ささん

うちの二人目の子供で長女のことを「ちゃーちゃん」と呼んでいる。私なりに無意識にそう呼ぶようになった思い当たりはあるのだけど、きっかけはどうだったか忘れたということにしたい。
私は実家暮らしで実母とも同居なので、母は孫娘のことも可愛がっているのだけど、あだ名である「ちゃーちゃん」という名前はどうしてそう呼ぶのかと母に尋ねられた。どうしてだったかなあ、なんてはぐらかしていたのだけど、母が言うには、「ちゃーちゃん」という呼び方はあまり嬉しくない。
なぜかと聞いたら、昔話をする時の辛そうな顔で話し出した。
母の子供時分、南房総の実家の裏手の小屋には叔父さんが住んでいたのだという。「ささん」と周りに呼ばれていて、本名はサキチさんとか、そういう名前だったらしい。戦時中に招集されて、上官にひどく頭を殴られたせいでばかになって帰ってきてしまったという。
その小屋暮らしの「ささん」が、漢字で書かれた母の学校の名札を見て、「ちこちゃん」と母の名前を呼んだ。読み方は実際には違うのだが、「ささん」が母の名前を呼んだと母が祖母に言うと、祖母はまだ漢字が読めるのかと、「ささん」がそんなことが出来るとは思っていなかったような態度だったらしい。
そんな「ささん」のことを、「ちゃーちゃん」の音で思い出してしまって、母は孫娘のあだ名があまり好きではないという。

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