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shadowgraph

遮光された絵付きの窓をあけて
ワイヤー付きのすりガラスの鍵を外す
目の前にはキラキラした白色灯に照らされる
ホームベースと金網
見上げれば
ビルから下品な照明が垂れ下がってる

バットを引き摺るおじさん
バッターボックスに入った
こっちを見てる
やあ
なんの仕事をしているの
ぼくはちんぴらだよ、こんばんは
少しよれたシャツとスラックスがいいね
元はそこにいたんだよ
多分同じ景色も見た事があると思うの
ホームランの的なんて気にならないよね
眼前の光景に腹が立つよね
特に理由もなく

明日の夜には忘れる景色の中側に居るモブがうるさい
喉奥まで押し込んで蓋、静か

さあ、狙おうね
飛んできた打球が少しずつこちらへ
煙草を吸いながら打球を目で追う
わかるわかる
向かってくる球を打ち出した先なんて
思う通りにはいかないさね
そんな大振り、イライラしないで
ごほうびはコレだよ、見たかい
なんか外ではいい感じだったらしいよ
もっとシャープに振ろうね
もう少し左、ああ
そっちから見て右
シンコペーションよりもレイドバックしてね

掴んで引き摺って叩く所作が懐かしい
繰り返すと思い出す、慣れてく
使う側が使われる、そんな事良くある
ごぽごぽと球が吸い上げられて
射出されるソレは
何度も何度も何度も何度も繰り返されて
叩かれる為に生まれてきたの?

可哀想

でも使われるならいいね
価値を見出されてるんだもんね
そもそもその為に生まれてきた事実からは逃げられない
今日も明日も明後日も叩かれる事で存在意義が担保される
脇にそれてゴミと一緒になったソレのが
可哀想だったかも、うん
ごめんね
それでもそうなる迄は大事にはされてたんだと思うさ
跳ね出す確率に恵まれたのは
もう叩かれなくてもいい事で
それはそれで幸せなのかもしれないな

元の白さを知っているよ
パウダーホワイトみたいな
飾られて照らされて本当に綺麗

少しずつ傷が出来て黒みがかる頃から
綺麗な1つから多数の1つに変わるのも知ってる
光が反射しなくなるまでどれくらい叩かれたのかな
痛かったね、もうそれも感じないのかな
そもそも痛覚なんてないのかもしれないね
それもまた幸せな事なのかもしれないね
目下の嗚咽がうるさい

膝で締められてるソレが
どれくらい稼いでて
どんな価値のあるモブと一緒いて
今どんな気持ちかなんてまるでどうでもいいよ
丁寧にラッピングされた言葉で
中身のない言葉を振りかざして
自分の為に使う言葉に酔って
何をそんなに

ねえおじさん、そう思うでしょ
球に思う事なんて
100円玉数枚と引き換えられるものなんて
打った手ごたえと鈍く響く音位なもんだよね
作り手の愛があったかどうかだとか
打ち出される時の怖さや痛みだとか
イモ洗いされる気持ちや
明日にはいなくなるかもしれない同属の事なんて
全く気にならないでしょ

ああ。鈍ってきたね
疲れたかな、がんばれがんばれ
こっちも煙草が吸い終わりそう
続く空振りもそろそろ当たりそう
パワプロみたくゾーンが見えるといいね
見えてもつまんないか
でもわかりやすい見えかたって好きでしょ
とくにこの辺はそんなんだらけで
僕は気持ち悪いとすら思うよ



眼前に来た球がネットに捕まって滑り落ちた
疲れてたのに偉いね、おめでとう
もうちょっと反応してよ
しっかり目が合った癖にストイックな振りしてさ
結構な確率だと思うよ
さっき貰ったやつ投げてあげる

ネットに捕まって落ちちゃった
ざんねんだね
知ってたんだ、ごめんね
でも気持ちが大事じゃない
こういうのはさ

だしさ
これ位の寒さが一番気持ちいいよねきっと
それこそホントいつか覚えたあの歌じゃないけど
春なんて来なければいい


その努力も報われる事なんてないしさ
まあ報われる為のモンでもないよね



僕はそろそろ扉を締めるよ
寒いから

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