ダージリン・シッキムの山旅⑧       ~ヒマラヤンホテルは穴場 大発見~

 少しだけ開いた鉄の門に、小さく『ヒマラヤン・ホテル』と看板がある。木々に囲まれて、いかにも 19世紀のイギリス人の別荘といった感じの建物が、芝生の庭の奥にある。

 人の気配がなく、おとなしい犬が一匹寝そべっている。 “廃業してしまったのかな"と心配したが、しばらくしてインド人マネージャーが現れた。

 「空いているからどうぞ」というわけで、二階へ案内してくれる。

 玄関の灯、廊下を飾る絵画、階段の踊り場の大きなつぼ、部屋の調度品...、ゆるやかなる時が流れている。天井の高い広々した部屋は四角形ではなく、庭に面した窓がそれぞれ一辺をなしている多角形だ。そして、どの窓も出窓になっているのがロマンティックだ。

 広いバルコニーに並べられたイスは――そう、カンチェンジュンガを見るためにあるのです――。

 しかも、私たちだけしか泊まり客がいないのだから、もう天国。子供達も大いにくつろいで、ビューティという名の犬ともすぐに仲良しになる。

 ここは町はずれ(とはいっても 15 分も歩けば中央商店街に出る。が、いったん日が落ちると闇夜になってしまう)にあるので、明るいうちに町へでかける。乞食もいないし、町は落ち着きがある。

 チャイを飲み、パンとサモサを買って帰る。19時の空はきらめく星。振りかえると、町の夜景が美しく光っている。あー、旅ってかけがえのない楽しさだ。ずうっと、インドを旅しているような気がしてきた。

 部屋での夕食はとっておき(日本からの持参品)のシーチキン、マヨネーズ、おばけきゅうり、サモサ。このサモサ、えらい辛さで食べられたのは私だけ。下の娘などは知らずに口に入れて大泣きしたほど。

 客は私たちだけだし、マネジャーはじめ使用人たちの家は別々に裏手にあるので、我が家の別荘みたいな気分にひたれる。

 でも、暖かくて木々に囲まれているので蚊が多い。私の年代の人なら覚えのあろう、手押し式殺虫噴霧器がロマンチックな出窓におかれている。子供たちのいたずらおもちゃになりそうで、これは隠して持参の蚊取線香をたく。

 お父さんはそれぞれの家から漏れてくる裸霞球の温もりのある明かりに魅惑され、 「カリンボンの夜景をカメラに収めておかねば」と、散歩にでる。

下の子は、背もたれのついたどっしりしたイスを2つ並べたスペースが気にいり、そこに寝る。明かりを消すとまっ暗だ。夜中に激しい雨が降る。

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