日常生活の中の聖なる物語
ピーテル・ブリューゲル(父)『パウロの改心』(1567年、ウィーン美術史美術館)
パウロは生前のイエスの弟子ではなく、キリスト教徒を迫害する者だった。イエスの死後、イエスに遣わされた者として使徒になる。
絵はパウロが改心するシーンだ。キリスト教徒迫害に向かう途中、イエスの声を聞き、パウロは落馬し、一時的に失明する。その体験を経てパウロは改心し、イエスの使徒になる。
イエスの弟子たちはユダヤ人のコミュニティで布教した。パウロはユダヤ人以外の者に布教した。そのため、キリスト教はパウロが創った宗教だとさえいわれる。
そのパウロが改心する重要なシーンだが、画面の真ん中あたりに転がる小さく描かれている人物がパウロだ。
ブリューゲルは重要なシーンは小さく描く。彼が大きく描くのは徒歩の民衆たちだ。
民衆たちの日常生活の中にこそ聖なる物語があるのだ、そんなブリューゲルの呟きが聞こえてきそうだ。
左端の山中の道に、民衆たちの行軍は続く。
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