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永遠に勝ち続けるギャンブラーはいない~「シンドラーのリスト」

どちらかというと挫折を強く感じやすい性格なので、逆境の中で自分を捨てなかったひとのはなしが好きである。「勇気」をもらいたいことが多いからだ。先の大戦までのエピソードを含んだノンフィクションを好んだりするのもそういった理由から。

昔「ゆりかごから墓場まで」というスローガンがあったが、確かにそういう風に見える人生を送る幸運なひともいるだろう。実際には人間は赤ん坊としてこの世に出た瞬間から差別にさらされていることが多いとしても。

戦争があると差別や不平等が平時よりもむき出しになる。ありふれたものである人間の性が残虐性を帯びて味方同士の中ですら激しくなる。生き残りがかかる状態だから本能が剥きだしになるとでもいうのか。

最近「シンドラーのリスト」というノンフィクションの翻訳を再読した。映画にもなったトマス・キニーリーの作品である。自身は享楽的で不道徳ですらありながら当時のナチスのやり方に人間として追従しなかったあるドイツ人実業家のエピソード。かなり長いものだが、一読を推薦できる傑作である。


シンドラーは1200人を超える命を救ったのだが、彼の一生はその後も続き、決して平穏なものではなかった。彼は自分の命を賭けたギャンブルには勝ったが人生自体を他人任せにすることなど許されなかった。

ひとはどんなに太平楽に見えるひとでもかなりの苦労を背負って生きている。そしてその負債に裁かれるかのように老いて病んでやがて死んでしまう。苦労して築き上げた多くのものはほとんどが塵芥となる。個人が愛したものは他の人間にとっては価値がない場合が多いからだ。

金品が愛でないわけではないが、計量されるものは流通すると常に消費の対象となり、価値として残りにくいところが弱点だと思う。「シンドラーのリスト」は生きながらえたものたちの感激の身振りや熱い言葉が連なった手紙などで、シンドラーのぬくもり、「人間味」をこの世に残したのであろう。

ひとりを救うものは世界を救う☆

パナセァ


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