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【内容紹介】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 2020 ET 02.01.2024 “ウクライナでの戦争の敵は「西側」であると語るプーチン”

[*記事サムネイル画像:ロシア大統領府公開動画より]

1月1日にプーチン露大統領はモスクワ州内の軍病院を訪問し、入院中の軍人たちとの懇談会を開きました。その際にプーチンが、ウクライナ戦争における「敵」を「西側」だと示したことを、ISWは1月2日付ウクライナ情勢報告で取りあげています。

プーチンは「ウクライナ自体は[ロシアにとっての]敵ではない」とし、「国家としてのロシアの破壊を望み」、「戦場でのロシアの戦略的敗北」の達成を望む西側のアクターがロシアの敵だと語りました。それに加えて、ウクライナはすでに「完全に破壊」されており、この国には「何も残っていない」と述べたうえで、ウクライナは「書類上の存在でしかない」と語っています。

このようにウクライナでの戦争は、西側を相手にするロシアの生存に関わる戦争であると暗に位置づけたうえで、プーチンは西側の言論が最近、戦争の早い終結に再び集中していることを指摘します。

要するにプーチンは“ロシアとウクライナの戦い”を“ロシアと西側の戦い”にすり替えているわけですが、このレトリックに関して、ISWは次のように指摘しています。

プーチンはウクライナを独立したアクターとみなしておらず、その結果として、ウクライナへの全面的侵略をロシアと西側との間の闘争として描写することを続けている。これは、ウクライナの主権と領土的一体性を破壊するためにロシアがウクライナに侵略したという現実を、意図的に偽って伝えているものだ。プーチンが西側での言論の変化を強調するのは、西側のウクライナ支援の揺らぎと戦場でのウクライナの敗北を、プーチン想定のロシア対西側の戦いにおけるロシアの勝利として、プーチンは理解していく、または(もしくは)位置づけていくつもりでいることを示唆している可能性がある。

Russian Offensive Campaign Assessment, January 2, 2024, ISW

また、ウクライナでの戦争を西側との闘争にすり替えるプーチンのレトリックは、「プーチンがウクライナと真摯な姿勢で交渉をもつつもりはないことを示しており、また、和平交渉によって西側にウクライナを切り捨てさせようとすることを目的にした情報環境を、プーチンが醸成していることを示している」と、ISWは指摘します。そして、「プーチンはウクライナを、ロシアと西側の対立における主体性のない手先として、意図的に誤って位置づけている可能性が高く、その目的は、ロシアによるウクライナの完全な実効支配というプーチンの最大規模の拡張主義的な目標を覆い隠すことにある」という分析をISWは示しています。

ウクライナと戦争しているにも関わらず、プーチンが交渉する相手を“西側”に求めているのは、上述したように独立した主権国家としてのウクライナをプーチンが認めていないことを示していますが、そのような認識のもとで、ウクライナの将来に関して西側と交渉するということは、西側がウクライナをロシア勢力圏として認めること、言い換えれば西側がウクライナを捨てることを前提とした交渉のみをプーチンが考えていることを示しています。

当事者であるウクライナの頭越しで、ウクライナに関して西側と交渉しようとするロシアの態度は、2021年12月にロシアが米国とNATOに対して2つの最終通告を発した際と同様です。その際にロシアは、「プーチン自身が悪化させていた西側とロシアの対立の緊張緩和という名目のもとで、ウクライナの主権にとって本質的に重要な要素を諦めさせることによって、西側に東欧におけるロシア勢力圏を認識させようとした」のです。

結局のところ、ウクライナに関して、ウクライナの頭越しに西側がロシアと交渉することは、「ロシアが自国の勢力圏にあるとみなしている国々に対して、ロシアが自らの意向を押しつけることができるのだというシグナルを、ロシアに送ることになる」のです。そして、頭越しの交渉を行えば、その影響はウクライナのみならず、フィンランドやモルドバといった国々にまで及ぶ可能性があることを、ISWは指摘しています。

また、プーチンがウクライナとの戦争を西側との闘争に拡大させている意図に、ロシア軍の恒久的な戦力増強の条件づくりと、現在の戦場における大きな犠牲の正当化もあるかもしれないと、ISWは述べています。つまり、プーチンが取るに足らないとみなしているウクライナとの戦争で、ロシアに大きな損失が発生しているという現実は、プーチンにとって都合が悪く、ウクライナよりも強力な西側との戦いとして今の戦争を偽って描くことで、犠牲の多さを正当化しようとしているという見方です。また、西側の脅威に対抗してロシアの主権を守ることは不断に続き、そのために戦力を集めて戦闘を続けなければならないとして、プーチンが軍備増強を正当化している可能性も高いと、ISWは分析しています。

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