ゴキゲンな蝶になって

「太一、大きくなったね」

このアグモンの一言で、いとも簡単に頬を涙が伝った。僕はこの後に控えている映画を見にきたのだ。無論、予告編を見にきたわけではない。それなのにこうも心を動かされてしまうなんて何たる不覚。ここまでされたらもう見に行く以外の選択肢はなかった。

てな訳で昨日、見てきました。

「デジモンアドベンチャー last evolution 絆」

※ストーリーの核心をつくネタバレはありませんが、未見の方は念のため注意してください。

今回の物語は、成長を遂げそれぞれの道を進んでいた選ばれし子供達が、新たな敵と戦う中でパートナーデジモンとの別れに直面するというストーリーだ。

開幕からの即ボレロ。点滅する夜の街。いうまでもなく無印映画のオマージュだ。というかパロットモンが出てくるからモロだ。颯爽と現れるエンジェモン&エンジェウーモン。ギュインギュインギュイーン!とbrave heartをバックに進化するアグモン。もうこの時点でお腹いっぱいだ。「よっ、待ってました!」と声をあげたくなるほどの歌舞伎感。そして特筆すべきはいいところで加勢するガルルモンとヤマト。そうそう、石田ヤマトはこういう男だった。ここまでの10分でファンならきっと心を鷲掴みにされるはずだ。

進化バンクをわざわざ新規作画で書き直しているのも芸コマで、往年の特撮ヒーローがゲスト出演した際に現代の技術で再現された変身バンクのような趣がある。このように細かいところを挙げるとキリがなく劇伴にも隙がない。進化曲はもちろん、テレビシリーズの印象的なあの曲やあこの曲も決めのシーンで流れる。他には02勢のシーンで「ターゲット〜赤い衝撃〜」のインストアレンジが流れたり、太一とヤマトが行ったホルモン屋のBGMは「ぼくらのウォーゲーム」の主題歌だったりと、ファンならニヤリとできる小ネタがふんだんに散りばめられている。

もう1つ特筆すべきポイントは人間キャラの声だ。デジモンたちの声はテレビシリーズのままだが人間キャラはtri以降一新されている。僕は正直triがしっくり来ず、ちゃんと見ていないため不安だったが全く気にならなかった。あのキャラクターたちの成長後の声として違和感がないし、ヤマトやミミに関しては元からこの声だったんじゃないかというぐらいすっと馴染んだ。

そして今回の敵「エオスモン」と戦う中で明らかにされるパートナーデジモンとの別れ。子供達が成長し選択をしていく中で失われていく可能性。つまり可能性が無くなり、未来の確定した大人になるとデジモンと別れなければならないのだという。初めて知った事実に太一たちは激しく動揺する。しかし彼らは前に進むことを選ぶ。「エオスモン」のやっていることを否定し、彼女を救済するために最後の進化をするのだ。この物語に悪人はいない。どちらの思いも理解出来るだけに終盤はボロボロと涙が止まらなかった。

話は変わるが、この間家の前にあったパン屋が閉店した。そこまで頻繁に行っていたわけではないが、行けば多少会話をするぐらいには顔なじみだった。最近あんまり行けてないな、そろそろ行こうかなと思っていた矢先の出来事だったので喪失感がすごかった。いつでもいけると思っているとなかなか行かないものだ。しかしいつでもが本当にいつまでも続くとは限らない。別れは突然にやってくるのだ。仕事の方でもずっと一緒にやってきた仲間がいなくなったり、何と無く最近は別れに敏感になっていた。それだけに今回の映画が物凄く響いたのだと思う。

太一にアグモンとの別れが訪れたように、いつまでも続く保証なんてないのだ。だからその時その瞬間にできることはすぐにでもやるべきだと思った。

だから重い腰を上げて久々に記事を書いたというわけだ。

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