成毛滋
渋谷駅前を恵比寿方向へ向けて走るプリンススカイライン2000GTB。
小雨の中をその薄黄がかったアイボリーの車のステアリングを握るのは成毛滋。
祖父はブリヂストン創業主、そして現副社長を父に持つ日本を代表するギタリストである。
そんな成毛に運転させながら助手席の自分が、
「金があるんだからさ、新しいGTR買ったら」
という声かけに、
「いや、ボクはこの車が大好きなんだよ」
と小雨を拭うワイパーの陰で返され、御曹司の御曹司たる趣味の良さと自分を大事にするという遺伝子に、自分の貧乏人根性が打ちのめされたような気がした。
そして彼の家に着きどれくらい話し込んだだろ。
日本、アメリカ、ロック、民族、もうカーテンを閉め切った部屋でまだ夜なのかもう朝なのかわからないほどのめり込んで話しまくった。
ヒッピーかぶれやヤンキー(アメリカ人への蔑称)気取りばかり横行する自分らの界隈で、はじめてちゃんと話が出来る男と出会えた喜びを噛みしめていた。
そんな成毛のミッキー吉野との貴重な写真が夕刊フジによって掲載された。
目を潤ませながら見させてもらっていた、なんて惚れ惚れするくらいいい男なんだ。
もっといろいろ話したかった。
一緒にいろいろやりたかった。
2007年3月29日、還暦を迎え逝去。