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『急に具合が悪くなる』を読む①

この本との出会いは不思議なものだった。

仕事でなにかを検索していて、ツイッターを覗いている時に、偶然、そう本当に偶然、磯野先生のツイートを見た。

なんのツイートだったかも覚えていない(すみません)。

でも、なんだかおもしろい考え方をする方だな、人類学者か…と思って、仕事が終わった後、個人のアカウントでフォローした。

磯野先生のアカウントを見に行き、『急に具合が悪くなる』という本が出たばかりなのだと知った。

どうやら、摂食障害の方の研究もされていて、ダイエット信仰?に対する分析もされているようなので(ちらっとツイートを拝見しただけでした)、きっと精神的なストレスで具合が悪くなりがちな人へ向けた本だろうと思った。


私は、7、8年ほど前、躁うつ病で倒れたことがある。

正確に言えば、仕事のストレスなどから、激しい頭痛と突然の鼻血、過呼吸に連日悩まされていて、ある日まったく起き上がれなくなった。

精神的なもの、とは思っていなかったが、親類の紹介で、精神科に行き、「躁うつ病」と診断された。

言われてみれば、ある時期から強迫性が強く、何度も何度も同じことを確認していた。

なにかを忘れたり失敗したりすることをとても恐れて、やるべきことをすべて書き出さないと怖いということもあった。

でも、主治医の先生がとても親身になってくださり、仕事も退職し、日常から切り離されることで、私の病状は少しづつ落ち着いていった。

今では薬を飲む必要もないし、自身で行動認知ができているので、悪化する前にコントロールすることが可能で、「治った」と言えると個人的には思っている。(再発しがちなので気を付けて、とは言われている)


そういった経緯もあって、自己コントロールのようなものには関心が強く、「この本読んでみようかな」と思い至った。

躁うつを患った際に、活字がまったく読めなくなったこともあり、あまり本を読む習慣ができていないのだが、本を読みたい、と感じた時には、カメのようなスピードでいいから、少しずつでも満足する量を読むようにしている。

先に読んでいた本が思ったほど私の心に響かず、「外出を控えてください」と言われ始めた初めの頃、本屋さんで『急に具合が悪くなる』を買った。

でも、その時は忙しかった。この感染症の影響で仕事で対応するものは膨大となり、私生活でも引っ越しを控えていて、読めずにいた。

4月のなかば。やっと仕事も引っ越しも落ち着き、本を開くことができた。


私が思っていた本ではなかった。

精神的にしんどくなって具合が悪くなる話ではなかった。

「がん」で急に具合が悪くなると言われた哲学者とそれを知った人類学者の往復書簡の本だった。

私は、幸運にも、周囲でがんで闘病した人がおらず、がんとは近しい関係では今のところはない。

少し縁遠い本なのかもしれない、と思って読み始めた。


『第1便 急に具合が悪くなる』


医師から「急に具合が悪くなるかもしれない」と言われたら。

数々の予定が入っている人生の中で、「急に具合が悪くなる可能性」が侵入するのは、どういうことなのか。


私の人生は(客観的に見れば)順調だった。

ある程度経済的に安定した家に生まれ、家族も元気で、地元でも評判の高い学校を出て、優良企業に入った。

さまざまな可能性の中から、ルートを選び、進んで、またルートを選び、「失敗のない」人生を歩いてきた。

なのに。

突然起き上がれなくなった。

仕事をやめないといけなくなった。

半年寝たきりになった。

人生の時は止まり、社会から切り離された。

失敗しないように、リスクを負わないように生きてきたのに、ルートを選んだのに、『急に具合が悪くなった』。

これは、私と「縁遠い」本ではない。

私のための本かもしれない。


本の中のひとことひとことが、私のあの時代をよみがえらせ、「自分と向き合え」と言っているような気がする。

この本と真剣に向き合わないといけない。

まったくさくさくとは読めない。

でも私にはとても大事な本になりそうだ。


今日はこのくらいで。