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樹色マガジン第16号(2024.4)

割引あり



とこうわらびの作品

大あくび梅見ついでに営業す
春の雪止んで雑談続きけり
スマホでの接写のコツといぬふぐり
春分のベンチや弁当のにおい
習慣頼りや霞の駅ホーム
のどかさや一本後の電車待つ
まばたきのたび増えるなり春の鳥
永き日の知らない店のメニュー表
駅チカや新入社員回遊す
春の波運河の底に寝る魚
ひとり占めする偶数のよもぎ餅
芋植えた鉢の前片膝をつく
鳥帰る清掃員コーヒーを飲む
春陰やつけっぱなしのバラエティ
しじみ汁殻の音息椀の音
春眠や明日の服を着て眠る

律新集2024.4 とこうわらび 選

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川嶋ぱんだ

遠国の野焼の一部始終かな
造花から造花へ弾む蜂の脚
この春の雨二度寝から三度寝へ
そこからはだれそれの土地かたつむり

菊池洋勝

沈丁花香る洋墨の試し書き
春の潮形の変わる夫婦岩
寒木瓜や問診弾む在宅医
蝋梅や飴より飴の匂ひかな

中川多聞

噴水を啄む鳩と今日の斜陽
電線の揺らめき熊が巣穴より
蜆汁食器のような音が鳴る

常波静

皺の手であの日のいちごみるくかな
春帽子手を振る君は遠のいて
寝言でも謝っている朝寝かな

律新集選評 とこうわらび

遠国の野焼の一部始終かな 川嶋ぱんだ

「一部始終かな」がゆとりある春の雰囲気にとても合っていると思います。遠国の野焼なのでその場で眺めているのではなく誰かから動画が送られてきたのかなと想像が膨らみます。

造花から造花へ弾む蜂の脚 川嶋ぱんだ

蜂の脚にフォーカスしている繊細な視点が好きです。弾むが少し説明っぽい気がするので、いっそ造花か蜂の脚を修飾する言葉に変えてもいいのかなと思いました。

この春の雨二度寝から三度寝へ 川嶋ぱんだ

語呂の良さがクセになる句です。春の暖かさと雨の気だるさが三度寝に繋がっています。この句はシンプルさ、わかりやすさが魅力だと思います。

そこからはだれそれの土地かたつむり 川嶋ぱんだ

土地の所有者を細かく気にする人間と、そんなことはまったく考えないかたつむりの対比がとても好きです。ひらがなが多くてゆるーい雰囲気の句です。

沈丁花香る洋墨の試し書き 菊池洋勝

インクを洋墨と表記してあることで、句に上品でハリのある雰囲気が生まれています。洋墨の試し書きから感じる静かな空気や時間的な余裕が「沈丁花香る」を引き立てていると思います。

春の潮形の変わる夫婦岩 菊池洋勝

春の激しい潮の満ち引きを夫婦岩に注目して表現した素敵なセンスを感じる句です。無駄なくきれいに言葉がまとまっています。

寒木瓜や問診弾む在宅医 菊池洋勝

問診弾むという言葉からお互い問診に慣れてやり取りがスムーズな様子や時々混ざる雑談が想像できます。季語は寒木瓜じゃなくてもいいような気がしますが、外の寒木瓜から屋内の会話に視点が移動するのはとても好きです。

蝋梅や飴より飴の匂ひかな 菊池洋勝

蝋梅の甘い匂いを「飴より飴の匂ひ」と表現しているのがとても好きです。蝋梅の香りがリアルさとファンタジー感の両方から想像できます。

噴水を啄む鳩と今日の斜陽 中川多聞

噴水を啄む鳩を眺めながら一日が終わっていく独特の空気が魅力的です。後半が説明的で語呂も良くないのでなにか別の表現で言い換えができればいいかもしれないです。

電線の揺らめき熊が巣穴より 中川多聞

春一番を風という言葉を使わず表現した素晴らしい句です。大きく揺れる電線と熊が活動を始める季節から春一番を連想させる技術力に感動しました。

蜆汁食器のような音が鳴る 中川多聞

実は今回私も同じテーマで一句詠んだのですが、この句のほうが圧倒的に良い句だったので悔しさと尊敬を覚えながら選びました。「食器のような」という言葉によって句の世界の奥行きが一気に広がっています。こういう句を詠めるようになりたいです。

皺の手であの日のいちごみるくかな 常波静

皺の手からいちごみるくに繋がることで、遠い過去のキラキラとした思い出が想像できます。いちごみるくがひらがな表記なのが特に良いと思います。

春帽子手を振る君は遠のいて 常波静

季語が春帽子なので、引っ越しや卒業などの別れを連想させられます。「君」が遠のいて、その先は描かれていないのがこの人と「君」だけの秘密の思い出のようで素敵だなと思います。

寝言でも謝っている朝寝かな 常波静

新社会人の方かな……朝寝の微笑ましさと寝言でも謝っている不憫さに惹きつけられます。春ののどかさと年度始めのなかなか思い通りにいかないもどかしさを感じます。

<月刊>日々の機微 日記と課題 (川嶋ぱんだ)

1月から毎日欠かさず「日々の機微」を更新しています。振り返ると文章力が向上していたり、1月の時点でできていなかったことができるようになっていたりと進歩が目に見えます。もうひとつ続けていることとして、毎日、朝起きてタイマーを20分にセットし、ノート3ページに思い浮かんだことをただただ書くというモーニングノートも続けています。これら自分の記録を残すという意味でもこの2つを実践することはオススメです。さて、樹色も16号ということで1年と4ヶ月経過しました。ここで一度作品を振り返ってみませんか?これまでの樹色マガジンはこちらから見ることができます。

他にも自分の書いたものを書き残していくという意味で、樹色に原稿も出しませんか?次回から募集ではなく、課題として作品や原稿を募ります。文章力の向上や成果の記録にお使いください。合わせて課題の欄には直近の俳句賞の締切も掲載します。ぜひ挑戦してください。

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