牌は、自摸を描く


一枚の打牌が、麻雀打ちとしての思考や性格だけでなく、その人の生き様そのものを語りかけることもある。

そんな雰囲気の麻雀は、自分が参加できれば至高の対局だし、ギャラリーとして観れば最高のドラマとなる。
大会の決勝戦では、各人の目的意識がはっきりしていて、ぶつかり合うのが普通なので、普段のフリーやセットより、勝敗に関係なく「いいものをみたな」と満たされることがある。

先日のアマ最高位戦、長野予選の決勝もそんな名勝負だった。
決勝に勝ち上がったのは誰を見ても納得できる面子。2年連続で紅一点の決勝進出を決めたウチの奥さんもその一人である。「決勝でちゃいました」なんて場違い感のかけらも無い佇まいである。

50分打ち切りのラス親というハンデは、上家の早回し打法で帳消しになっていた。じっくり打つのも上手な方だが、フットワーク軽くクルクルと上がらせると本当に手に負えないタイプである。
しかし、手がなかなか入らない今回に関しては小場で回った方が都合がよかった。
とはいえ、千点の仕掛けで二軒リーチをかいくぐってアガり切った局や、テンパイ料を取りに押し切った局とか、彼女の持ち味の「曲げてつもる」の展開に恵まれなくても、がっぷり四つに組み合っていたのは素晴らしかった。

南2局、トップ目の上家との点差は5000点位か。この決勝戦ではおとなしかった対面が、南場の親番ということもありついに動き出す。明らかなピンズに寄せた仕掛け。5800でも上位2人からの直撃なら一気にトップ争いに割って入ることになる。ここで奥さんにドラの7P単騎の七対子のテンパイが入る。ノータイムでリーチ。これをあがれば…
流局。トップ目の上家もマンガンのヤミテン。三者の意地がぶつかった1局だった。

事件が起きたのは南3局。余計な放銃こそ無いものの、全く絡んでこなかった下家がマンガンツモ。この親被りで上家と奥さんの点差が600点に。最後の彼女の親番、対面もハネマンツモで条件達成。一気に全員集合のオーラスを迎えた。

45556p 33468s 56m 東  ドラ8s
最終親番での四巡目の奥さんの手牌である。ここで場に一枚切れの東が重なる。全員が参加するこの局面で東を押さえる3人ではない。掴めば絶対出てくる。時間はまだある。一回アガりを取りにいく選択も…
彼女はごく僅かな少考の後、東を切った。面前の手組みで満貫が見えていても、この混戦でその選択には勇気が要る。そんな勇気と決意の静かな一打だった。そして二巡後、ついにカンチャンの7s
テンパイが入る。いつもならここで「リーチ!」と豪快に腕を振ってくる流れだ…

切り出す3sが、一瞬手から溢れる。かすれそうな、振り絞ったリーチの発声。ここは決勝戦のオーラスだと思わされた一打だった。思えば、小場故にいくらでも選択肢がある場面が多かった中で、自分を貫いてきた。やっと手に掴みかけた優勝。そして自分のスタンスのリーチ。豪快さが無い故に選択の重さを感じる一打であった。

結果はあがれなかったが、決勝戦をしっかり戦えたこと。選んだ一打が、貴女を描いていたこと。
そして何よりも、共に囲んだ面子だけでなく、多くの仲間がいっしょに悔やんだり、励ましてくれたこと。

麻雀を貴女に教えて、本当に良かった。

次は…
和了がつもを描いてくれると信じてます。
おつかれさま。


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