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暴カワ体験記

10月7日にお台場で開催されたイベント、「暴力的にカワイイ 2023」のレポート、感想文です。


前説

暴カワとは

「暴力的にカワイイ」(以下、暴カワ)とは、インターネット発のクラブミュージック系音楽ジャンルである"Kawaii Bass"にフィーチャーしたパーティーイベントだ。基本的には中規模の音楽フェスだと考えて相違ないが、幾つか特性はあると思う。

まず、演者は基本的にDJであること。実質的にシンガーソングライターのような形で活動している方も数名いたが、過半数は曲を書いて都度フィーチャリングボーカルを迎えたり、インスト音源で活動していたりする音楽プロデューサーないしコンポーザーという肩書きの持ち主だ。
次に、本来は割と内輪感の強いイベントであること。初めて開催された2017年の時点での来場者数は150名で、屋外での開催は今回が初。元から大企業がスポンサーにつき、コンセプトがはっきりと決まっている大規模ロックフェスとは根本的に性格が異なる催しであるようだ。
(イベントの定義等が明示されている場所がなかったので、現状での自分の認識を以て紹介に代えたが、訂正や補足があれば遠慮なく伝えて欲しい。)

個人的に

どうしてこのイベントに行くことになったのか、という点についても簡記する。まぁ、直接的な理由としては「友人から誘われたから」の一点に尽きるのだが、一年前の自分はDJという物を実際に見たことすらなかったのだ。この一年で何があったのか。
まず、昨年5月頃にSpotify Premiumを利用し始め、バンナムフェス 2ndをきっかけに電音部に触れた。ここから電音部というコンテンツに相応にのめりこみ、自然と楽曲を書いているプロデューサー陣にも目を向けるようになった。One by One(KOTONOHOUSE、Neko Hacker、KMNZ LIZ)やヒステリックナイトガール(PSYQUI、Such)、インドア系ならトラックメイカー(Yunomi、nicamoq)といった、この音楽ジャンルを代表する曲たちに触れたのが昨年7月辺りではなかっただろうか。(この辺の経緯に関しては、この節の直後にあるnoteの記事に詳しい。)
そして、今年の1月に行われたイベント、電音部エリアミーティング アザブをきっかけに、電音部関連のリアルイベントに通い始めた。4月の電音部 アザブエリア 1st LIVE -MY STAR-、6月の電音部 3rd Live -SOUL REVOLUTION-と電魂祭、9月の電音部 アキバエリア1st LIVE(後略)と立て続けに参加。全てのイベントにステージ上の登壇者が誰も歌唱していない純粋なDJパートが設けられていたので、DJイベントの類への参加はこれで都合4回ということになる。

このような状況で、電音部に楽曲を書いているコンポーザー陣が勢揃いするフェスイベントがある、という誘いを受けたのだ。電音部の楽曲が聞けるかも、というだけではなく、TEMPLIMEやYunomiといったオリジナル曲に相応の思い入れがあるプロデューサーも来る。TAKU INOUEという、アイドルマスターの音楽を聞き漁っていた時期に親の顔より目にしたような名前もある。行くしかない、というわけだ。

当日

Y STAGEの周辺を中心に行動したので、Y STAGEのタイムテーブルに沿った形で当日の行動を記述する。参照できる公的な記録が少ないため事実関係、特に曲順や曲名に不正確な部分があると思うが、ご容赦願いたい。なお、曲名は基本的に太字表記とし、Remix等は判明しているものも含めて省略した。()内はアーティスト名であり、その項で扱っているアーティストと同じである場合は省略している。

当日のタイムテーブル。公式Twitterより。

○〜入場まで

ゆりかもめを台場駅で降車、ウェストパークブリッジを渡り、12:00ちょうど位に会場である青海R地区へ。既にかなり長い入場列が形成されており、会場を半周するような形で最後尾へ。入場列は進み方があまり芳しくなく、結局30分近くは会場外で待たされたと思うが、10分押しで始まった会場内のDJが漏れ聞こえていたこと、周囲の人間の多様な服装・風体に目を奪われていたこともありあまり退屈しなかった。
ゲート付近まで進んだところで、飲食物は持ち込み禁止なので持っていれば捨てさせられるという噂が流れ、持参したキレートレモンを一気に飲み干す羽目になった。売上のために致し方ない処置だと理解するが、ゲートで飲みかけの飲料が次々と捨てられていく様は見るに耐えなかったし、入場の遅れの一因でもあったと思うので、次回以降はツイッター等で持ち込み禁止をわかりやすく伝えるようにして欲しいと感じた。

○Nor

入場ゲートの辺りで漏れ聞こえていたChick Chick Love♡(電音部)に誘われるように、メインステージであるY STAGEへ。Norのパフォーマンスは既に終盤であり、到着時点ではブルーアーカイブのサントラが掛けられていた。一応のポジションを見つけて人心地ついた所で顔を上げると、物凄く聞き馴染みのあるメロディが流れ始める。しかし、脳内の「Norが掛けうる、自分がよく知っている曲」リストをいくら検索しても何もヒットせず、暫く呆然としたのちにTell Your World(kz)であったことを悟る。この後一日中、このような思考の流れを繰り返すことになる。
Norの締めはアイドル(YOASOBI)から粛清‼︎ロリ神レクイエム(しぐれうい)に繋げる最近のヒット曲メドレー。YOASOBIの曲に大真面目にコールを入れる日が来るんだから、人生とは何が起きるか全然わからないよな、等と思いながら体を動かしていたことを覚えている。

○Tomggg×Hercelot feat. アンテナガール 他

序盤で一旦Y STAGE前を抜け、場内を一周し、持参した水上雛のアクスタを使って看板前で写真撮影(記事のサムネイル写真)。インフォメーションで年齢確認をして貰い、虹色のリストバンドを付けて、いつでもお酒を買える体勢を整えた。
ステージに戻ると、跡形もないくらいにRemixされた秘密のトワレ(アイマス)が流れていた。暫くするとフィーチャリングボーカルであるアンテナガールが現れ、代表曲であるレモネードを歌唱。どうも暴カワでは定番、というか恒例の選曲だったようで会場は大盛り上がり。MCでは人前で歌うのは2年ぶりと聞いたが、微塵も気後れを感じさせない素晴らしい歌唱でいたく感動した。レモネードはこの日に初めて知った中では最も印象的な一曲になったかも。

○TEMPLIME

引き続きY STAGEにて、個人的に最も楽しみにしていた演者であるTEMPLIMEのパフォーマンス。TEMPLIMEの音楽は元から大好きだが、どのような人物なのかは存じていなかったので、物凄く陽気なメガネが颯爽と現れて初めはかなり面食らった。どうも、陽気なメガネの方が"DJ tempra"、もう一人の落ち着いたマッシュがコンポーザーの"KBSNK(カボスニッキ)"、二人合わせてTEMPLIMEということらしい。この二人、テンションや雰囲気のちぐはぐさに反して息がピタリと合っているのがなんだか仲の良い男子高校生をようで、見ているだけで不思議と暖かい気持ちになれた。
音楽に話を戻そう。TEMPLIMEの選曲だが、NewJeansから東京事変、結束バンドに声優アーティストのDIALOGUE+まで非常にバラエティに富んでいてとても面白かった。正直に白状すれば、彼らの作品である星宮ととや電音部の曲を期待していた自分もいないわけではないのだが、初めて出会う曲が多いのもそれはそれで楽しいものだった。場所や雰囲気の所為もあるとは思うが、知っていた曲も知らなかった曲も全部とても好みに聞こえて、自分はTEMPLIMEという人達のセンスそのものをかなり愛しているんだな、という自覚が深まる楽しい時間だった。

○Neko Hacker feat. をとは

引き続きY STAGE前に滞在。フィーチャリングと言うからには、をとはは終盤に出てくる感じなのか……?と思いきや、最初から最後まで、全開だった。Neko Hackerは陽気なDJのお兄ちゃんである"かっさん"と、落ち着いたギターのお兄ちゃん"セラ"の二人組なのだが、DJのお兄ちゃんが客を煽りに煽る。「あのなんか、回るやつやってよ!なぁ!」のようなよくわからない煽りに始まり、しまいには人生初のモッシュを体験することになった。ステージ前ど真ん中でモッシュに諸に巻き込まれたこともあって、その瞬間は快か不快で言えば不快寄りの気持ちだったが、今となっては良い思い出。
楽曲面は、Dive(電音部、ライブ用ダンストラック)の「う〜〜〜はい!」に始まり、をとはのオリジナル曲主体で時にNeko Hackerの曲もカバー、という構成。Do You Even DJ?(電音部)は無印から2ndに繋げてをとはが歌唱という欲張りセットだったし、大好きなHome Sweet Homeも聞くことが出来て、夢幻泡影のクラップもとても楽しくて、本当に良い時間だった。

○Snail's House 他

名残惜しくはあったが、直前のNeko Hackerのステージででかなり消耗してしまったので、VR(KMNZ)を片耳で聞きつつ一時退却。Z STAGE付近でAZKのパフォーマンスを横目にエナドリカクテルを飲み干し、疲労回復の時間に充てた。FFに会いに行ったりもした。

○YUC'e

元々あまり親しみのあるアーティストではなかったが、暴カワに向けた予習をしていた段階でかなりの好感を持ち、密かに相当楽しみにしていたのがこのYUC'eのパフォーマンスだ。
YUC'eはDJとシンガーをひとりでこなす青髪のお姉さんで、本当にかっこよかった。オリジナル曲だとSUPERHEROが圧倒的に気に入っていたので、生で聞くことが出来て嬉しい。また、JUNGLE WAHHOI(電音部)では電音部3rdの思い出が蘇り、勝手にじーんとなっていた。

○KOTONOHOUSE

噂に聞いていた通り、所謂代表作らしい曲はあまり掛けず、インスト音源も駆使して盛り上げていくスタイル。この時間になれば流石にこちらも慣れたもので、殆ど聞き覚えもないような曲ばかりでもかなり楽しく過ごせたことを覚えている。ただ、一番に印象的だったのは、そんな空気の中で耳に飛び込んできたGrabityの初音ミクの歌声だった。高校時代をボーカロイド文化に腰まで浸かって過ごした身の上としては、このような少しアウェーな場所でミクの声が聞こえると、当時見えていた世界とこの世界が確かに地続きであることを感じられるから、じんわりと嬉しくなってしまうのだ。
KOTONOHOUSE本人については、遠目では壮年にも同年代にも見えるような不思議な雰囲気を湛えたお兄さんだったと記憶している。テーブルに飛び乗ってフラッグを掲げたりもしていたが、個人的には歌詞に合わせた細かいジェスチャーでフロアを盛り上げている姿が印象的だった。彼の書く歌詞を心から愛しているから、あぁ、あの歌詞を書いているのはこの人なんだなぁという実感を得られたことが最大の収穫だったかもしれない。

KOTONOHOUSEのステージ。夕焼けが綺麗だった。

○TORIENA→BPM15Q 他

時間や体力配分の兼ね合いにより、この時間はYステージを離れることにした。Zステージでpiccoの顔だけ軽く拝み、会場を抜け、隣のFOOD CARNIVALへ。特設ステージのアニソンDJを聞きながらケバブを食べ、遅めの昼ごはんとした。光るなら、お願いマッスルといった弩級に順張りのメジャー曲に混じっておじゃま虫(DECO*27)が流れてきたことをよく覚えている。
食事を終え、ステージの戻る際にお手洗いに寄ったが、偶然空いていて待ち時間なしで利用できて大変ありがたかった。仮設トイレはステージの裏手だったので音の振動の圧が激しく、走行中の電車の中にあるトイレもかくや、というくらい揺れていたのが面白かった。

○TAKU INOUE

大本命、大サビ、イノタクの時間。2杯目のお酒も飲んでほろ酔いで、インドア系ならトラックメイカーの歌詞にある「お酒も入ってそこそこナイス!」ってこれか〜、と思っていた。イノタクのDJ自体は以前、電音部のイベントで一度体験していたので、大凡の雰囲気はわかっているつもりで臨んだのだが、期待を大きく上回ってこられて感服というか、敬服というか。
開幕のダンス・ダンス・ダンス(アイマス)だったり、Mani Mani(電音部)だったり、YONA YONA JOURNEYのサビ終わりの「クレイジー×3」のコールだったり、楽しかった瞬間は沢山あって全然語り尽くせないけれど、敢えて言うなら今日の白眉はチューリングラブ以降、終盤の繋ぎだったように思う。夜は待つよ、3時12分、Stellar Stellarという星街すいせいがボーカルを務める三つの曲は、いずれもタイトルの文言をしっかりと言い切る部分が印象的な曲だ。この中で、チューリングラブの次だった夜は待つよさよならアンドロメダの直後の3時12分は、タイトル言い切りを頭に持ってくる構成だった。対照的に、トリに使われたStellar Stellarでは「Stellar Stellar」と歌唱する部分は終盤まで温存され、最後にして最高潮の盛り上がりを最大限に演出する役割を果たしていたように思う。DJを楽しむ文化に親しみ始めてから一定の時間は経ったものの、未だに全く掴めていなかった「DJのうまさ」という物の一旦を見た気がした。

○Yunomi

半ば放心した状態のまま、Yunomiのパフォーマンスを迎える。直前のイノタクで最後の力を使い果たしてしまったような形になり、カフェインやアルコールの作用も相まってこの辺から意識や記憶がやや曖昧だ。
YunomiのDJは全ての曲に統一感のある不思議で不穏なMixが掛けられた状態で進行し、きあとによるライブペイント、それを使ったVJも相まって会場は異様な雰囲気に包まれていた。曲の変わり目は全くわからず、Full Moon(電音部)、Change(電音部)、恋のうたといった馴染みのある曲ですらサビの歌詞が聞こえるまで全く認識できない有様。直前のイノタクが”曲の変わり目をはっきりと見せることで盛り上げる”ようなテクニックを使っていたのとは対照的でもある。最後の一曲は恐らく、インドア系ならトラックメイカーだったと思うが、「眠気のピークにカフェイン投下ぁぁぁぁぁ」という歌詞からドロップに入る部分の「ぁぁぁぁ」が、Mixのせいで断末魔の悲鳴のような音になっていたのが印象的だった。

Yunomiのステージ。異様な雰囲気が伝わるだろうか。

○4s4ki+KOTONOHOUSE 他

転換に少し時間をかけ、KOTONOHOUSEが雑談で場を繋ぐ。開幕一曲目は、彼らの代表曲であり、個人的な目玉でもあったお前のドリームランド。一頻り盛り上がった所で体力の限界を感じたので一旦離脱し、Z STAGEを遠巻きにしてkamome sanoやyosumiを眺めたりしていた。

○PSYQUI

体力的に厳しい部分があったが、どうしてもPSYQUIのパフォーマンスは見ておきたかったので、多少無理をしてY STAGEへ。瞼も身体もなかなか思うようにならず、音楽に合わせて動くというよりは音楽に無理やり駆動されているような感覚だった。確か中盤はSuchの歌声がずっと流れており、PSYQUIの掛けるヒステリックナイトガールを聴けたことが本当に嬉しかった記憶のみある。

○Batsu

いよいよ大トリ。前打者のPSYQUIが持ち時間を派手目に超過し、そもそも10分遅れで進行していたこともあり、開始時間は20時をすっかり回っていた。まだ意識が朦朧としていたのだが、One by One(KOTONOHOUSE、Neko Hacker、KMNZ LIZ)に叩き起こされる。今日ここに来るにあたって最も聴くのを楽しみにしていた一曲で、KOTONOHOUSEが流さなかったことに多少しょんぼりしていた部分もあったので、本当に嬉しい限りだった。この後はWhere Is The Love(電音部)、雷火(ナナヲアカリ)、らしさ(SUPER BEAVER)と、個人的にも親しみの深い曲が続く。らしさはBanG Dream!の美竹蘭のカバー歌唱でしか聴いたことがなかったので、イントロで曲名を察した瞬間は、こんな所でオリジナルを初めて聞くことになるとは……と非常に不思議な心地がした。天体観測(BUMP OF CHICKEN)ではフロアから自然とシンガロングが湧き上がり、インドア系ならトラックメイカー(Yunomi、nicamoq)、Tokyo Future Girl(picco、中村さんそ)と続いて〆に相応しい盛り上がりに。
ここでBatsuがトークを始める。BatsuはここまでのY STAGEの演者とは少し毛色が異なり、コンポーザーというよりはDJが本業の、ニットキャップがよく似合う、如何にもヒップホップ畑という雰囲気のお兄ちゃん。暴カワというイベントの立ち上げにも深く関わっているそうで、終演時刻が近づいてステージ上に集結しつつあった演者たち、特にYunomiへの感謝を繰り返し述べていた。
「最後はぼくが本当に大好きな、この曲で締めさせてもらいます!」といったお言葉でトークが締められる。”この曲”が一体何なのか全く予想できずに身構えていると、果たして全く知らないイントロが流れ始める。ここに来て知らない曲かよ、とずっこける気持ちはないではなかったが、この悔しさは次回に持ち越しということで良いのだろう。

後説

こんな感じで、自分の初めての暴カワは幕を閉じた。知らない音楽にもたくさん触れたし、もともと好きな音楽のことを更に好きになることもでき、大きな収穫が得られたように思う。
一方で、反省点もある。ちょうど大学の授業が始まった時期だったこともあり、体力的に無理をしてしまったこと。同様に、あまり時間的余裕もなかったので、曲の予習が不十分だったこと。そして、知らない音楽に身を委ねる楽しさも漸く理解できてはきたけど、やっぱり知っている曲が流れた方が嬉しい、という気持ちも強かったこと。もし次の機会があるなら、体調をしっかり整えて、知っている曲も増やした上で、知らない曲でもしっかり楽しめるように、なれたらいいな。


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