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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

鈴蘭の剣・運命の螺旋初期実装全ルートの物語解説とクリア所感(端から端までネタバレあり

※2024/9/12追加ルートには触れていません
※端から端まで運命の螺旋のネタバレの塊です


 鈴蘭の剣、運命の螺旋の初期実装エンディングをコンプしたので、その内容解説と感想などを書き連ねて行きたいと思います。
 基本的に核心に触れるネタバレをしているので了承済みの方だけよろしくお願いします。
 画像はなしで文字だけでいきます。

○騎士諸国連合ルート

 俗にいうグロリアルート。だと思って選んでみると、実際のところはグロリアに寄り添おうと思ったらルトフィが俺を選べよと迫ってくるルートだったりする。
 騎士連合の中で最も高潔で信頼が置けそうなグロリアと、騎士連合は強いけど実際のところはクソだしイリヤをしゃぶりたいだけだからこっちも力だけ借りパクするんやでってルトフィの間で「どう判断するか」に終始する。 
 けっこう選択肢が罠というか「やってんねえ!」感のあるところとして、ルトフィの描写はうさんくさい。タクティクスオウガのヴァイス枠を想定してるのかなあと思ったりもする。
 そうするとグロリアで迷わないじゃんとなりそうだが、騎士連合という組織自体は確かにうさんくさく、そこに関してはルトフィの言動にちゃんと説得力がある。

・グッド&バッド共通ルート

 なんとなくグロリア好感寄りプレイと、徹底的ルトフィ支持プレイはどちらの場合もクライマックスまでは共通。クロスロード要塞を落すことが現イリヤ体制を終わらせる直行ルートとして、騎士団を選んだ鈴蘭の剣は、イリヤ王国内に根差す傭兵団でありながら要塞包囲軍の一翼となる。まあ普通に内乱軍。
 要塞攻防戦は激戦であり、騎士団側代表であるオーギュストは傭兵は駒として使い捨てる人間であるため、鈴蘭の剣もかなり都合よく利用される。グロリアという個人への信頼が共通見解としてなければたやすく破綻するだろう関係性。

 騎士連合にはイリヤ第2王子であるルトフィが参陣しており、主人公をやたらと気に入った彼は暴君ダンタリオン打倒の相棒として、鈴蘭の剣への期待と愛情を深めて行く。
 グロリアは騎士団員として要塞戦に参加しつつ、イナンナの引き受け人となったことで騎士として彼女を守護する誓いを立て、「ウェーブラン暴動は黒幕がいる。その正体を暴く」という活動に身を投じることになる。
 クロスロード要塞を包囲する騎士連合と法皇国は一枚岩ではなく、法皇国のちゃぶ台返しなどもあって窮地に陥ることもあるが、なんだかんだ武力系大国、最終的にきっちり落す。現イリヤ体制崩壊はもう目の前、そんな中でグロリアは「秘密」に後一歩まで迫っていた。
 そんな彼女のことを「あんまり助けないようにしてね。わざと救援を遅らせたりもしちゃってね。彼女はあくまで極悪卑劣なイリヤの敵である騎士団員だよ」と熱烈アピールしてくるルトフィ。イリヤのために現イリヤを倒すことを選んだ鈴蘭の剣が選ぶべきは誰なのか。

 僕は記念すべき運命の螺旋1周目はこのルートのバッド1だった。かなりはっきりとグロリア優先してたつもりなんであれ?ってなったのを覚えている。思い返してみるとかなり序盤の選択肢で「騎士連合は利用するだけだ」を選んでいた。その時点からグロリア個人への感情とは別に騎士連合そのものを信頼してはいけない感があったのだろう。

 ルトフィが隙あらば騎士連合に本心から気を許しては駄目だよと囁いてくる中で、グロリア個人への信頼を示すためには「グロリアが騎士連合を疑っていない段階では主人公側も騎士連合を信じるべき」という構造なのがルート分岐トラップでもあり、よく出来ているところだなあと。

・バッドエンディング1と2

 「ウェーブランの真実」を探求するグロリアは、自らの所属する騎士連合そのものを疑うようになっていく。「グロリアは好きだけど騎士連合は信じていなかったプレイヤー」もグロリアへの好感度が深まり寄り添いたくなるように出来ている。だが、初期に騎士連合を警戒し過ぎてしまっていたら普通に手遅れで、グロリアは「騎士連合への疑いを事実として実証するもの」を得ることに失敗してしまう。
 ここらへんの展開においてルトフィの煽りは普通にエグい。ルトフィ支持プレイだったが途中でグロリアを選ぶようになったなんて人もいるんじゃないかな。
 実質親みたいな存在でもあるティードンも失うグロリア。ただまあ、グッドのネタバレを入れちゃうと、ティードンに関してはある意味でグッドの方がエグイことになる。「グロリアとティードンの表面的な関係性」という部分だけで見ればバッドルートの方が救いがある。ここらへんすごく「この作品らしい」ところ。

 兄貴へのコンプレックス発露が隠せなくなってくるルトフィ。イリヤは暴君に支配されているという名分の裏に見え隠れする彼の本音や人間性は、生の人間らしさに溢れてはいるが幼稚さも目立つ。
 ルトフィを全面的に信じることが難しい構成になっていることで、第一王子ダンタリオンは本当に暴君なのか? 彼が諸悪の根源なのか? と疑問を得られるようになっている。よく出来てるなあとは思った。
 鈴蘭の剣を通してプレイヤーにも映る「事実」として、民衆はイリヤ王室を無能で暴君の集まりと罵っており、吊し人を民衆虐待秘密警察として恐れている。民衆に寄り添う者である鈴蘭の剣にとって、そこは無視できない。

 グロリアは信じたい、ルトフィはちょっと信じ切れないが騎士連合とイリヤ王室関連の部分に関しては本当にそうかもしれない……という揺れ揺れの感情で進んでいくことになり、ルトフィの執念の勝ちとばかりにイリヤは騎士連合の前に屈する。
 ダンタリオンが「ウェーブランの暴動」の黒幕の1人だったというのが確定するがちょっと表現の難しいところで、一番近いのは銀河英雄伝説の有名シーンである「貴族連合の例のあれを見捨てたラインハルト」だと思う。
 一方でグロリアも「騎士連合のオーギュストがウェーブランの黒幕」であるところまで辿り着く。こちらはごりごりの真っ黒。だが物証確保は失敗している。

 グロリアは自身の中の高潔さに殉じる道を選ぶ。騎士の誇りを賭けて守ると誓ったイナンナがオーギュストにより公開処刑されようとしている中で、証拠など不要、私の騎士道、私の精神のみで巨悪を弾劾し否定するとして立ちふさがる。
 それをテラス席でワインゆらゆらさせながら「面白い見世物」としてご満悦ムーブするルトフィ。ある意味で彼の本骨頂、彼というキャラクター最大の見せ場であり、ここまで思うところありながらも彼には彼の信念と真実があるとしてルトフィ支持プレイをしていた者もドン引きさせる描写だ。
 そんなルトフィを「ここで遂に見切る」選択肢を用意してるところもこの作品の恐ろしさ。
 グロリア救出を選ぶとルトフィのペルソナが完全に剥がれ落ちる。それは実は俺は醜悪な悪者だったんだよ~んというような顔ではなく、もっと純粋で切実でだがしかしやっぱり幼稚な「僕はただ僕を僕として選んでくれる唯一無二の親友が欲しかっただけ、僕の理想を肯定してくれる者と見たい景色があるだけ」という本心の叫び。
 それでもグロリアを選べばバッドエンディング1(グロリアの好感度判定あり?)へ。
 ルトフィを選べばバッドエンディング2へ。

 バッドエンディング1ではルトフィは求めて見出したと思っていた「唯一無二の友」に斬られてその人生を終えるという結末となる。現状、ルトフィにとってでもそれが一番幸せな終わり方になっているかもしれないというところがなんとも言えない感情を呼び起こす。
 グロリアは多少の騎士の心を動かすことに成功するが、騎士連合のイリヤ方面代表という顔を持つオーギュストを転落させるには到らず、主人公とグロリアで背中合わせに「死ぬまで正義は我にありと剣を振るい続けることしか出来ない」、オーギュストに敗北エンド。ただ「高潔さを信じる者たちへの動揺」という種だけは撒いた。
 イリヤ王国は騎士連合のしてやったり万々歳扱いとなる。史実でも権力の前に滅亡しかなかった英雄がずっと語り継がれるケースがあるが、グロリアと主人公はそういう枠になる。歴史上「最もありそうなルート」という表現も出来るかもしれない。
 到達時の感想は「そっかー。そうなるかー。ルトフィ斬っちゃったかあ。まあでもあそこで一緒にニコニコワインは無理。ないわな」という感じ。

 バッドエンディング2ではグロリアを見捨てし共犯者として騎士連合の内輪揉めをじっくり堪能する。さらばグロリア、君は良いやつだったが騎士連合が悪いのだよというお話。イナンナの事は見捨てる気はないとして意見一致しているため彼女は助かる。ただし一生王宮軟禁生活入り。
 ルトフィはイリヤ王国を手に入れ、側近にして親友という得がたい存在も手に入れる。が、本質的に夢見る坊やから大人へとなることが出来なかった彼に、騎士連合を手玉にとるほどの王政は届かない。騎士連合からみても傀儡はいた方が都合がよいし、なんだかんだで悪くない人形だよルトフィ君は扱いで彼の人生は終わる。
 到達時の感想は「ルトフィにとって、バッドエンディング1の方が幸せだったかもねと思わせるところが本当にこの作品らしい」なと。こちらも最終的には騎士連合のしてやったり万々歳ルート。

・グッドエンディング

 ルトフィはガン無視というか構造上無視はできないのだけれど、何がどうなってもグロリアを信じる。グロリアが騎士連合を信じている時は主人公も騎士連合ごと信じ、グロリアが騎士連合を疑いだしたならばその感情に寄り添う。完璧なグロリア寄り添いを成し遂げることにより、グロリアは「オーギュストが黒幕の物証確保」にまで辿り着く。
 グッドルートなんだから全てが順調ですと行かないのが運命の螺旋。グロリア最大の理解者であり保護者であったティードンは、彼女がそれ以上進むことを制止してしまう。拘束監禁レベルの強硬手段を使ってでも。
 それは親心からなのは間違いないが、打算と保身ありきで生き延びてきた騎士連合所属者の本能でもあったのだろう。彼は騎士連合が「強すぎる」ことを正確に理解しており、「オーギュスト個人が悪者でしたという話でもない」ことも理解していた。
 「長いものに巻かれる大人になる賢さを持って人生を全うして欲しい」と、それが「親が娘に」望んだ本心だった。
 グロリアの高潔さはそれを否定する。彼女は自分が自分であるために、最愛の人物であったティードンを「騎士連合の闇にのまれた日和見の卑怯者」として断罪してしまう。
 ここは本当にえぐかった。中年以上の男性、特に既婚者ならティードンを否定できないだろう。あまりにもエグすぐる修羅の道へ実質愛娘を送り出す父親などいない。
 グロリアの精神的ダメージも大きく、しばらく彼女は「道を見失う」ことになる。鈴蘭の剣はイリヤ王国の問題に対処しながらも彼女を問い詰めずにそっと見守ることを選ぶ。

 このルートにおいてもルトフィのスタンスは変わらないのだが、主人公の献身的サポートがないために、独力の限界が多すぎて破綻する。
 僕に有能で誠実で裏切らない唯一無二の親友さえいれば……という無念を抱えて退場するルトフィ。グロリアにとってはルトフィどころではなく、騎士連合としてはいたらいたで悪くない傀儡人形候補だったけどいなきゃいないでまあいいやという存在。グッドルートの方がバッドでの人生より空しく終わる無常さ。だからやっぱり騎士連合ルートはグロリアルートであってルトフィルートではないという話なのだろう。
 色々間に合わなくなるギリギリで立ち直るグロリア。イナンナを身命を賭して守る誓いは生きている。覚悟完了グロリアと鈴蘭の剣はいざ公開処刑場へ。ティードン絡みのフォロー描写もあり。
 物証があることでようやく「やや不利」になるオーギュスト。それでもやや不利止まりなのが騎士連合という大国の凄味か。
 とはいえオーギュストも騎士連合からは「駒」でしかないのが現実。グロリアの騎士の中の騎士とでも呼ぶべき名声、クリティカルな物証を掴まれるというオーギュストの失態。対イリヤにおいて無視できない勢力と成った鈴蘭の剣。イリヤ王室崩壊という第一目標自体は達成済み。騎士連合は「グロリアに乗り換える」判断を下す。さらばオーギュスト。君はしっかりちゃんとした悪役だった。

 対イリヤの窓口兼代表をグロリアにすることで「妥協案としては悪くない」形に落ち着く騎士連合と新生イリヤ王国。めでたしめでたしで終わらないのが覚悟完了グロリア。
 騎士連合のグロリアとして、自分が完全にぶっ壊れるか騎士連合の腐った部分をぶっ壊すかの一生かけても終わらないかもしれない道へと進むべくイリヤを離れることになるグロリア。最大の理解者であり盟友となった主人公はついていかない。彼の人生は既にイリヤに捧げている。再開は叶わないかもしれないが、互いに胸を張って笑顔で前を見つめることが出来る別れ。こうして一つの物語が終わる。
 到達時の感想は「聖騎士グロリア物語としては間違いなくグッドルートだな。良い物語だった。でもイリヤはギリギリ引き分けに見える実質負けだよなあ」というところ。これがイリヤ王国正史だとするとけっこう厳しいところではある。

・騎士連合ルートのラヴィア

 ラヴィアは鈴蘭の剣を主人公に託した後に単独で「ウェーブランの真相」の究明を目指すが、難民として身分を隠している状態のイナンナを狙った暗殺者から彼女を守るために盾となり命を落す。グッド・バッド問わずに不可避であり、王女を守るというその意志はグロリアへと継承されたとも言える形となる。


○イリヤ王国ルート

 第一王子ダンタリオンに寄り添うか、王女イナンナに寄り添うかの2択ルートと見せかけて、実は妹大事マンな兄貴は王女に寄り添う者を探してた裏の顔があるため、なんだかんだでダンタリオンルートなイリヤ王国編。
 騎士連合ルートではルトフィを通してしか知ることが出来なかったイリヤ王室や吊し人たちを直接知ることが出来るのがマルチシナリオの醍醐味。
 僕は騎士連合ルートが先だったので、イリヤ王国支配者たちの意外な顔にだいぶ驚いた。ルートによって得る感情が驚くほど変わる。
 イリヤ王国ルートは共通といえる展開が長く続く。その中でかなりの数のフラグ判定が仕込まれており、全てをクリアした場合のみクライマックスがグッドエンディングルートになる構造だ。

・グッド&バッド共通ルート

 吊し人のリーダーであるサフィア。彼女を通じて第一王子ダンタリオンの知己を得た主人公&鈴蘭の剣は「余は存在を認知した。イリヤのために奉公せよ」ということで、傭兵団という立場のまま王室御用達の存在に。
 目下のというか、常に最優先最重要の問題はクロスロード要塞防衛。騎士連合と法皇国とついでにルトフィが現イリヤ体制崩壊のために狙うここが落ちると本当に王国崩壊リーチ。逆にいえばここさえ守りきればイリヤは落ちない。
 ということで非情の決断が出来る執政者ダンタリオンは「イリヤ防衛のためのクロスロード防衛」のためなら何でもする覚悟完了済み。鈴蘭の剣もそのための駒となる。
 王国正規軍+吊し人+鈴蘭の剣では戦力として足りない。まったく足りない。というわけでダンタリオンが目をつけたのがウィルダ族。イナンナ+鈴蘭の剣はこことの仲介者として活動することになる。
 民族浄化の虐殺対象とでもいうべきグロすぎる歴史背景があるイリヤ王国とウィルダ族だが、その前には盟友だった時代もあった。非常に複雑な感情を抱えたまま、クロスロード防衛のための同盟には成功する。

 ダンタリオンは他国からルチア傭兵団の招聘にも成功する。鈴蘭の剣はそれにも協力。そこで砂漠系交易国家(奴隷貿易得意です)なエラマンの商人とも知己となる。友好関係者として出てくる奴隷商人。ホント恐ろしい。
 騎士団ルートではイナンナの保護者兼守護者としての役割だったグロリアは、こちらではただの敵対国の騎士。騎士団ルートではイナンナを奪おうとする悪役だった吊し人は同胞を守る同志であり、年頃の乙女もいてファカールのことが気になってたりなど微笑ましい交流も。
 本当に立場変われば景色も変わる。

 クロスロード攻防戦は膠着戦に持ち込むことに成功。ダンタリオンはルトフィが想像もしていないレベルで弟のことを把握・理解しており、ルトフィからの秘密会談提案などにも乗る。その護衛として選ばれるほどには信頼される存在になっている主人公。
 ダンタリオンはツンデレコミュ障でルトフィは兄貴にだけはデレないヤンデレなのでこの2人は基本上手くいかない。面倒くさい兄弟だわね。

 イリヤには国家間侵略防衛戦争とは別に頭の痛すぎる問題がある。
 テロリスト集団である「闇の光」はイリヤ国内のマインシティを暴力支配して本拠地化していた。マインシティにはエダを含むウェーブラン難民も滞在している。ダンタリオンは国家の存亡に最優先でないものは切り捨てる(しか小国イリヤが大国連合の侵略を防げない)覚悟完了済み。イナンナはそうはいかない。
 少しずつダンタリオンの指示とイナンナの希望が噛み合わなくなりだし鈴蘭の剣はどちら側になるかを「選ぶ」ようになる。
 王国編のツンデレなところは「ダンタリオン自身の指示よりイナンナの希望を優先することがダンタリオンが鈴蘭の剣に求めるところ。ただしそれは表に出さないし、裏でこっそり伝えたりもしない」という部分だ。ゆえに第一王子の犬であることに徹する=バッドルートとなっている。

 ダンタリオン排除が至高の目的であるルトフィはしかし「イリヤ愛」は本物であり、王国崩壊を防ぐための情報をリークしてくる。気がつけば全方位利敵型スパイになっていた件。一気に立場が難しくなるルトフィ。ダンタリオンはおそらくルトフィを嫌ったことはない。だがイリヤ王国存亡の天秤においてルトフィを切り捨てる決断をすることを迷わない。
 イナンナは見捨てることが出来ない。主人公はまたも「選ぶ」ことに。

 ルトフィはダンタリオンに保護されることだけは何がどうなろうと拒む。そんな彼に翻弄されているうちに鈴蘭の剣不在のクロスロードでは決定的かつ最終的な攻防戦が。ウィルダ族は壊滅に等しい被害を出し、ルチア傭兵団も急行した鈴蘭の剣がギリギリ間に合って全滅回避という惨事。それでもクロスロード防衛を果たす。ダンタリオンの「判断」が合っていたともいえる結果に。
 イリヤ併合の絵を捨てるための大国メンツとして犠牲の羊となるルトフィ。イナンナと鈴蘭の剣が何をどうしても回避できないルトフィの破滅。本当にヴァイスみたいな存在だよなって。

 イリヤ現体制は勝った。騎士連合・法皇国・言う事聞かない第2王子・古イリヤ関係者やイリヤ邦国関係者という四面楚歌を生き抜いた。だが待っていた戦後処理は悲惨の一言。
 戦闘に参加してなかったウィルダ族の集団は民族として維持不可能レベルとして奴隷化されていた。そもそもの前提として奴隷貿易大得意国家エラマンとイリヤ王国は「友好関係」だ。
 ダンタリオンはウィルダ族に対しては言い訳不要で「騙して裏切る前提の使い捨て」を行った。彼が非情の決断ができる有能な執政者でありその本心にどれほどの国家愛や人間としての優しさを持っていたとしても「暴君」と謗られるのはそういう部分だろう。
 鈴蘭の剣とも知己となっていたエラマンの奴隷商人は「好意として」相場より格安でのウィルダ族譲渡を提案する。ダンタリオンが資金を出すことはもちろんない。
 傭兵団運用資金を全て突っ込み、足りなければ敵対貴族の財産を押収したり、野党強盗を襲って身包み剥いだり、剣闘士大会に出たりしてでも資金を用意するべきか。鈴蘭の剣は「選ぶ」ことになる。

 騎士連合は形式上は和睦停戦しただけであり敗残国ではない。それでも事実上の戦勝国であるイリヤとしてはとっとと追い出したいしぶっちゃけ侵略加担者は殲滅したい。ダンタリオンは迷わない。鈴蘭の剣にも騎士団残党殲滅指令が降る。イナンナと鈴蘭の剣は考える。騎士連合が滅びるまで戦い続けることは現実的ではない。騎士連合の中から理解者を見つけることが必要なのではと。グロリアという聖騎士は信用しても良いではないだろうか。
 殲滅命令か、勝手に敵国から救済者を選別する独断行動に出るか。またしても「選ぶ」ことになる。

 天からの目で見れば小国イリヤの維持はとても難易度が高く、手足の数本を切り捨ててギリギリという判断の元で綱渡りをし続けてきたダンタリオンと吊し人たち。それは地からみれば虐待者・圧政者・暴君である。
 イナンナは民衆に寄り添いたい。彼女は地に這い蹲る側となって暴君を排除する最後の王族となる決断をする。鈴蘭の剣は「選ぶ」しかない。イリヤを導くべき者を。
 そして運命がジャッジする。これまでの選択を。

・バッドエンディング1と2

 最初にウィルダ族について。3万G用意できても他のフラグ未達成ならバッドルート入りなんだけど、3万Gだめですウィルダ族ルート解説をここで。
 奴隷として散り散りになったウィルダ族は完全に消息不明となり、全てのウィルダ族が完全に死に絶えたわけではないものの、いわゆる「族滅」となる。悲惨を越えて絶句する無慈悲さ。ここが一番のショックだったプレイヤーも多いかと。

 イナンナと鈴蘭の剣はマインシティで演説を行う。「民衆に寄り添うイナンナ」を旗頭に、暴君ダンタリオン打倒の演説を。これまでの選択で1つでも「それでは駄目だな」があった場合、演説は失敗する。イナンナは民衆に受け入れられることはなく彼女の心は壊れる。
 打ちのめされて王都に戻る主人公に「期待していたが残念だった。だが仕方ない。そういうものだ」と告げるダンタリオン。全身全霊でもって他国侵略を跳ね除けた後に、過去のしがらみやら膿などをぶっ潰せるだけぶっ潰し、暴君として倒されることで「負のイリヤを清算する」ことが彼の本心だった。
 そして彼は用意していた別の最終回答を発動する。吊し人と主人公のみを携え、恩師である将軍を切り捨て、父である執政能力のない王を切り捨て、国家を実質的に解体した上で「王は既に不要、共和国こそがイリヤの目指す未来」として、民衆の蜂起が王室を襲うに任せる。イナンナを連れてこの国を捨てどこか遠くで生きよが主人公への最後の命令。
 悲壮の覚悟を背負ってはいるのだけど、ここらへんの思考回路や行動指針はなるほどルトフィと兄弟なんだなと。似てるっちゃ似てるんだよね。

 ダンタリオンの最後の命令に従うとバッドエンディング1へ。鈴蘭の剣すら捨てた主人公はイナンナを連れて放浪の旅へ。完全に折れてしまい壊れているイナンナは生気のある反応を見せない。
 目的地もない旅の果て、突然姿を消したイナンナ。近くには落ちたらまず助からない絶壁……。主人公は自身の旅が「終わった」ことを知る。
 到達した感想は「俺は一生3万Gを許さない」だったかな。いや、イリヤ王国編一発目かなり順調でおそらく3万G以外全部達成してたんすよね。それだけに悔しくて即座に再プレイして、初手から鍛冶禁止・新規勧誘禁止・戦術任務の金銭系禁止・特訓禁止・護衛任務Wにして10万G溜めたのでした。
 さておき物語感想としては「ダンタリオンは本心を言葉に出さなすぎで、サフィアは黙って尽くす女過ぎた」かな。鈴蘭の剣を使い倒すことによって「使い捨てありきでない防衛戦」も「民衆が妥協して受け入れられる範囲での強権復興」も達成できた可能性はある。と提案したら「そういうのを絵に描いた餅、理想論と言うのだ」で切り捨てられそうだけど。
 「主人公が加わった後の鈴蘭の剣」はなろう系チートとかそういう系ではないものの想定できないイレギュラーであったのも間違いなく。最終的な信頼が天元突破まで行ったのは結果論であって、本来の王室目線では元吊し人が作った小さな傭兵団という認識でしかなかったわけで。小規模傭兵団をコアに国家戦略描く王は駄目だよなそりゃ。

 ダンタリオンの命令を拒否するとバッドエンディング2へ。心が壊れてしまったが生き残ったイナンナは、本人の意思と関係のない人形女王として王国を維持する道具となる。鈴蘭の剣は親衛隊として真摯に支えるが、それは民衆──地から見れば「暴君ダンタリオン&吊し人が傀儡イナンナ&鈴蘭の剣にすり替わった」だけだった。
 再び王室を打倒すべく蜂起する民衆。イナンナと主人公へ弓矢を向ける暴徒の中には、かつて共に笑いあい助け合ったエダの姿もあった……。
 到達した感想は「エダも自分で決断できる女でありながら、大きな流れに流されることしかできない人で、しかもそのことを自覚した上で受け入れてしまっている子だよなあ」と。共和国化しても議員に推挙された後に断ったりするんだろうね彼女は。

・グッドエンディング

 3万G用意した場合のウィルダ族から。グッドルート条件だし当然助かるでしょう。3万G用意は本当に大変だし。助かりません。リーダーの1人であるリリヴィアはクロスロード要塞で戦死済みであり、もう1人のノノヴィアは奴隷から解放されるものの手遅れ状態まで衰弱しており、鈴蘭の剣に見守られながら息を引き取ることに。
 部族として完全崩壊したウィルダ族のごく一部は鈴蘭の剣所属傭兵として生きる道を選ぶものの、ほとんどがイリヤ王国の裏切りを絶対に許さない呪詛を抱えて姿を消す。グッドでこれかよ。かなりキツイ。

 そんな絶望満載ではあるものの、イナンナの望みを全力で支え、実際の言葉とは違うところにあるダンタリオンの期待に応え続けるという「選択」を全て成し遂げると、マインシティでのイナンナの演説は成功する。
 暴君ダンタリオン打倒のためイナンナ&鈴蘭の剣&民衆は一体となり、たどり着いた王都で待ち受けるはダンタリオン親衛隊である吊し人──なんとリーダーであるサフィアがダンタリオンを裏切ってこちらに転ぶという。イナンナ・主人公・プレイヤーは当然察する。それも全部ダンタリオンの描いた絵だと。サフィアは本当に昨今見ないレベルの「尽くす女」だよなあ。ルトフィに本当に必要だったものとか言ってはいけない。
 暴君は倒れた。秘密警察的存在だった吊し人への感情は複雑だが、サフィアの功績は大きい。何よりイナンナと鈴蘭の剣が彼女を信用している。イナンナを中心に新生イリヤの復興は進む。それもある程度目処が立った頃、鈴蘭の丘の上で並ぶ2人の王子の墓の前に一同は集まっていた。
 サフィアは公式な立場を辞職し旅立つという。ダンタリオンを愛し尽くし続けた女は彼が望んだ夢にたどり着けたとして自分の人生をはじめる区切りをつけた。
 イナンナは民衆のための王族であり続け、鈴蘭の剣はイリヤの剣にして盾であり続ける。問題はまだまだ山積みだが、イリヤに平和が訪れたのだ。
 到達した感想は「イリヤ王国物語として一番正史感がある」かな。人によってはこれをもってトゥルーエンドとする人もいるかもしれない。ただウィルダ族を見てこれがトゥルーは許されないと思う人もいるだろう。
 光の道にたどり着けるルトフィもいてもいいしね。

 完全に余談だけど運命の螺旋における最難関マップは「さらなる調査」だと思う。難しすぎて白目向いた。

・イリヤ王国ルートのラヴィア

 鈴蘭の剣を主人公に託した後に単独で「ウェーブランの真相」を究明していたが、元吊し人でサフィアと旧知の関係なこともあり、同じように単独潜入任務が得意なサフィアと意外な場所で邂逅したりする。
 ここは私に任せて先に行け的な展開もあるが彼女は無事に鈴蘭の剣へと帰還し、皆の姉御にして主人公の相談役として活躍することになる。


○法皇国ルート

 最序盤の分岐前ルートで顔出しされ、ベラと不思議な絡み方をしたりなど印象を残す聖女サマンサ。そのまま分岐前に帰国してしまうため、法皇国ルート以外では手紙でしか出てこない。しかも意味深なまま死亡したっぽい描写がされる。
 そんなサマンサに寄り添い続けるルート。こちらもクライマックスまではバッド&グッドで共通ルートが続く。

・グッド&バッド共通ルート

 法皇国もイリヤの権益大好き大国としてクロスロード要塞攻防戦に参戦してるわけだが、法皇国ルートにおいては要塞の趨勢は他人事となる。サマンサは庇護の光という宗教組織の聖女であり、教会の敵対者や背教者を断罪する「審判者」でもあった。
 イリヤが抱える問題として、国家間の侵略防衛戦争とは別に邪教テロリスト集団「闇の光」が跋扈する問題がある。サマンサルートでは闇の光との対峙がメインとなっていく。
 サマンサは聖女らしい聖女として純粋に庇護の光を信仰しており、それが民衆や弱き者を救う正しき道だと信じている。そのため常に献身的であり、粗暴な権力者や無法者には敢然と立ち向かい、闇の光は許されざるべき存在として断固たる断罪を行う。
 一方で審判者は国家元首である法皇の代行者であり、師であり育ての親でもある枢機卿からの指令は絶対のものとしている。サマンサに寄り添うことを選んだ鈴蘭の剣は、2つの顔をもつサマンサの活動のどちらにも協力していくことになる。

 法皇国は対イリヤの切り札の1つとしてイリヤの旧体制である「イリヤ邦国の王族確保」に成功しており、ターイルと名乗る彼との交流は法皇国ルートでしか見られない独自のものとなっている。
 イリヤ現王族とは違う血筋の王族として戴冠できる可能性を持つ青年。イリヤは歴史的背景が深いという設定が設定だけで終わっていないところは率直に感心した。

 もしかしたらガチャで最初にゲットしたレジェンドです率ナンバー1かもしれないコルも法皇編メインキャラクターとして登場する。コルはミゲルという男が率いる傭兵団の一員であり、この傭兵団は法皇国御用達の「どんなヤバイ案件も引き受ける傭兵団」として、鈴蘭の剣とも絡んで行くことになる。

 そんなサマンサ&鈴蘭の剣に訪れる転機が「マインシティ解放戦」と「現イリヤ王族暗殺」だ。
 マインシティの方だが、エダを中心としたウェーブラン難民組やイナンナとも手を組み、闇の光の本拠地化していたマインシティの解放に成功する。
 闇の光には表向きの看板としての教祖と黒幕と思われる謎の魔術師(?)がいるのだが、黒幕の方は逃がしてしまう。画竜点睛は欠いたが教祖の捕縛と法皇国移送は大業であり、何より民衆を闇の光の脅威から解放したことは聖女と審判者のどちらのサマンサに取っても本懐であった。
 王族暗殺の方だが、法皇国はミゲル傭兵団へダンタリオン暗殺、審判者サマンサ(とそれにくっついてる鈴蘭の剣)にルトフィ暗殺を指示する。真っ黒を隠す気がなさすぎ法皇国上層部だが、サマンサは葛藤しながらも命令を遂行する。親友ポイント稼ぐ猶予すらもらえずに主人公の手に掛かるルトフィ。まだバッドかグッドかも判断できない段階で起きるこの事件は「やることやっちゃったなあ」とプレイヤーに思わせる印象度が凄まじい。

 このあたりからサマンサは葛藤の色を滲み出すようになってくる。特に庇護の光の正義の下、即座に審判が下されると思っていた闇の光の教祖が何故か本国で「処分保留とする」とされたことを知らされ、彼女の中の何かが大きく揺らぐ。
 主人公はサマンサに寄り添う者として彼女にどう声をかけるか、肯定するか否定するか、そういった判断を「選ぶ」ことになる。
 庇護の光への信仰も、最も信頼する相手である枢機卿の言葉も絶対である。それがサマンサの正義だったわけだが、激動のイリヤ国内での活動の中、彼女は揺れる。
 サマンサを揺らす存在として「戦乱の被害者たる無垢なる異邦少女」と「彼女を姉と慕い、師と敬い、国家正義の象徴として崇める同胞少女」を同時に描いているのがまあ憎らしい。

 王子が暗殺されたイリヤ国は防衛戦どころではなくなり、法皇国はここぞとばかりに不平等条約をひっさげた停戦協定を提案する。サマンサはターイルと共に使者として選ばれ、イナンナはこれを拒絶。イリヤ王国内での情を深めすぎていたサマンサは板ばさみとなり葛藤は苦悩へとなっていく。
 主人公も決断しなければいけない。サマンサを信じていることを大前提とした上で「法皇国は正しいのか?信じてよいのか?」を。
 ターイルはかなり良いキャラをしている。バッドルートでもグッドルートでもそれぞれしっかりとした印象と味を残す。そんな良キャラが法皇国ルートに進まないと存在にすら気付けない構造というのは本当に贅沢な作品だと思う。

 停戦の道が絶たれたイリヤ国内では法皇国を外敵とした民衆の蜂起が勃発する。審判者として制圧を命じられるサマンサだが、隠せない本音が叫びとなって出る。「民衆を傷つけないで欲しい」と。武器をもって襲ってくる蜂起集団を傷つけない。難しい話ではある。傭兵団団長として主人公は「選ぶ」必要がある。

 そして信じがたい衝撃すぎてサマンサの心が壊れるを超越してしまう決定打が訪れる。法皇国が闇の光を排除したマインシティの新しい統治者として「闇の光の元教祖」を選んだというニュースだ。
 彼女の知る正義として、天と地がひっくり返ってもあり得ないことが起きた。しかもそれを彼女に知らせたのは彼女にとっての絶対だった枢機卿だ。
 サマンサと主人公、真の決断の時が来ていた。

・バッドエンディング

 サマンサが聖女としての自分だけの道へ踏み出すに足る後押しが出来ないと、彼女は壊れそうになる心を押さえつけながら「闇の光の元教祖」を迎え入れ、助けたはずの民衆から卑劣な裏切り者としての烙印を押されることになる。
 鈴蘭の街で面倒を見ていた孤児たちだけがサマンサの癒しだったが、その子たちも自身が修道院で育てられたように本国修道院へと移送されることになり、静かになった教会で彼女は「何かをもう諦めて受け入れて」しまっていた。
 高潔ぶった聖女様と傭兵の癖に正義の騎士気取りの主人公に思うところがあったミゲルは「ようやくちゃんと犬らしくなったな!」と笑うのだった。
 そのミゲルも法皇国から用無し判定が下り、「これが犬の末路の見本だ!」と言わんばかりの顛末を迎えることになる。ターイルもまた、大国の都合と旧世界の亡霊に翻弄される籠の中の鳥として、歴史の闇へと去っていく。
 法皇国はイリヤをむしゃぶり尽くそうとすることを隠さなくなり、イナンナを中心としたイリヤ政権は窮鼠として全力の意地を見せる。ウェーブランの暴動の黒幕として法皇国が暗躍していたことを突き止め、王子暗殺の真相にも辿り着く。騎士連合や周辺諸国にとっては法皇国の脱落は大歓迎であるため、世論の風は変わる。法皇国は絶対的勝利者の座から脱落した。
 イリヤ王国内の街に根差した傭兵団でありながら、法皇国の犬となり国内を混乱に落とし入れ王族暗殺までしていた鈴蘭の剣は晴れて最低の売国奴集団となるのだった。
 権益の放棄を余儀なくされた法皇国は、だったらもういらないとイリヤ国内の鉱山一斉爆破計画を立てる。
 道を見失い闇に沈んでいたサマンサは、最後の決断をした。法皇国の暴挙を止める。そして自らの死をもって最後の贖罪とすると。鈴蘭の剣に出来る事もまた決まっていた……。
 このルートではファカールが凄まじい男気を見せる。マイサとファカールはグッド・バッドを問わずに全ルートで欠かせない存在なわけだけど、ここのファカールは本当に凄まじかった。
 到達した感想は「闇の光はそんな気はしていた。意図的にバッドを見ようとしない限りこれを受け入れることはないでしょ。バッド入っちゃった人は別のフラグで失敗してのパターンよね」という感じ。宗教系国家はまあこんな感じにどうしてもね。なるよねって。

・グッドエンディング

 過去の所業はなかったことにはできない。だがそれでも未来は選べる。サマンサを導くことに成功する(複数の難易度高めのフラグを全部取る)と、彼女は国家の管理する看板聖女からの脱却をはじめる。
 法皇国が用意した闇の光元教祖を問答無用で断罪し、これこそが正義であると本国へ突きつける。とはいえ、すぐさま反法皇国化というわけではなく、教会の孤児を本国修道院へ送り出すことなどは行う。自身が大事に育てられた良い思いでの場所である事実は変わらないのだから……。
 そこへ魔女ベラが飛び込んでくる。最序盤共通ルートで絡んだ2人。その関係性の真実がこのルートでのみ開示される。
 本国修道院は国家公認の人体実験施設であり、非人道的な魔石実験に適合した者で特に優秀な者だけが審判者候補として掬い上げられ大事に育てられる。中途半端な適合者は魔女の烙印を押され、適合に失敗し怪物化するものがほとんどである。魔女ベラはサマンサと同じ修道院で育った仲間の1人だったのだ。
 大事な教会の孤児たちを救うべく急行する一行。美しい思い出でいっぱいのはずの修道院の秘密研究所に座していた責任者は、マインシティで闇の光を束ねていた謎の黒幕魔術師だった。闇の光そのものが法皇国が用意したマッチポンプ装置だったのだ。
 ここに到り、ただ一個のサマンサという聖女へと覚醒する道が開く。とはいえ彼女と鈴蘭の剣だけで法皇国という大国を崩壊させることは出来ない。現実的な対抗策が必要だ。ならば答えは1つしかない。イリヤだ。

 旧支配者層の王族であるターイルをイリヤ王とする法皇国からの提案をイナンナは受け入れる。法皇国狙い通り万々歳へ王手。民衆の前に姿を現すターイル。彼の先祖が王だった時代は「それはまさに法皇国の犬であり奴隷であった」と言われており、民衆は絶望する。そこへイリヤの王に相応しいのは誰かと問いかけるターイル。民衆はイナンナを選び、法皇国の犬もとい、切り札枠として高級籠の鳥として生かされていたターイルはそれを受け入れる。
 サマンサ、鈴蘭の剣、イナンナ陣営、ターイルは対法皇国に一発ぶちかます同盟として既に手を結んでいたのだ。
 ここのターイルはそれでもイナンナの側近になったり鈴蘭の街に腰を落ち着けたりを「出来ない」ことを承知の上で道化王子を演じる決断してるんだよね。法皇国ルートを最後に回した人間としてはどうしてもルトフィと比較してしまう。なんだかんだでルトフィを救いたいと思ってるんだよな俺。

 ミゲルもまた、最後まで高潔ぶる生き方を貫くことを選んだ鈴蘭の剣をコルを託す場所として選び、自身の滅亡を代償に法皇国の犬として得ていた秘密を主人公に託していた。
 突けば突くだけ出てくる秘密流失により世論的窮地に追い込まれる法皇国。イリヤ国内鉱山一斉爆破などの苦し紛れに走るがサマンサと鈴蘭の剣に阻止される。
 そしてサマンサは師であり育ての親である枢機卿の元へと殴りこむ。自身の信じる庇護の光信徒としての正義を示すために。
 枢機卿と対峙し、国家が腐敗しているならばその国家そのものに庇護の光を当てなければならないと宣言するサマンサ。彼女が選んだ道は、法皇国の打破でも断罪でもなく、相手が誰であれ迷わずに庇護の光が導く道を示し続けることだった。

 法皇国はサマンサを排除することよりも受け入れざるを得ない立場となる。彼女の人生をかけた光の道がはじまった。一生掛かるかもしれないその道をイリヤよりも彼女を選んだ主人公がそっと寄り添う。
 到達した感想は「聖女サマンサ物語として完璧だった。イリヤ目線だと最悪は回避したけど主人公と鈴蘭の剣を許しちゃいけないと思う。イナンナ大人になったなあ。成らざるを得なかったが正しいか」かな。
 創作の宗教国家は鬼畜暗黒系になりがちである。そういう風潮はある。そんな中でマイサとファカールを通して「大事な人のため、超常的な何かに祈る意味」を描いたのは地味だけどあるなしで天地の差の描写だった。ああいう描写を入れられるのがこの作品の凄味。
 ルトフィを語る時にかなりタクティクスオウガのヴァイスをこすったけど、ミゲルもまたある意味でヴァイス枠だった。対比存在として非常に良かった。ヴァイスが好きすぎる? それはしょうがない。鈴蘭の剣はタクティクスオウガを出してよい作品ですしね。

・法皇国ルートのラヴィア

 鈴蘭の剣を主人公に託した後に単独で「ウェーブランの真相」を追究していたが、法皇国に存在を気付かれミゲル傭兵団へ始末命令が出る。ラヴィアはミゲルとも旧知の関係だったようだ。グッドとバッドで若干描写が変わるが不可避ではある。

○ルート分岐突入失敗バッドエンド

 最序盤共通ルート最後のシーンである「闇の光による鈴蘭の街襲撃」において、救援条件未達成の場合の全滅エンド。シンプルに闇の光に負け、鈴蘭の剣だけでなく街が壊滅する。バッドコンプのためだけにあるエンディングかなあ。

○ラヴィアについて

 鈴蘭の剣という作品に触れた人間が最初に味わう衝撃にしてこのゲームへの印象を決定つける、ある意味でこの作品のメインヒロインであるラヴィア。トゥルーエンドというものがあるのであれば、彼女の生死がどうなるかは必須条件であると考えるプレイヤーも多いのではないかと思う。
 その意味で見てもグロリアグッドルートとサマンサグッドルートは彼女たちを主人公とした物語としては素晴らしくても、イリヤ王国とラヴィアとマイサとファカールの物語としてはグッドではないなあとなる。
 そうなるとやっぱイリヤ王国グッドが一番正史感がある。ただそれでも僕はトゥルーエンドではないと思う。
 そのために愚者の旅路があるんじゃないか? 鈴蘭の剣という物語におけるトゥルーエンドは螺旋の可能性を試しつくした後、楽園経由の愚者の旅の果てに置かれているのでは? とか思ったりもするわけで。

 というところでまだ触ってない追加シナリオを遊びますかね。
 エラマンとウィルダ族のルート。螺旋をやりこんでる人間としてやる前からわかる「絶対エグいやつ」。恐ろしいですねえ。

鈴蘭の剣
https://soc.xd.com/jp/

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