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「しばしご歓談ください」がこわい

この世でいちばん恐ろしいアナウンス。「それでは、しばしご歓談ください」

次点は「2人1組になって」。

「2人1組になって」は、大人になるとそうそう出くわさないけれど、ご歓談タイムは今でもたまに遭遇する。会社の歓迎会、結婚式の2次会、イベントの交流会、最近ではオンラインMTGなどでもアイスブレイクの時間が設けられている場合もある。

コミュ障である私にとってその時間は地獄以外の何でもない。ご歓談てなに。「さあ、どうぞ」って言われても……! 知らない人ばかりのご歓談タイムなんて誰に何を話しかけたらいいのやら? どんな顔で? どんな声で? 

「初めまして。斉藤ナミといいます。名古屋でエッセイ書いてます」
「へー? そうなんですね。僕は○○です、東京で営業やってます」
「へー。営業、大変そうですね」
「ええ。まあ」「はははは……」
終了ー。

どうやって初めて会う普通の人と話を膨らませられようか? もっと珍しい仕事でもしていてくれよ。何も話題が見つからない。

名刺でもあれば「おしゃれな名刺ですねー」「紙質がいいですねー」など、もう1分くらいは引き延ばすことができるが、結局その後はお互いが苦笑いするだけの時間が永遠に続く。脇から汗が噴き出る。どうしよう、どうしよう、この無言どうやって埋めたら……。

ああ、向こうのエリアはとても楽しそうだな。どんな鍛錬を積めばあんなふうに初めての人を楽しそうに笑わせることができるんだろう?
きっとこの人も、あっちの楽しそうな人のところに逃げたいんだろうな。行ってくれてもいいんですよ? 私なんかが話しかけてしまって、本当に申し訳ない。
あぁ、この場からもう消えたい。たった今、電話かかってきてくれないかな。「わー、これは出ないと。ちょっとすみません」と断り、大きめの声で「あ、どうもお世話になっておりますー!」と言って外に出るのに!

マンツーマンではなく、例えば居合わせた3人で会話することになるとしてもうまくいかない。
初めはともにそれぞれ自己紹介をして、同じくらいの分量での会話が始まるが、頭の回転がついていかない私が次第に口を挟むタイミングを失い、私以外の2人がどんどん仲良くなっていき、気づけば一人で苦笑いをして立ち尽くしてヘラヘラしている、ということになる。もう私、座った方が……いいかな?

一人でいたとしても、どんな顔をしていればいいのかわからない。話しかけられたい気持ちも少しはあるが、話しかけられたとしてもすぐに苦笑いタイムが待っている。せっかく勇気を出して私に話しかけてくれた人の「この人面白そうだな」の期待を裏切りたくない! ガッカリさせてしまうのが怖い!
どうしたら「あの人、ひとりぼっちで可哀想だから話しかけてあげた方がいいかな?」と思われずに放っておいてもらえるかで必死だ。
電話がかかってきたふりをする? パソコンを広げて仕事で忙しいふりをする?

頼む頼む頼む、歓談タイム、早く終われ!

ああ、こんなことなら開始早々「漏れそうだったんだー」というフリをして速攻でトイレに行き、歓談タイムが終わるまでの時間、個室に閉じこもって過ごすべきだった?
なんなら、この時間がこのタイミングであるとわかっていたら早退か遅刻をしておくべきだった?

もちろん、歓談タイムでその場の人たちと仲良くなれたら、そんないいことはない。友達になれたり、いいお仕事に繋がったりするかもしれない。それに、この後の時間がグッと楽しくなるだろう。

私みたいな普段から引きこもっている人間には、こんなふうに知らない人と話す機会なんてそうそうない。大きなチャンスじゃないか! 多少疲れたって頑張れよ、私! と思わないでもない。

でもね、今日はちょっと体調が……。
普段よりだいぶ頭の回転が遅いかも。面白い返しも、いいボールも投げられそうにない。あと、メイクも若干失敗したかも。服も、家のミラーで見た時は良かったけど、さっき外で見たらいまいちだったし。
こんな状態で歓談して「あーあ、斉藤ナミってこんなつまんない人か」って思われても嫌だしなあ……。

本当は、もっと面白いんですよ、私!
本来ならもうちょっとかわいいし、もっとセンスもあって、たまにはクレバーな冴えた返しもできる人間なんです。

だから……歓談タイムはまた今度にしよう。
今日は、電話かかってきたふりして、外に出よう!
あー、残念だなー。ご歓談、また今度頑張るね!

おしまい


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