OraOradeShitoriegumo

線香花火は燃え尽きる

まだ、暖かい。


真っ黒で前も後ろもわからない。足はすくんで動かない。

みんな行ってしまった。

「まって、わたしはここにいるよ」

「どこにいくの」

「おいていかないで、まだ私は、ここにいたいのに」


周りには誰もいない。

みんなの背中だけが遠くに見えたかもしれない。

みんな、どこに行ったの。

あんなに楽しかったのに。私はまだ。


私は変わらない。ただ線の上を、変わることのない線の上を急かされるように背をつつかれてノロノロと仕方なく歩く。足取りはよわくおぼつかない。

みんなはあっという間に先へ行ってしまった。

それぞれの道に別れて。

久しぶりに見た誰かはまるで違って見えて交わった線がもう見えない。

いつもそうだ。

私は変わらないのに、みんなは変わる。


だから、私はしがみついて動かない。動けない。

今もこうして、小さな火の玉を抱いている。


それはまるで……

まるで、線香花火。

ぱちぱちと弾けて楽しい日々の抜け殻。

小さく跳ねて勢いはなく、赤く腫れて膨らんで、ただ落ちるのを見つめる寂しい時間。

終わるのがこわくて必死に守って消えないように亡くさないように、無意味に続ける虚しいだけの延命処置。


それももう、疲れてしまった。

この落ちるばかりの火の玉に向ける感情はなんだっけ。

多分、愛しかったのかな。

見つめていると優しい気持ちになる。少し嬉しい。

だけど、それだけ。今では苦しみの方が大きい。

吹き荒ぶ風に切りつけられてもう終わらせたくなっていた。

「ねぇ、君はどう?」

火の玉に聞く。

「そっか、君もそうなんだね。」

「ありがとう。もう行っていいよ。ごめんね。」


火の玉が落ちる。線香花火の終わり。

残響、決別、行方。

線香花火の火が落ちる。

ポトリと地面に引き寄せられて、

夏の終わり。蝉の声が終わりを告げた。


落ちた火の玉、私の見ていた幻想。

立ち上がったら、視線の先には火の玉がいた。

遠く、すでに手は届かない。

終わりかけじゃなくて今もたしかに燃えている。

暖かくて優しい光。だけど私には向いていない。

隣には、私の知らないもうひとつ。

あなたはとっくに先に行っていたんだね。

残された抜け殻しか見ていなくて気づけなかった。


どうか、お幸せに。

力なく手を振ったら火の玉は少し振り向いて

優しく微笑んだ。


小さな光を失って、私の周りを闇が覆う。

今さらこわくない。

だけど寂しいかな、ひとりきりだ。


私は、どこに行くんだろう。

道筋は見えない。ただ歩くしかなくて暗闇の中をゆらゆらと彷徨う。私の行方はどこだろうか。

この道はどこへ続くのだろう。

OraOradeShitoriegumo

闇の中でひとりになって、私は私に問いかける。


ねぇ、どこに行きたいかな。

私には何があるんだろう。


私は答える。


私は、どこにでも行きたいかな。

私には何だってあるよ。


私もそう思う。

広がる闇は静かで何もなくて、だから何でも空想できた。

叶わなかった憧れも、有り得なかった結末も、

どんな世界でも闇に紡げば光になって希望になる。


指先で紡いだ世界が広がり私を導いてくれる。

私には答えられなかったあの日の問いも紡いだ物語が答えをくれる。


私は世界を描きたい。


「あれ、なんだろう?」


1寸先の闇の先に小さく漏れる光があった。

なんだ、みんなそこにいたんだ。


気づけなかった光。ずっとあったのに。

火の玉を抱いていたから小さな光を見落としていた。


私は気づくと光の方へ駆け出していた。

息を切らして、たまに立ち止まっても辿り着く。

曲がりくねって壁にぶつかって悩むけれども見失わない。

辿り着けるかわからないけど辿り着きたいから私は行くよ。


ふと、後ろを振り返る。

小さな火の玉が浮かんでいた。

消えそうなくらい淡くて優しい小さな灯火。


「もういいの?」

って優しく微笑む


「もういいよ。」

って笑って答える。


今までありがとう。

君がいたから寂しくなかった。

だけどもう大丈夫、私はひとりで歩けるから。

一緒にいてくれてありがとう。


「私は私でひとりで行くよ」

もうそこに火の玉はいなかった。

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