熱狂的ファンが生み出す同人活動という世界。『千年戦争アイギス』の同人誌・ファンブックとして熱量がちょっと狂ってる『千年真書』シリーズの紹介。


 『千年戦争アイギス』というゲームを題材にした、『アイギス千年真書(以下:千年真書)』という同人誌(ファンブック)が存在する。
 オタクエンタメコンテンツにおいては当たり前ともなった同人というジャンルだが、原則として熱烈なファンが驚異的な情熱を持って行うファン活動であるため、時として驚くようなクオリティのものが出てくる。
 そんな、熱いファンが作ったファンブックとしてなんかちょっと凄いことになっている『アイギス千年真書』を紹介したいと思う。
 とはいえ、同人誌という性質上既に入手困難なものも多い、そのため過去作は簡単な概要を紹介するという形に留めて、最新作のみ中身も少し追ってみるという形での紹介としたい。

※本記事で紹介する作品はアマチュアによる同人活動作品であり、DMMおよび千年戦争アイギス公式とは無関係となります
※紹介作品制作者とは個人的交流があり、その関係で筆者は制作サークル所属者ではないが一部作品に協力者クレジットされています。が、本記事は純粋に筆者が書こうと思って書いているだけなので依頼案件ではなく趣味記事となります

○シリーズ8作にもおよぶ一大ファンブック

画像はメロンブックスより。


同じくメロンブックスから。URLは記事末尾に記載。

 2017年に頒布された第一弾を皮切りに、ナンバリング4作、LiteにExtraというシリーズが2作ずつの計8作が頒布されている。第一作目は表紙を七六氏(アイギスでもお仕事をされているプロイラストレーター・漫画家)が飾り、その七六氏へのインタビューや、プロドットクリエイターである入山となつ氏へのインタビューも掲載されているなどで、発表時からファンの間で話題となっていた。なお、『千年戦争アイギス』というコンテンツは公式と仕事をしているプロクリエイターが同人誌活動に参戦することがままある世界でもあったりする。
 第一作目はゲームとしてのシステム解説や難所攻略指南、独自に制作した詰め将棋ならぬ「詰めアイギス」などで構成されており、ゲームとしてのやり応えが強い作品のファンブックらしい内容構成だ。一般ユーザーを集めて「遊び方のポリシー」を語り合う企画などもあり、そういったところは実に同人誌らしい。
 極めて同人誌らしい企画としてはプロクリエイターと一般ユーザーが交流する形での対談・座談会という企画を実現させている。
 攻略情報や一般ユーザーの感想を見るなどはSNSや個人ブログ、動画など選択肢は無数にあり、プロクリエイターのインタビューなどは商業コンテンツの王道として愛好者が多い。そのどちらもフォローしてあるだけで立派なのだが、同人誌のファンブックでしか不可能なプロとファンが交わるその瞬間の目撃者になれるというのは『千年真書』だけの魅力だろう。というか普通は同人誌でもできない。

 『千年真書II』になって少し様子が変わる。分厚い。びっくりするほど分厚い。Iの82ページというのも「薄い本」と呼ぶのが憚られる厚さではあったのが、IIの190ページは明らかにおかしい。ファンの熱気と狂気がそのまま厚さに宿っているといえるだろう。

明らかに分厚い。

 内容はシステム面や攻略面の記事からはじまり、ユニット性能レビュー、一般ユーザーのポリシー紹介、プロクリエイターインタビュー、一般層×プロの交流企画と初代を踏襲している。
 Iを経て作られたIIでもって制作側も活動における骨子になったという手応えがあったのか、IIに関してはExtraという派生制作も行っている。

 『千年真書III』はやはりシステム解説や攻略指南などをベースにしつつ、6人のプロクリエイターインタビューを掲載しており、インタビュー記事好きにとって垂涎の内容となっている。自分は商業ライターとして長く活動しているためインタビュー記事仕事を手掛けることも多いのだが、6人のプロにオファーを出して場を整えて……と考えると軽く眩暈がする。断言するが僕は仕事でなければやらない。やれない。ファン活動としてもちょっとなかなかないレベルの話だと思うのでただただ脱帽する。

○最新作の内容をちょい掘り

 『千年真書IV』は2024年9月に頒布開始ということで、この記事公開時点でも入手可能かもしれない。なのでその中身を少しだけ詳しく見てみるとしよう。


IIIからかなり時間が空いたとのことで、シリーズファン待望となった最新作

・ユーザーの歴史
・攻略動画の歴史
・エンタメ系の歴史
・海外企画
・千年真書インタビュー

 というのが目次構成だ。IIIまでと構成は変えてきていて、本作は歴史がメインテーマとなっているようだ。特徴としてはただ単に過去の事実を並べているだけでなく、動画や掲示板などに集まるユーザーがリアルタイムでどういった発言をしていたかのデータ抽出を行い、それを可視化したものを載せているところだ。10年以上という長さを誇るソーシャルゲームだ。ユーザーが強く反応するポイントなども年単位で変化しており、それを10年分一挙に見られるというのは面白い。これも熱狂的なファンが作る同人誌ならではの試みだろう。
 実際にwiki編集を行ったりするのが趣味でwiki界隈事情に詳しい人物によるwikiの歴史というコーナーも掲載されている。あくまで一個人による主観視点になるとはいえ、wikiというものは「勝手に存在しているもの」という感覚の人間の方が多いだろう中で、こういった視点の裏話が読めるのも実に面白い。

 UIの歴史、動画界隈の歴史も読み応えありだが、熱狂的ファンにしてプレイヤーであることの本領発揮となるのが「低レア攻略の歴史」「公式が高難易度エンドコンテンツを展開しはじめた黎明期における最前線攻略の歴史」などの特集だろう。ここらへんはライトなファンやなんとなくプレイしていただけでは生み出せない読み物として、ディープでマニアックな魅力に満ちている。

 ゲームと動画の関係性という視点ではRTAというジャンルが流行りだして久しい。ソーシャルゲームとRTAは相性が悪いと言われることもあるが、「千年戦争アイギスでRTAを流行らせたい」という動きはあり、その活動に力に入れている人物によるRTA解説記事も読み応えがある。ゲームの遊び方としてマニアックであることは間違いないのだが、そういう世界の扉を開いてみるのも面白いだろう。

 同人誌といえば『コミックマーケット』が非常に有名だが、「オンリー」という概念がある。ある特定のコンテンツのみしか取り扱わない同人イベントのことを指すのだが、『千年戦争アイギス』も非公式同人活動としてのオンリーイベントを長くやっている。そのオンリーというイベント世界の歴史そのものもまとめられている。同人誌というものは発表する場所がなければ世に出ることはない。同人誌の歴史は同人イベントの歴史でもあり、これもまた同人ファンブックならではの企画と言えるだろう。

 特集としてはTCG(トレーディングカードゲーム)である『LYCEE OVERTURE』に関しての記事もある。これは『千年戦争アイギス』が『LYCEE OVERTURE』とのコラボをしていたからで、アイギスユーザーでありLYCEEユーザーである人物を招いてその世界の魅力を語る記事は、ソーシャルゲームとアナログゲームをつなぐ活動としても価値あるものになっている。

 筆者はSNSや趣味記事で『千年戦争アイギス』がタワーディフェンスというジャンルの概念を変えた歴史的作品である趣旨の発言をよくしているが、同じようなことを考える者は当然いるわけで、「アイギスとそれ以外のタワーディフェンスソシャゲについて」というコラムも掲載されている。ここはもう筆者にとってごりごりの主戦場ネタでもあるので目をギラギラと輝かせて楽しく読ませて頂いた。

 広告の歴史、グッズの歴史、ネットミームの歴史など、読み応えのある記事が続き、海外版(海賊版ではなく、公式は正規に海外展開を行っていた)まで特集している。海外版のSNSコミュニティや海外ユーザーの話は普通に日本でライトにゲーマーをしてるだけではまず知る事はないので、世界の広さと奥深さを体感できる良記事と言えるだろう。

 アンケート企画を挟んで、人気企画だろうプロクリエイターインタビュー記事も掲載されているが、今回の特徴としては「ゲームデザイナーインタビュー」が企画されているところだろう。過去シリーズでもドットクリエイターインタビューなどはあったが、ゲームのプロデューサーやディレクター、あるいは脚本家やシナリオライターといった人物ではない、マップデザイナーといった職種のプロへのインタビュー掲載は、雑誌記事なども書く商業ライター目線でも非常にレアと言える企画だ。まず読んで損は無い企画と言えるだろう。
 プロイラストレーターインタビューもしっかり掲載されており、このシリーズにおけるインタビュー企画の充実度はやはりちょっとおかしい。

 ○ソーシャルゲームとファン活動

 あらゆる商業コンテンツにとってファン活動は切り離せないものであるが、権利問題、コンプライアンス、ガイドライン問題など「絶対的な答えが出せない」世界でもある。筆者は同人活動肯定派のゲームユーザーという属性の人間のため、同人活動に対するえこひいき目線を最初からもってはいるのだが、その上で『千年戦争アイギス』は純粋で素朴でありながら熱意は凄まじいファン活動者が多いコンテンツであるという印象がある。
 ファン活動にどれが一番凄いといった序列付けは不要ではあるのだが、熱狂的ファンが圧倒的愛情を持ってないと作れないものとして『千年真書』を取り上げた。
 筆者の保証がどの程度の説得力があるかは怪しいところだが、20年以上商業で仕事をしているプロライター目線で読んでもクオリティが高く満足度が高いファンブックだ。
 是非とも注目してみてもらいたい。そして興味を持った方が『千年戦争アイギス』プレイヤーでなかったとしたならば、これを機会にプレイ開始してみるのはどうだろうか。
 というわけで10年以上の期間ファンを楽しませ、熱狂的活動者も生み出すゲームである『千年戦争アイギス』を、今回はファン活動という視線から紹介させて頂いた。
 今後も定期的にアイギス関連記事は書いていきたい所存だ。

千年戦争アイギス

千年戦争アイギス公式書籍

リセ オーバーチュア 千年戦争アイギス特集ページ


サークルLeono国 メロンブックス頒布ページ
※DMMおよび千年戦争アイギス公式とは無関係です
https://www.melonbooks.co.jp/circle/index.php?circle_id=27302

 

 



 

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