出会い、色々あって恋に落ちる。

ここからはネタバレになるので知りたくない方は読まないでほしいが、ラストはこうである。


二人はなんやかんやあって恋人になって、ハロルドは一人燃え盛り、モードの80歳の誕生日にプロポーズをする。
しかし、素敵な誕生日を迎えたその夜、モードはハロルドの前で服毒していることを明かし自殺、ハロルドはこの世に一人取り残される。

ハロルドも後を追おうとするもののーー…すんでのところで一人生きることを選択する、という物語である。


「馬鹿な」


観劇前におおよそのストーリーをきいたらわたしの感想が上記である。

ばかな、そんなことは無かろう。

さすがに己に置き換えても、ありえない年の差カップルだと思うし、正直その年齢差で本当の男女愛が芽生えるとは到底思えない。
例えば、実はモードに5000兆円の資産と潤沢な石油の湧く井戸があると言われれば、

「あー、ね。」

と言えるが、金持ちの息子なのはハロルドの方だと言うし、フィクションとしても受け入れられるか謎であると思った。

が、ところがどっこいである。

観劇の結果、自己の解釈であるが、かなり納得することができた。要因としてはストーリーと、徹子さんと勝利くんの演技力が大きい。
感想を下記にまとめていく。

■なぜハロルドとモードが「恋」に落ちるのか


結論としては、二人の間に芽生えたのは「恋」ではなく「愛」であった、というのが私の感想である。

・佐藤勝利の演じるハロルドの極端な幼さ

佐藤勝利くんの演じるハロルドから受けたイメージは、「幼い」の一言に尽きる。

彼はオタク気質で、幼い頃から、親の望むような理想の息子になれず葛藤していた。学校卒業後は何度も縁談を用意されるが、次々と狂言自殺を繰り返し、破断に追い込んでいく。

美しい見た目とはチグハグに、人との関わりが極端に苦手であり、親からの愛に飢えていることが言葉の端々からうかがえる。

狂言自殺が始まったのも、母親が起因となっている。
かつて、自分に興味のなかった親が、【寮の火事で自分が死んだと勘違いしたときに、ショックのあまり倒れた】というたった一つの成功体験を、単に繰り返しているだけなのである。

狂言自殺を楽しんでいるわけではなく、その根底には親に愛されたいという子供としての飢えがあり、その飢えを理解しない親(常盤貴子)は、子供を理解できない存在として切り捨て、「まともになるために結婚をしてほしい」というエゴで抑圧する。

オタク気質で不器用な青年は、心が子供のまま、時間が止まったように生きているのである。

無邪気な子供じみた佐藤勝利くんの演技が、傷ついたハロルドの幼少期をちらつかせ、彼の悲しみを観劇する我々に伝えてくる。

ハロルドは、それ故、モードに恋をする。

あまりにも自由で、あまりにも勢い任せにいきるモードに、ハロルドは認められない自分の悲しみを写し、焦がれ愛情を抱く。

しかし、それは性愛とは違った愛だとわたしは受け取った。

モードが、変わっているハロルドを受け止めてくれる女性であること。そして、彼を慮る言葉をくれること。この2つに、ハロルドはモードに対して「母性」を感じ、まるで母のように慕うようになっていく。

彼はまだ精神的に幼く、それが母への慕情なのか、恋人への愛なのかを理解できない。

だからこそ、彼はプロポーズに至るまで、モードに清い恋心しか示さないし、喜んでほしいから、とたくさんのひまわりを用意する。

ともに歌をうたい、悪さをするときの、ハロルドの無邪気な顔。

やはり、根のところはあくまでも良いところのお坊ちゃんであり、彼をここまで歪ませたのは、親である。

彼が恋人に用意するプレゼントは、やはりどこか子供じみていてピュアであり、モードもそれを理解している。結婚という言葉も、その延長で簡単に出てきてしまったにすぎない。
背負う覚悟より、喜んでほしい、一緒にいたいという無邪気な感情が先行している。

■モードの悲しみと自殺

モードは文字通り破天荒な女性で、ハロルドは彼女のそんなところに惹かれていく。

だが、作品を通して感じるのは、ハロルドがモードにのめり込めばのめり込むこほど、冷静に逃げていくモードの大人な一面である。

ありがとう、うれしいわ、と彼の言葉や言動を受け入れる一方、モードは着々と死に向けた準備をし、最後はハロルドを置いてこの世を去る。

モードの左腕には、アウシュビッツ強制収容所で刻まれたと思われる番号が書かれている。

つまり、モードもまた抑圧を受けた存在であり、彼女の言動の根底には、反抗と悲しみがある。

彼女にとって、恵まれた容姿と家庭、幼い精神を持ったハロルドがどれだけ羨ましく見えただろうか。

いや、もちろんそんな気持ちは抱かなかったかもしれないけれど…若い日々をそこで暮らした人の気持ちを私は理解することはできない。おそらくハロルドもそうである。彼にだって、本当のモードは理解できないはずだ。

しかしモードは、ハロルドの無邪気な恋心を受け止め、受け入れ、ーーそして無惨に置いていく。

二人にはどこが一方的で、しかし確かに双方的な愛がある。しかしそれは恋や恋愛とは少し離れた、特殊な関係性であったと思う。

■ハロルドの変化


ハロルドは、モードに自殺されたあと、後をおおうとするとものの、直前でやめている。

自殺にあれだけ執着していた彼が、愛する人を失ったことで死ねなくなった。

最後の佐藤勝利くんの顔は、確実に幕が開いたときのそれとは異なっていた。

無邪気な少年の顔ではなく、大人の顔つきで、悲しみを顕にする。

彼は死という行為の持つ強さに気がついてしまった。
自分が繰り返していた行為の大きさと、自分が知ってしまった生きているときに享受できる喜び。

彼の中で何かが成長し、そして生きることを決断させた。
モードは彼に大きなものを与え、ハロルドもまた、モードの人生の最期に花を添えた。

■感想まとめ


とにかく素晴らしかった。
佐藤勝利くんの幼いスタイリングも、黒柳徹子さんのおしゃれな装いもとてもすてきだったし、確かに勝利くんが恋する目をしていて、徹子さんも愛する目をしていて、終始ドキドキした。
最後に徹子さんがふらついたとき、駆けつけた勝利くんは本当に恋人に見えました。

北乃きいちゃんや常盤貴子さんなど、脇を固める俳優さんたちも素晴らしかった。

一見破天荒な設定でも、丁寧な脚本と演技力で、これだけ素敵な物語になるのだなぁと思いました。

また再演があるといいな〜!

よぴ

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