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fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

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イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2… もっと読む
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#パームトーン

帰り道は星空(東軍:遠野九重、川越宗一)

(お題:卒業) 第1章(遠野九重) 「先輩のこと別に好きじゃないですけど、付き合ってあげてもいいですよ」   僕がユカと付き合い始めたのは高校三年生の夏休み直前だった。   終業式のあと、天文部の後輩で一年生の天野ユカに「先輩ちょっと屋上まできてください」と言われ、もしかしてボコボコにされるんじゃないかと不穏な想像をしながら後ろをついていった。  そうして屋上にたどり着いたら、抜けるような青空と、吹奏楽部の「ぷお〜」という気の抜けるようなホルンをBGMにして、いきな

帰り道は星空(西軍:最東対地、木下昌輝)

(お題:別れ) 第1章(最東対地)  別れは、必ずしも悲しいものとは限らない。私がそれを言うのは些か憚れるが、身をもってそれを知ることとなった。  銀河に星が光る。数多の星の中にひとつ、異質な輝きを放つ船がある。  私の乗る船、「アマノガワ」がそうだ。  流星が身を寄せ合って、ぬくもりを繋ぐ天の川が宇宙空母の名前とは皮肉にもならない。 「そう?私は素敵だと思うけど?」 「現実主義者のお前がいうかよ」 笑わないね、とオリヒメは言った。無表情は私の専売特許だ。心で思っ

恋してオムレツ(西軍:円城寺正市、延野正行、誉田龍一)

(お題:唐揚げ) 第1章(円城寺正市) 「せんせー。アタシ、今日の体育見学でいいっすか?」 「ダメだ。今月何回めの生理だ。どっち向いて進化する気だおまえ」  体育教師のゴリ先生は、そう言って明らかに疑わしげな目をアタシに向けてくる。  いつもは確かに仮病なのだけど、今日は違う。 「ちがうってばー! ちゃんと診断書だってあるんだよ。負傷だよー。 ふしょー」 「なんだ、どこか怪我でもしたのか?」 「うん、野球肘」 「ん? なんだって?」 「野球肘。要、トミージョン手術」

恋してオムレツ(東軍:今村昌弘、水沢秋生、尼野ゆたか)

(お題:浮気) 第1章(今村昌弘) 「目玉焼きには、何をかけますか?」 誰もがどこかで一度は聞いたことがある、ありふれた疑問だ。  だが僕が彼女からこの問いを発せられたのは、なんと初対面の、見合いの席だった。僕も彼女も親戚のおせっかいを断りきれず、半ば強引に引き合わされたお見合いの場で、彼女は上目遣いで言った。 「私、外見も年収も気にしません。ただ、食に対する価値観が合わない人とは一緒になりたくありません」 静かな、しかし断固とした気持ちをうかがわせる口調だった。

陽だまりの鳥(西軍:木下昌輝、川越宗一、今村昌弘)

(お題:カエル) 第1章(木下昌輝) 「おだまり! ノトリー!  おだまり! ノトリー!  あなた、くだらない両生類のくせして、何様のつもりなの!」 「けど、神様、僕はやっぱりノトリーという名前はどうかと思うのです」 「ひだまり! ノトリー!  ひだまり! ノトリー!  醜い尻尾を持った両生類のくせして、私に口ごたえする気。オダマリをヒダマリと言い間違えるぐらい怒っちゃったわ。私がヒステリーを起こすと、『お』を『ひ』と言い間違える癖が出ちゃったじゃない。まあ、いいわ。どん