本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月19日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、インタラクティヴ・マップからの画像も含めて、すべてISW制作のものである。ただし、一部は加工してある。また、本記事サムネイル画像は、ウクライナ軍参謀本部のFacebook投稿写真を使用した。
ウクライナ軍のヘルソン渡河
日本語訳:
ロシア側情報筋は10月19日も、ヘルソン州東岸(左岸)での普段よりも大規模なウクライナ軍地上作戦に関する意見を示し続けた。また、ウクライナ軍は東岸地区の一部であるドニプロ河岸付近及びアントニウシキー鉄道橋付近で、限定的な軍事力展開を維持している可能性が高い。10月18日のウクライナ軍東岸攻撃に関するロシア側議論の口火を切ったロシアの有名軍事ブロガーが10月19日に主張した内容によると、1個ウクライナ海軍歩兵旅団に属する破壊工作・偵察グループ2個がドニプロ川を渡り、その地域のロシア軍部隊を圧倒し、クリンキという村落(ヘルソン市東方30km、ドニプロ河岸から内陸に2km)内に拠点を確保したとのことだ。この軍事ブロガーは、ロシア軍歩兵が反撃し、ウクライナ軍をこの村落の端へと押し出したと主張した。だが、ウクライナ軍はクリンキ内の数棟の住宅を今でも押さえており、この地区への増援到着を待っているところだとも述べている。ほかのロシア軍事ブロガーは、ウクライナ軍がクリンキ攻撃に際して、以前の攻撃以上の兵力を投じたと主張した。ヘルソン州占領当局の長であるウラジーミル・サルドも含めたロシア側情報筋の一部の主張によると、ロシア軍はウクライナ軍を、ポイマ〜ピシチャニウカ〜ピドステプネ地区(ヘルソン市東方15km)から、ドニプロ川の河岸へ、アントニウシキー鉄道橋下の陣地へと何とか押し返すことに成功したとのことだ。これらロシア側情報筋は、ウクライナ軍が上記の押し戻された地点で、ロシア軍の継続的な砲爆撃にさらされながら、休息と再編成を試みていると主張している。ウクライナ軍参謀本部はまた、かなりほのめかす形で東岸でのウクライナ軍作戦行動を認めた。具体的には、ロシア軍によるピシチャニウカ空爆を10月19日に報告しているのだが、この報告は、ウクライナ軍がこの町で行動中であることを示している。ロシア側情報筋は、東岸でのウクライナ軍攻撃の規模に関して、微妙に異なった意見を発しているけれども、ISWの評価は次の内容から変わっていない。つまり、現在のウクライナ軍の行動は、過去目撃された戦術規模の襲撃よりも大規模である模様だという評価であり、また、利用できる動画で、撮影地点が特定できる動画によって、ウクライナ軍が、ロシア軍に反撃されたにも関わらず、河岸沿いとアントニウシキー鉄道橋付近で軍事力展開を維持していることが分かるという評価である。
ウクライナ軍反攻作戦の進捗状況
日本語訳:
ウクライナ軍は、10月19日も反攻作戦を続けるなか、バフムート南方とザポリージャ州西部で前進した模様だ。ウクライナ軍兵士の一人は、クリシチーウカ(バフムート南西7km)付近、アンドリーウカ(バフムート南西10km)付近、クルディウミウカ(バフムート南西13km)付近でウクライナ軍が何らかの戦果をあげたと述べた。また、ウクライナ軍がオピトネ(バフムート南方3km)に向かって、ロシア軍防衛線内に進入したとも述べている。ウクライナ軍東部部隊集団報道官イリヤ・イェウラシュ大尉の10月18日付発表によると、ウクライナ軍は、具体的な場所は示されなかったが、バフムート南方において鉄道線を越えて進撃したとのことだ。ただし、ISWは、ウクライナ軍がクリシチーウカ東方の鉄道線を越えて行動していることを裏付ける映像資料を、まだ確認できていない。ウクライナ軍参謀本部とほかのウクライナ軍情報筋は、ウクライナ軍がロボティネ南方とヴェルボヴェ(ロボティネ東方10km)南西で成果を出していることを伝えた。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスティヤンティン・マショヴェツによると、ウクライナ軍はヴェルボヴェ付近の陣地からロシア軍を押し出し、ロボティネ戦線のどこかの地点で、ロシア軍防衛線の内側へと1.5〜1.6kmの深さで進入したとのことだ。
ロシア軍は消耗しつつあるのか?
日本語訳:
攻勢作戦を続けるなか、ウクライナ軍が巧妙かつ非対称的な形でロシア軍を消耗させているという見解を、あるロシア軍事ブロガーが示した。10月19日の一連の長文テレグラム投稿のなかで、この軍事ブロガーが言及したのは、ウクライナ軍が自軍の予備戦力を最大限可能な範囲で保持するなか、同軍は、ロシア軍の限られた予備戦力を消耗させることをはっきりと意識して、攻勢作戦を遂行しているということだ。この軍事ブロガーは、ロシア軍歩兵が現在、この戦争において最低の状態であると主張したうえで、ウクライナはロシアが総動員を行わないことを知っており、ウクライナ軍はこのことをうまく利用しているという見解を強調して伝えた。この軍事ブロガーの見解は、ISWの評価分析とおおむね一致している。つまり、ロシア軍は質の高い予備戦力を大きく欠いており、前線上の穴を埋めたり、攻勢作戦を遂行したりするために必要な予備戦力を、つくり出し、訓練し、適切に展開することに苦慮しており、そうする代わりに戦術レベルの横滑り的な部隊再配置に頼ることが多くなっているという評価である。また、ISWは以前、ウクライナ軍が戦線上の最重要地区の多くで、非対照的な消耗傾向のもとでロシア軍と交戦しているという見解を示した。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリストであるジャック・ワトリング博士は10月19日に同じような見解を示した。ワトリング博士によると、ウクライナ軍がロシア軍に高い死傷率を押しつけることができる限り、「ロシアが十分な数の新兵を、効果的な攻勢行動の遂行に必要な水準まで訓練するのを難しくすることができる」とのことだ。