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それ、わたしの生姜焼き定食ですよね?

21時頃。東京での仕事を終えて車で愛知県へ帰る途中、夕飯を食べていないし一息入れたいと思ったので、キリのいいところでサービスエリアに入ることにした。

21時のサービスエリアというと、人はまだたくさん居るものの、もう半分以上のお店のシャッターは降り、電気も消えており、賑やかな昼間とは全く違った雰囲気だ。
フードコート内の飲食店はもう1店舗しか空いていない。ここで食べるしかないか…。

サッと看板のメニューに目をやる。豚の生姜焼きや、唐揚げ、メンチカツなどのスタミナ系お肉メニューが並ぶ定食屋さんだ。先ほどまでは「温かいお蕎麦でも食べたいな」と思っていたはずだったが、にんにくや生姜、醤油、油の混ざったガッツリ系の匂いがしてきて一気に気持ちが塗り替えられた。これもアリかも……ていうか、めっちゃお腹すいてきた! 早く食べたい! 券売機はどこ?

早速、券売機へ向かう。実はもう生姜焼きか唐揚げの2択に絞っている。メニュー表を見ると、どうやらこの店の一番の売りは生姜焼きらしい。一番大きい写真に、大きい文字で「当店名物!」と書かれている。ようし、キミに決めた!

豚肉の生姜焼き、ご飯、お味噌汁、漬物のセットの「生姜焼き定食」のボタンを押すと、「291番」と書かれたチケットが出てきたので、それを持ち、空いている席に座った。
壁に掲げられたモニターには、私の番号「291」が上から7番目に点灯している。生姜焼きまであと6人。

ザッと見て10名くらいの客がいる。仕事の途中っぽい男性。カップルらしき男女が1組。家族連れ。そして学生さんらしき男の子3人組が、私のあとに来て券売機に並んでいた。

店内には3人のスタッフがいる。カウンターのそばでお盆を並べ、味噌汁、漬物などをセットしている女性1人と、奥の厨房でメインのお肉料理を調理しているスタッフが2人だ。カウンターにはすでにズラリとお盆が5,6枚並んでおり、味噌汁はすでに置かれている。お味噌汁がこのタイミングでもう出ているということは、きっとすぐできるぞ。

もうすっかりペコペコな状態になっていた私は、固唾を飲んでモニターを見守っていた。すると場内に自動アナウンスが流れた。
「おまたせいたしました。チケット番号、○○番の方、○○番の方、○○番の方、カウンターまでお越しください」
上から3人分の番号が消え、該当する3名がカウンターに向かった。なるほど、そういう仕組みか!

この感じで行くともうすぐ食べられるんじゃないだろうか? あと3人。
すぐ次のアナウンスが来た! 早い!
「○○番の方、○○番の方、○○番の方、カウンターまでお越しください」
はい、また3人ー! あっという間に私の291番は、モニターの一番上まで上り詰めた。次だ! もう、口の中はすでに生姜焼きの味(予定)でいっぱいだ。

次に呼ばれるとわかっているし、もうカウンター近くに行っておこう。しかし周りの客や店員さんに「え、この人、待ち構えてる……ぺこぺこかよ」と思われるのは恥ずかしいので「たまたま用事があってカウンター付近にいますよ」というスタイルを取ることにした。
水と、おしぼりの事前準備だ。先に用意しておくの、シゴデキ。

店舗のカウンターと向かい合う形でそのコーナーはあった。「セルフサービス」と書かれて、お水のウォーターサーバーと、おしぼり、食器や取り皿、塩コショウなどが置かれている。そのあたりへゆっくりと移動し、291番が呼ばれるのを背中で待ちながら、ゆっくりとお水を汲み、ゆっくりとおしぼりを手にした。……まだかな? そろそろかな?

「おまたせいたしました…」
来たーーーーー!!

お水とおしぼりを手にしたままクルッとカウンターの方を向く。さあ、私の生姜焼きはどれかな…?
「チケット番号、293番の方、カウンターまでお越しください。」

ん? 293番? 291番じゃなくて…?

カウンターにずらっと並んだお盆の上に、1セットだけ、完成した生姜焼きセット(生姜焼き、ご飯、お味噌汁、お漬物)らしきものができている。

あれ……それ、私の生姜焼き定食じゃないの? 

すると、私の前を颯爽と一人の青年が横切った。カウンターにサッとチケットを出すと、配膳スタッフのお姉さんが「塩麹生姜焼き定食ですねー、お待たせいたしましたー」と言って出来上がったセットをスッと差し出した。

…し、しお! 
塩麹の生姜焼き定食か。
メニューを見ると……うん、確かに似ているな。白いか茶色いかの違いくらいだ。いや、しかし順番的に次は私だったんじゃ? この子、さっき私の後にチケットを買っていた学生3人組の一人では? なんでそっちが先?

いや、もしかしたら塩味の味付けなど前に作っていたメニューなどの関係で、彼が先になったのかもしれない。
モニターを見ると、依然として私の291番が先頭で、その次は292番、294番となっている。そっか…次こそ、私だよね。

いつまでもカウンターでうろうろしているのも見張っているみたいだ。どんだけペコペコだよ、と思われたら嫌なので、すぐ呼ばれるだろうけれど一旦席へ戻ることにした。

着席してカウンターを見ると、どうやら次の配膳が完成しつつあった。3セットできている。ふむ。あの真ん中のやつが、私の生姜焼き定食っぽいな。あー、お腹すいた。そわそわ。

すぐに次のアナウンスが鳴った。
「お待たせいたしました。292番の方、294番の方、カウンターまでお越しください」

ええーー? 291番は?

なんで私の後の学生3人組が先なの!? 学生の残り2人がカウンターに受け取りに行った。私のだと思っていた真ん中の生姜焼き定食と、その左側の丼のセットのようなものがなくなっており、一番右端には、白っぽい色の生姜焼き定食らしきものがポツンと残されたままだった。

…それ、塩麹生姜焼き定食では…??

その後も、待てど暮らせど291番は呼ばれない。今や番号は78番を呼び出している。モニタの291番はその間もずっと一番上にぴくりとも動かず鎮座している。下のチケット番号たちを守り続けし伝説の何かになっている。

そして、カウンターにはポツンと残されたままの白い生姜焼き……。配膳担当をしているお姉さんも、「あれ、おかしいな?」という様子を醸し出している。

3人組の学生を見ると、なんの疑いもなく目前の定食をモリモリと食べている。いいな、美味しそうだな。最初の子なんてもう食べ終わりそうだ。

それ、絶対わたしの生姜焼き定食だよね?

……悲しくなってきた。だめだ、もう、限界。
とうとうカウンターへ向かうことにした。
「あの……私、291番なんですが、まだですか?」
配膳スタッフのお姉さんの胸の名札には「研修中」という紙が貼られていた。

困った顔全開の研修中のお姉さんが、すぐに奥の2人のスタッフに相談に行った。調理スタッフのおばさん2人が慌ててカウンターにやってきた。
そして、ポツンと残された塩麹生姜焼き定食らしきセットを見て
「あちゃー! これは塩麹! 生姜焼きは茶色いから! あんた、誰かに間違えて出しちゃってるよ!」

……ですよねー

おばさんたちは私に「すいませえーん。すぐ作りますんで、もうしばらくお待ちくださーい」「ごめんなさいねー」といった。
うん、わかってたよ。
「はーい」
怒ってもしょうがないので、別に全然大丈夫ですよ、という顔で席へ帰り待つことにした。

すると、先ほどの研修中のお姉さんがお盆を持ってやってきた。
できたのかな? 不手際のお詫びに、ここまで持ってきてくれたのかな?
「悪いなー、そんな、別に普通に取りにいくのにー」
なんて思っていたら、彼女はクルッと直角に曲がり学生さんたちのテーブルに着いた。
「すみません、そちら生姜焼き定食でして、塩麹はこちらになります」
塩麹生姜焼き定食を、私の生姜焼き定食を食べちゃった青年に配膳した。
「えっ、そうなんすか! もう食べちゃいました」
「あ、はいー。お代は結構なんで。こちらも、よかったら召し上がってください」
「えー、いいんすか。アザース!!」

えーーーっ! なんでっ? なんでお兄さんが得するん!?
めっちゃ待たされたのは私なのに! 

ポーン
「お待たせいたしました。チケット番号、291番の方、カウンターまでお越しください」
普通に呼ばれるんかーい


ま、いっか。待った分、余分に美味しかったからー……(涙)
ごちそうさまでした。

本社にメールしようかな?
「分かりやすいようにお皿の色とか変えたら?」って

おしまい


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