見出し画像

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(原題:Once Upon a Time in... Hollywood)②


リアルタイムで衝撃的な事件だった。
ちょうどローズマリーの赤ちゃんがヒットしていたころで、ポランスキー監督が世に登場し、誰もが注目。アメリカンニューシネマも新しい展開を迎えているところだったので、このマンソンファミリーによる虐殺事件にはとんでもない衝撃を受けたことを覚えている。
そんな事件を知りつつ、この映画を観ているのが、けっこうつらいものがあったのは確かだ。
リック・ダルトンとクリフ・ブースの物語で映画は展開していくが、69年のハリウッドが実に再現されていて、ファッション、車、ホット&クールなど今の時代とは違う言葉の言い回しなど綿密に計算されつくされて、いち場面、そしてかかる一曲もそれなりに深読みさせられるとんでもない映画であった。
さきほど前振りで、ドリス・デイのひとり息子であり、プロデューサーとしてのテリー・メルチャーの話をふっておいたのだが、ミュージシャンとして成功を夢見るチャールズ・マンソンがビーチボーイズのデニス・ウィルソンにうまく取り込み、テリーを紹介され、彼の自宅に居候する。デビュー話が壊れ、それを恨みテリーを殺す流れだったのだが、犯行前にテリーは引っ越してしまい、そこへ人気急上昇のロマン・ポランスキーとシャロン・テートがやってくる。
結果、現実ではポランスキーがヨーロッパへ出かけているときに妊娠8か月のシャロン・テートや来訪していた仲間たちも虐殺されてしまったという事件。
これは詳細は知っておいてもらえると嬉しい、なにより、この事件を知らねば、この映画はまったく理解できないものになってしまうから。
エンディングが近づいてくる。
もうどうなってしまうのかハラハラドキドキ、しかし、しかし、見事なパラレルワールドとして映画を締めてくれたタランティーノ監督にお見事と喝采を叫んでいた。
彼の言葉を借りれば、加害者のマンソンたちだけが多く語られ、被害者が反論できないのはおかしい。墓場から出してあげるのだという発言を聞いたことがある。
そう、シャロン・テートって、あんなに可愛い子だったんだよ、なんで殺されなきゃいけなかったのという口惜しさが、ポランスキー邸ではなく、リック&クリフの家に標的は変えられ、マンソンファミリーはLSDでキマりまくったクリフの返り討ちにあうのである。
自分ながらに当時、なんて可愛そうなという思いに駆られていたこともあり、思い切りやり返してやれと、全開のタランティーノらしさに胸がすく思いで顔を叩きつけるのを観て、このやり返してやれに快感を覚えている自分は、絶対、憲法9条をとやかくいうことは出来ないんだろうな…。
襲撃に来る車も、スパーン牧場に置かれてあった実際に襲撃したマンソンファミリーが乗ってきたそっくりのフォードフェアレーンが登場、クリフの駆るキャディラック・クーペ・ドヴィルもしっかり1966年型で押さえてる。
ジュリアーノ・ジェンマや、シャーリー・テンプルを思わせるキャストもあり、一場面ごとに言葉を添えなければならないほど濃く詰まったとんでもない映画なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?