お菓子を食べる、おやつを探す③

感染症のせいで馴染みの喫茶店が閉まっていることが多く、めっきりしなくなったことがある。褒められたことではないが、人生を豊かにする行為のひとつでは、と豪語したくなることが。今日は久しぶりに家から離れた街のコーヒーショップで、それを行うべく自転車を走らせている。知らない道、知らない人、知らない味。必須ではないが、気持ちを盛り上げてくれる条件である。

店には先客が数名おり、空いていた二人掛けのテーブル席に腰かけた。ほどなくして店員がメニューとグラスに入った水をテーブルに置く。看板商品のハニートーストと、冷たいカフェオレを注文するとぼうっと窓の外を見る。向かいの寂びれたブティックで、おばあちゃんがズボンを掴んでいた。高価そうなテロテロした素材。なおも惚けていると、隣の席の会話が自然と耳に入ってくる。「なにが気まずいって、前のパート先もその前のパート先も家の真ん前やねん」「あー、たしかに!スーパーとかでも会いそう」「ほんまそれで、それだけちょっと後悔してる」「もう一回うちんとこ来ます?」「こいつ何回目ってなるで?」。大阪とは違ったニュアンスの関西弁で、元パートさん仲間のやりとりが繰り返される。それとなく聞き耳を立てていると、食べ物が運ばれてきたので黙々と食べ始めた。その間も隣の話題は少しずつ変わりながら続いていく。「田中さんってまだいはるの?」「いはりますよ、相変わらずです」「悪い人じゃないんやけどなあ」「難しいですね」。ハニートーストが口の中でじゅわっとしぼむ。甘い余韻を楽しみつつ、二層に分かれたカフェオレをストローでかき混ぜてから流しこむ。

他人の生活の片鱗をさかなに茶をしばく、ええ趣味になりそう。

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