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fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

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イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2…
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#ショートショート

ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」西軍(川越宗一、誉田龍一)

(お題:亀)(ムード:ワクワク) 第1章(川越宗一)  川越宗一は、ニヤニヤと笑っていた。まずその理由を話そう。 「コブラ」という漫画がある。週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画だ。アニメになり、そちらでは「スペースコブラ」といいうタイトルであり、なにか大人の事情があるのだろうなと幼心に思っていた。ガンダムに出て来た「エルメス」なるメカがプラモになった時「ララァ専用モビルアーマー」になったような。   コブラは作品のタイトルであり、ハードボイルドな主人公の名前でも

ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」東軍(最東対地、円城寺正市)

(お題:科学の申し子)(ムード:ワクワク) 第1章(最東対地)  空に人型の大きな影が太陽を遮った。  遠くの山からそれとは別の巨大な影が立ち上がる、顔はイルカ、体はゴリラ、尻尾はワニというデタラメな怪獣が威嚇するように咆哮をあげる。 「ぐばらごごごんばあー!」  おっと、叫び声までデタラメだ。  キュィイーン。。。という空気が張り詰め、収束していく音がする。  初めて聞いた時は超音波かと思った。  一斉に外に飛び出した子供たちの中で、僕だけが耳を塞ぎうずくまってい

ショートショートバトルVol.4〜「シーソーラヴ」東軍(我孫子武丸、延野正行、尼野ゆたか)

(お題:肉)(ムード:ドキドキ) 第1章(我孫子武丸)  陽菜(はるな)がブランコを揺らすとキイキイと驚くほど耳障りな音が静かな公園に響いた。長らくここで遊ぶ子供はいないのかもしれない。  彼は午後5時ごろ、毎日ここを通って自宅に帰る。それが分かっていたので陽菜は早めにこの公園へ来ていわば待ち伏せをしていたわけなのだが、ひとけの少ない住宅街の公園というのは、いい大人には意外と居心地が悪いものだと彼女は思ったーー高校二年生が大人かどうかは微妙なところだろうけど。  そし

ショートショートバトルVol.4〜「シーソーラヴ」西軍(大友青、山本巧次、稲羽白菟)

(お題:ひまわり)(ムード:ドキドキ) 第1章(大友青)  もう何度目の夏が来ただろうか。 あれは私が10歳の頃だったから、どうやら8年目になるらしい。  また、ここへ来てしまった。打ち寄せる波の音と鳥の鳴き声しか聞こえない、私たちの秘密基地へと。  遠く、ずっと遠くには雲の切れ目が見える。太陽の光が水面に反射して眩しかった。でも、目をつむったりはしない。あの人がやってきたとき、見落としてしまうかもしれないから。私は目をつむったりはしない。  二度と目を離したりしな

帰り道は星空(東軍:遠野九重、川越宗一)

(お題:卒業) 第1章(遠野九重) 「先輩のこと別に好きじゃないですけど、付き合ってあげてもいいですよ」   僕がユカと付き合い始めたのは高校三年生の夏休み直前だった。   終業式のあと、天文部の後輩で一年生の天野ユカに「先輩ちょっと屋上まできてください」と言われ、もしかしてボコボコにされるんじゃないかと不穏な想像をしながら後ろをついていった。  そうして屋上にたどり着いたら、抜けるような青空と、吹奏楽部の「ぷお〜」という気の抜けるようなホルンをBGMにして、いきな

帰り道は星空(西軍:最東対地、木下昌輝)

(お題:別れ) 第1章(最東対地)  別れは、必ずしも悲しいものとは限らない。私がそれを言うのは些か憚れるが、身をもってそれを知ることとなった。  銀河に星が光る。数多の星の中にひとつ、異質な輝きを放つ船がある。  私の乗る船、「アマノガワ」がそうだ。  流星が身を寄せ合って、ぬくもりを繋ぐ天の川が宇宙空母の名前とは皮肉にもならない。 「そう?私は素敵だと思うけど?」 「現実主義者のお前がいうかよ」 笑わないね、とオリヒメは言った。無表情は私の専売特許だ。心で思っ

恋してオムレツ(西軍:円城寺正市、延野正行、誉田龍一)

(お題:唐揚げ) 第1章(円城寺正市) 「せんせー。アタシ、今日の体育見学でいいっすか?」 「ダメだ。今月何回めの生理だ。どっち向いて進化する気だおまえ」  体育教師のゴリ先生は、そう言って明らかに疑わしげな目をアタシに向けてくる。  いつもは確かに仮病なのだけど、今日は違う。 「ちがうってばー! ちゃんと診断書だってあるんだよ。負傷だよー。 ふしょー」 「なんだ、どこか怪我でもしたのか?」 「うん、野球肘」 「ん? なんだって?」 「野球肘。要、トミージョン手術」

恋してオムレツ(東軍:今村昌弘、水沢秋生、尼野ゆたか)

(お題:浮気) 第1章(今村昌弘) 「目玉焼きには、何をかけますか?」 誰もがどこかで一度は聞いたことがある、ありふれた疑問だ。  だが僕が彼女からこの問いを発せられたのは、なんと初対面の、見合いの席だった。僕も彼女も親戚のおせっかいを断りきれず、半ば強引に引き合わされたお見合いの場で、彼女は上目遣いで言った。 「私、外見も年収も気にしません。ただ、食に対する価値観が合わない人とは一緒になりたくありません」 静かな、しかし断固とした気持ちをうかがわせる口調だった。

陽だまりの鳥(西軍:木下昌輝、川越宗一、今村昌弘)

(お題:カエル) 第1章(木下昌輝) 「おだまり! ノトリー!  おだまり! ノトリー!  あなた、くだらない両生類のくせして、何様のつもりなの!」 「けど、神様、僕はやっぱりノトリーという名前はどうかと思うのです」 「ひだまり! ノトリー!  ひだまり! ノトリー!  醜い尻尾を持った両生類のくせして、私に口ごたえする気。オダマリをヒダマリと言い間違えるぐらい怒っちゃったわ。私がヒステリーを起こすと、『お』を『ひ』と言い間違える癖が出ちゃったじゃない。まあ、いいわ。どん

陽だまりの鳥(東軍:水沢秋生、尼野ゆたか、最東対地)

(お題:アルコール) 第1章(水沢秋生)  これはやはり、アルコールの飲み過ぎだろうか。  そう言われても、不思議ではない。私はここ十年、京都木屋町でバーを経営している。バーテンダーの中には、自分自身は酒を飲まない、飲めないというものもいる。私はその逆だ。店の経営に差し支えるほどではないにしても、毎晩、ある程度の酒を飲む。以前は飲まれるほどではなかったが、最近では、しばしば、酔いつぶれて店のカウンターで寝てしまうこともある。  それでも、記憶はきちんとしている。レジス