鉄塔

鉄塔に登ろうとした。結論から言うと登れなかった。
子供たちがいる休日、雨の日で、家の中で遊べることと言えばそんなに頭を使って知育になるような遊びをすることもなく、息子といろいろなゲームをして遊んでいた。息子の好きなゲームで時たま開催されるイベントに一緒に参加したり、私が子供時代に遊んだゲームをここはどうしたらイベントが発生するのか調べたりしながら遊んでいた。

すごくすごく、些細なことだった。シンクにあった洗い物を、半分洗ったよと言われた。はんぶん。はんぶんはやったから、後はやってくれ。(それが義務だろう)と、受け取ってしまった。言い訳だけど、子供と笑顔で一緒にいるだけで、それがその時の精一杯だった。見てくれも、能力も、買われてしまったら今が精一杯だなんて伝えるのも申し訳なくて、それが年の行った親ならなおさら。実家に住まわせてもらって、ろくに働いてもいなくて、孫とだって私の結婚相手とだって同居してくれて。頭では親孝行しなくちゃ、苦労をかけないようにがんばらなきゃ、毎日考えない日はないけど、善い行動を日々出来てるなんて言えない。

嫌になった。これ以上出来ないよと言いたかった。私の認知にゆがみがあるなら教えてほしい。私は宇宙人と人間のハーフだと、母も認めてくれている。人間のすることを真似するのは、けっこう大変なんだよと、この間初めていうことが出来た。

こわい、こわい、人間のささいな表情や行動から感じ取れる、好意に繋がらない行動をするかもしれない人間は排除したいと思っていそうな雰囲気がこわい。ちょっとした悪感情で爆発して刺しに来るような人間に遭遇してしまうことはそうそうないかもしれない。でもこわい。

日差しも苦手だ。まぶしくて疲れる。雑音もきらいだ、疲れる。外はきらいだ、元気がなくなる。

家の中で、せめて生きやすく生きたい。緩衝材になって、「がんばり」を見える形にして、家にいることを許してほしい。

私は外がすごくこわい。こわい。
いい年をしておかしいと思う。そんなに恐れなくていい、そのはずだって。

家でいっぱいいっぱいになってしまった。あれも、これも、それも、私が出来ていない分を助けてもらっているのだから、やらなくては、やらなくては。頭の中にあるだけの、気持ちだけの善行者。

シンクの汚れ物の残りをやってほしい。わかった。
助け合いで生きていこう。わかった。

今、今しないといけませんか。
今、今その不満を受け止めないといけませんか。
私の小さな器では、受け止めきれない時もあって、その事情だけでも汲んでくださいませんか。

わがままです。
雨の日の鉄塔は、鉄骨にも苔のようなものが這っていて、ぬめぬめしていて、足を滑らせた私は塔に登ることも出来ずに落ちて、家に帰りました。
贅沢な半端物の、生きる能力も死ぬ能力もない休日でした。

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