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あきのことり


物語を書きました。よかったら
のぞいてみてくださいませ。


「秋のコトリ」

深い 深い 森の奥で
真夜中、ぼくは コーヒー屋台をやっています。

お代は いりません。
キミの話を聞かせてよ。
ぼくはコーヒーいれるから。

こんや やってきたのは ちいさなコトリ
たんぽぽの綿毛みたいな ちいさなコトリ

「いらっしゃい なんにしましょう?」

「あ あの のどがかわいちゃって
 コーヒーのほかにもメニューありますか?」

「はい ありますよ 
 りんごジュースはいかがですか?
 すっぱいのと あまいのがあります」

「えと じゃ あまいのください」

ぼくは くるみの殻に 
りんごジュースをこぼさないように
ほんの少し そそいで コトリにさしだした

コトリは ちょこんと おじぎしをして
ひとくちのんでは ためいきをついて
また ひとくちのんでは 目をとじて
やすみやすみりんごジュースをのんでくれた

「あの、おかわりいかがですか?
 それと こんやは しずかに ゆっくり
 やすんでいってくださいね」

コトリはコクリとうなづいて
目を閉じてうとうと しはじめた
それを見ていたらぼくもねむくなってしまった

ぼくはひるまの世界をしらない
まっぴるまに 目がさめるときがあるんだけれど
外はまぶしすぎて よく見えない
なのに なんだか ひるまってすてきだな 
と思うんだ
それでいつもねぶそくで 
いねむりを してしまう

「あのう わたしたちにも 
 あまいりんごジュース
 くださいな くださいな」

目をあけると 
たんぽぽのわたげ みたいな
ちいさなコトリたちが 
あっちにも こっちにもいた

ぼくは いそいで ちいさなおさらに 
りんごジュースを
こぼさないように 
そっとそそいでは カウンターに
ならべた

「こうもりさん ありがとう お礼に
 ひみつのお話をきいてもらえますか?」
先に ひとりでやってきたコトリが
話しはじめた

「わたしたちは 夏の終わりから秋のはじまりの
間だけしか生きていられません
夏の夜に ちょっと涼しい風がふくと
誰かが想う 
『そろそろ夏も終わりかな さみしいな』
というココロの中から
わたしたちはうまれるのです

それはもう あちらこちらで
夏が終わるのをさみしいと
誰かのココロが想うので
わたしたちはあちらこちらで うまれます

うまれるとすぐに草むらに姿をけして
秋の虫たちを呼ぶのです
そうして うたのレッスンをはじめるのです

秋の虫たちは はじめはうまく歌えません
そばで夏の虫たちも歌っているから
わたしたちが お手本となって
秋の夜長にふさわしい
涼しげで うれいのある 歌を歌うのです

虫たちが上手に歌えるようになるころ
わたしたちは しゅっと 消えて
いなくなります

ことしも あともう少しで 
上手に歌えるようになってきたので
わたしたちの出番は そろそろ
おしまいなのです」

コトリは ちょっと笑った
「え?」
とぼくが聞きかえそうと声をあげたとき
急に つよい風がふいて
コトリたちは みんな 
見えなくなってしまった

草むらをのぞいても見つけられなかった
秋の虫たちが歌い続けていた

ぼくは暑いのも 強い日差しも
苦手で
夏は あまり好きではないのだけれど

それでも やっぱり
夏の終わりは さみしいんだ

来年も 夏の終わりには
また会えるだろうか
会いたいな
秋のコトリたちに


お し ま い


読んでくださって
心から
ありがとうございます