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『中田敦彦のYouTube大学』について感じた違和感と楽しみ方

2020年、コロナの影響で休業手当をもらいながら自宅で過ごしていた時期によく見ていたのが『中田敦彦のYouTube大学』だった。仕事が再開した今でもたまに見ている。暇つぶしになり、しかもお手軽に教養までついてしまう。退屈な自粛期間中はとても重宝した。入浴中にBluetoothスピーカーからBGMとして流すのがいつしか習慣になっていた。おもしろそうなトピックを選んでタップするだけで、「知識の概要」が手に入る。おまけに顔芸や話芸のスキルもあるから楽しく聴ける。

こういう動画を視聴することはとても合理的なインプットだと思う。ただし、ものごとの「概要」を短時間で知ることに限っての話だ。情報を「まとめる」ということは情報量を「減らす」ということ。任意の箇所を削りとられた情報には「編集する人間の意図」が反映されている。

1冊の本に収録されている膨大なテキストがたった1枚のホワイトボードにおさまっている。この圧縮力は紛れもなく中田氏のスキルである。このホワイトボードの情報をもとに時間をかけたトークで補完するのだから、学校の授業さながら理解しやすい内容になるのも至極当然。視聴者にとっても、ためになる情報が得られる。番組としてのクオリティは高い。それでも、この番組をそのまま鵜呑みにしてしまうのはあまり良ろしくないと感じてしまう。

なぜなのか。

動画を見ていて気づいたことがある。それは、中田氏の授業から、発言者としての「リスク」や「責任」を感じないということだ。授業のために持ち出した書籍をテキスト(教科書)代わりに授業をする性質上、中田氏本人は書籍の説明をしているだけだ。視聴者に対しては「教師」という立場にいるはず。それなのに、まるで「生徒」のように、紹介作品の著者の話を聞きながら「いっしょに学んでいこう」というスタンス。ほかの生徒よりも早めに予習して友達に教えてます、みたいな感覚。このような立場で授業をしていれば、もしも動画を見た視聴者が授業内容に感化されて起こした行動の責任を取らずに済む。「私が推奨したのではない」「著者の書籍を要約して伝えただけ」という逃げ口上が成立するのだ。

また、授業でチョイスする書籍に関しても、視聴者を恣意的に誘導しているような節が見られる。「歴史」や「漫画」、「書籍」などに関しては、自分の趣向を反映させているようなので問題なく楽しめる。気になるのは「投資」や「健康」「人間関係」などの分野だ。ヒトの悩みのほぼすべてが「お金」「健康」「人間関係」の問題に集約されている。とうぜん多くの人が抱えている悩みの最適解は個人によって異なる。なので、書籍などから「画一的な解決方法」をオススメするのはやや強引なのではないかと感じてしまうのだ。

書籍を読み進めながら自身の好奇心を刺激させて、思うままに発信している中田氏。本人はかなり楽しく充実した仕事をしているように思う。自分で勉強して自分自身の問題を解決する。しかも楽しく自己解決している。これに関しては本当にすばらしいと思う。ただし中田氏は日本人屈指のインフルエンサーである。彼が発信する情報は、多くの視聴者に影響を与えてしまうことを忘れてはならない。

視聴者の「情報リテラシー」が未熟であればあるほど、発信された情報を鵜呑みにしてしまう。聞こえは悪いが、情弱の信者を誘導するのはたやすい。

中田氏はビジネスで動画配信やオンライン・サロンをやっている。資本主義社会のルールに則って、まっとうにお金を稼いでいる。視聴者を不当に誘導するような表現をしないよう、細心の注意を払っているに違いない。それでも誘導されてしまう人はいるだろう。それがこのビジネスのリスク部分なのだと思う。

「合理的に知識をインプットできる装置」を利用するのは自由だが、最終的には視聴者の自己責任となる。情報が圧縮されているということ。切り捨てられている情報があるということ。中田氏によるディレクターズ・カットであることを理解した上で動画を楽しむのがいいと思う。

あくまでも要約なのだ。エッセンスだけを知りたいのならここで終わるのもいい。でも「理解」できていると思わないほうがいい。「理解」まで行きたいのなら、必ず原典(ソース元)を読むべきだ。書籍の著者が責任を負っているのだから、中田氏の解釈で切り貼りされた内容だけで内容を判断するのは曲解につながってしまう。また、原典に目を通すことで中田氏による要約の仕方がわかる。つまり、「ここをバッサリ切ったのか〜」とか、「ここを強調していたのか〜」なんていう「編集のクセ」を楽しむことができる。

要するに、「動画で勉強できたつもりにならないほうがいい」ということだ。エンタメとして楽しめれば素晴らしいコンテンツだと思う。ただし、動画内容だけで「知ったふり」をするのは危険だ。誤情報を他人に広めてしまうことになるからだ。「編集された情報」を鵜呑みにするのは情報リテラシーが低い。これを肝に銘じたい。

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