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シャニアニ第1章について

この記事について

10月27日に公開された、アニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』劇場先行上映 第1章に関する雑記、感想です。

映画館に行ったのは公開日当日、金曜日の夕方で、この記事の大半はその晩に書いたものです。週末は時間がとれなかったので、月曜日に記憶のみによって補足・校正を行い、記事にしています。例によって曲名は太字、敬称略です。

注意 ここから先はネタバレを大いに含みます。


本編

第1話 一人分の空、一枚の羽

プロデューサー(以下P)が真乃をスカウトし、灯織、めぐると共にイルミネーションスターズを結成することを決める、という内容の回。

真乃が公園で鼻唄を口ずさんでいたところをPにスカウトされ、一度は断って逃げ出したものの新たな世界への興味からアイドルになることを決意し、公園で再び再会する、という一連の流れが最大の見せ場だったように思う。全アイドルを代表して、真乃がアイドルになることを決意するまでの描写に尺を使うという選択自体は正当だと感じる。ただ、真乃の台詞のうち大半を「ほわ……」の類が占めており、心情の描写として相当に弱い。真乃の心の動きが描写しきれておらず、どのような背景を以ってアイドルに興味を持ったのかも、見知らぬ男を信頼して良いと判断したのかも、あまり伝わってこない。せっかく10分近くの尺を使うなら、何か他に表現できることがあったのではないか、と思わせる内容だった。

イルミネ結成後のシーンでは、初期灯織特有の刺々しいコミュニケーションが改めて微笑ましかった。灯織の発言で空気が悪くなりそうになると、すかさずめぐるが大声で別の話題を振って場を和ませる、という流れが目立ったように思う。ゲーム内コミュと比べて、めぐるが場の空気を優先する気遣いしいな性格に描かれているような印象を受けたが、気の所為かもしれない。
(11/2に追記。めぐるの、灯織から真乃をフォローするような立ち回りが目立ったという点について。灯織とめぐるの二人で練習している描写がある程度挟まれていることから、これはめぐるが、灯織のこのような発言には慣れていると言うことを示している可能性もあるかもしれない。)

厳しい言葉を使うと、全体的に言葉足らずで説明不足、やりたいことはわかるが中身が薄く、アニメの初回というよりは長編のPVを見せられているような感覚になる回だった。

第2話 ウタという炎

アンティーカ回。(「ウタ」という文字列が目に飛び込んできて、反射的にONE PIECE FILM REDのことを想起した為、サブタイトルをよく覚えている。)

あらすじとしては、バベルシティ・グレイスのMVを作る事となったアンティーカが、曲者の監督と共に悪天候の古城を舞台とした撮影に挑み、自らの歌の持つ力を再確認する、という内容。

そもそも、脚本や全体の構成が良かった。「恋鐘が大声で話題を提供し、三峰が盛り上げて摩美々が茶化し、咲耶がまとめて霧子が頷き、恋鐘がもう一度大声で締める」、という"いつも通り"のアンティーカの良さと、「恋鐘が大声で進む方向を示せば、全員が一丸となって前へ進める」という”いざという時”のアンティーカの良さ。初期のアンティーカの関係性のサビであるこの両輪をバランス良く描くことに成功しており、過不足の少ない快作だったように思う。PV撮影に機材トラブルというアイドルものでは鉄板中の鉄板とも言える題材だったが、だからこそシンプルにキャラクターが立っているアンティーカには合っていたのではないか。

そして何より、ライブシーンが素晴らしかった。雨の中で撮影したという体をとるにあたって、雨で乱れた髪型の3Dモデルを新たに用意した英断を心の底から称賛したい。また、劇中で撮影したMVを披露するという形をとっていることもあり、映像としての完成度が非常に高かった事も勿論だ。

残念だった部分について一点だけ。第2話序盤の、PVの方針について事務所で話し合うシーン。アンティーカらしさの出た良いシーンなのだが、問題は映像だ。L字型のソファに掛けた状態で話し合っているのだが、発話者の顔にいちいち横パン(注)でスポットを当てるような映像になっており、視点が自分の意思に関わらず激しく移動するので軽い3D酔いのような感覚を覚える。3Dアニメならではの技法なのだと思うが、ストレスを感じて作品への集中が削がれ、あまり快くはなかった。

注)横パン:カメラを水平方向にパンする事。ティルトを「縦パン」と言った場合に対する言葉。(出典:https://tf-tms.jp/glossary/getword.php?w=%E6%A8%AA%E3%83%91%E3%83%B3

「横パン」の図。雑な手書きで申し訳ないが、参考程度に。


第3話 未来への憧れ

アルストロメリア回。テーマパークのような施設で行われた、フラワーアレンジメントをテーマとしたイベントにアルストロメリアとして参加。トークショーでの観客との交流を通して、甘奈は人を笑顔にするアイドルという自分の目標を再確認した、というあらすじ。

『未来への憧れ』はアルストロメリアの花言葉である。サブタイトルにも使われているように、甘奈はこの言葉を重要な課題のように何度も口にする。ここに大きな問題がある。名詞「憧れ」は動詞「憧れる」の名詞形である。「憧れる」の語義を辞書で引いた結果を以下に示す。

「理想とする物事や人物に強く心が引かれる。思い焦がれる。」

大辞典

つまり、動詞「憧れる」は『理想とする物事や人物』を目的語にとる他動詞なのだ。一方、『未来への憧れ』という言葉においては、「憧れる」の目的語は『未来』である。「未来」という言葉には時系列において現在の後にくる時間、という意味しかなく、『理想とする物事や人物』というニュアンスを汲み取ることはできない。故に、『未来への憧れ』という言葉には、何に憧れているのかという情報があるようでなく、コロケーション上の違和感だけが残ってしまっているのだ。
長々と書いたが、とどのつまり『未来への憧れ』という花言葉には、アニメ1話を掛けて掘り下げる程の深みはないのである。高校一年生がよく言う「将来どうしよ〜」くらい深みがない。大崎甘奈はこんなフワフワした花言葉なぞに囚われずとも、自らの将来を切り開いていける魅力を持った人物だと思う。

また、全体的な脚本としても起伏に乏しい上に粗が目につき、あまり良い心地はしなかった。特に、甘奈がトークショーを中断して拗ねている男の子の元へと向かうシーン。まず素直な疑問点として、甘奈が男の子に掛かり切りになっている間、イベント全体の進行はどうなっているのか。甜花と千雪が上手く繋いでいるのだろう、などと推測することもできるが、一枚でもそのような絵が挟まっていれば大きく印象が変わっただろうから惜しい所だと思う。次にメタ的な視点から。「パフォーマンスで笑顔を咲かせる」という、アルストロメリアのアイドルとしての主題を描くにあたって、題材は「甘奈が話しかけたことで男の子を笑顔にできた」というだけの出来事で良かったのか。甜花と千雪、そして他の観客が置き去りになっているようにすら見えるこのような描写では、主題が矮小化されているような気がしてならない。あの大崎甘奈に近距離で直接話しかけられたら、大抵の人間は満面の笑顔になるだろう。だが、アルストロメリアが咲かせる笑顔の花が、こんなに小さい物だけでいいはずがない。

ライブシーンは素直に良かった。先日の5.5thライブで楽曲・アルストロメリアの良さを再確認したばかりだったので、特に。

第4回 本当のヒーロー

放課後クライマックスガールズ(以下放クラ)回。ショッピングモールにて行われるヒーローショー系のイベントのオファーを受けた放クラ。肝心のヒーローの当日出演キャンセルという大きなトラブルに見舞われるものの、地元の商店街での地道な活動の成果を活かし、Pと一丸となった臨機応変な対応でオリジナルのヒーローショーを大成功に導く、という筋。

今回の白眉。これを見られただけで劇場に来た価値があった、更に言えば、これまでシャニマスや放クラを応援してきた甲斐があった、という物である。

何よりも全体の構成が優れていた。「ヒーローショーのオファー」という言葉を聞いた時点で、トラブル発生から一致団結して打開という流れまでは読めてしまったりするものだけれど、そういった妥当な予測を程良く裏切るのが良い脚本という物だと思う。ヒーローは福岡だかに向かったので絶対に来ることはない、という思い切った設定が大胆そのもので軽く度肝を抜かれるし、それをPを含めた6人による自前のヒーローショーで解決、というのも挑戦的だ。
そして何より、自前のヒーローショーの出来が良い。アイドルものアニメに出てくる子供向けのヒーローショーのシーン、と聞いて一般的に想像できる範疇のクオリティではなかった。もしかしたら、シャニマスのファンとしての視点、見知ったアイドルやPがお芝居をしているという可笑しさを抜きにしても、あれは結構面白かったのではないか。もし自分が283プロのことを一切知らない状態で、偶然訪れたショッピングモールにてあのショーを見掛けたと想定しても、「盛り下げ怪人モリサゲール」という言葉を耳にしたら、思わず足を止めずにはいられないだろう。
最後はもちろん、ユニットとしての始まりの曲である夢咲きAfter schoolのライブシーンで終わるのだが、ここに至る繋ぎ方まで完璧だった。観客の盛り上がりに弱いモリサゲールを倒すために、アイドルに変身してパフォーマンスで会場を盛り上げるという形だが、展開のスピード感が素晴らしく、先を読む隙を与えていない。
一点のみ、放クラにPを加えた6人で、シナリオ制作、衣装の調達、観客の呼び込みまで全て行ったにしては、劇中で明言された3時間という猶予はあまりにも短すぎるという点だけは少し気に掛かった。まぁご都合主義のご愛嬌ということで良いのではないか。

個々の描写として気に入っているのは、ジャスティスVと共演できると勘違いしていた果穂がそれを誤認だと知るシーン。小宮果穂というキャラクターの等身大の子供らしく熱しやすい部分と、小学生離れした客観性のギャップ、そこから来る魅力をよく描けていると思う。また、劇中劇内でP扮するモリサゲールに捕らわれ一度舞台から捌けた凛世が、舞台裏でPと仲睦ましげに微笑み合っていたシーンも印象に残っている。

確かエンディング後に画面に出た、モリサゲールのポーズで撮影されたという体のオフショ風イラストも視聴後の満足感に一役買っていた。一から十まで行き届いていて、本当に完成度の高い一回だったように思う。

その他

その他全体を通じて、何点か。

第2話〜第4話における、一つのユニットに焦点を当てつつ、Aパートで他のユニットの現状にも毎回少しづつ触れる、というスタイルはとても良いと思った。ミリオンライブの39人程ではないとはいえ、現状でも16人、これから益々増えるだろうアイドル達を限られた尺の中で描写しきるのはとても難しいと考えられる。この難題に対する一つの答えとして、限りなく正解に近いものだと感じた。

全体を通じて高く評価できるものとして、背景が挙げられる。聖蹟桜ヶ丘や谷中銀座は何度か訪問しているので、それらの地域がアニメの中で丁寧に描かれているのが一点。その上で、アンティーカであればお城の内部、放クラではショッピングモールといった、今まで一枚絵で散々見てきたような背景が立体感を持って立ち上がってきたことが心から嬉しかった。

また、劇場での上映に際しての取り組みにも、全体として良い印象がある。この記事のサムネイル写真にも使っているが、今回の特典は、事務員のはづきさんがアイドルを紹介する宣材資料、という形をとったペーパーである。そしてこれが、283プロの封筒という体のケースに入った状態で中身を隠して配られている。いわゆる”実在性”を感じさせるし、下手なクリアファイルなんかより何倍も嬉しい。
また、上映後の週替わり5コマ漫画、これは本当に良かった。漫画を書き下ろしてくださったギミー先生に心からの感謝を述べたい。
写真撮影タイムについても、どう捉えるべきかはよくわからなかったが、新たな取り組みで観客の満足度を上げたいという熱意は伝わってきたように思った。

総評

ここまでの内容を総括する。個人的な各話への印象をまとめると、第1話には些か疑問があり、第3話には不満を持っていて、第2話、第4話は非常に高く買っている。回によってここまで評価が乱高下するアニメにはあまり覚えがなく、正直かなり困惑している。恐らく、ゲーム等でキャラクターにある程度触れている、既存のファンを楽しませるには十分な出来だったように思う。背景を初めとする小ネタの回収も十分だったし、初期のコミュの内容を思い起こさせる演出が多数あった。しかし、初見の視聴者へ向けたキャラクターやユニットの紹介としては、もう少し何かやりようがあったようにも思う。もし自分が全く思い入れのない状態で偶発的に第1話を見たとして、素直に第2話に進む気になるとはあまり思えない。

また、これからの展開に関しても期待と不安が入り混じる。近い将来間違いなく、ストレイライト、ノクチル、シーズ等の追加ユニットを大きく扱う回が来るだろう。自分の贔屓ユニットを扱う回が一体どんなクオリティの物になるのか見当もつかず、今から戦々恐々としている。

色々と書いたが、第2章以降に素直に期待し、賞賛の声を贈る用意は十分に出来ている。ノクチルをよろしく頼む、心からお願いする、といった気持ちである。(終)


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