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お歯黒ちゃんだった私

お歯黒について、私は正直あまりよく知らないでいる。
その昔女性の歯に黒い染料をつけて、にっこり笑うと歯が真っ黒という状態が美しいとされた時代があったとか。

どうしてこんな話をするかと言うと。

私は自分の小学1〜2年の頃(乳歯の頃)の写真が好きではない。
何が嫌かって、にっこり笑っている口元から覗く歯が真っ黒なことだ。
そう、まるでお歯黒にしたかのような口元だった。

私は痛いことが嫌いだ。
たまに起きる頭痛は一番の苦手だ。ほとんど何もできなくなる。
はるか昔にしたコイル塞栓術によって私の食道の裏あたりに埋まっているコイルは、気圧の変化でじんわり痛くなるときがある(たぶん今みたいな良い素材じゃないんだと思う。MRI受けられないし)。
カテーテル検査では体の中で蠢くカテーテルの痛みに毎回泣かされ、点滴ルートはすぐ痛くなって入れ替えばかり。
あといろいろあるけど、考えるだけで痛いのでやめておく。
だんだんと慣れて我慢はできるものの、基本的に痛いの「怖い・嫌い・拒否したい」の3Kだ。

ところが、昔から歯については痛みを感じることがない。


人は虫歯ができたら歯や歯茎が痛くなる。
…らしいのだけれど、私はこの痛みが一切起こらない。
これがなぜかはよくわからない。とにかく、子どもの頃から今の今まで虫歯で歯が痛くなった経験がない。
例えば口内炎ができれば痛いなと思うし、熱いお茶や冷たい水が沁みることはある(知覚過敏と言われている)。にも関わらず、虫歯で歯が痛いという感覚だけは起こらず、それがどんなものか理解できないでいる。

痛みがなければ体への負担が少なくなるんだから良いことじゃないの、と思われるかもしれない。でも、痛みがないということは、いつまでも虫歯の存在に気がつかないということだ。

そんな私なので、歯科検診でようやく虫歯がわかって、「C3ですね」と言われるようなことも珍しくなかった。通常これくらいひどい虫歯になると痛くてたまらないようだけれど、痛くないんだもん。

で、冒頭の「口元から覗く歯が真っ黒」に繋がる。
私は子どもの頃…というか、乳歯の頃、ほとんどすべての歯が虫歯だった。

歯磨きしてないの?と言われそう。
いえいえ、ちゃんとしてました。
現代社会だと虫歯の多さからネグレクトを疑われそうだけど、何より母が虫歯になることを嫌がっていて、比較的丁寧にケアはしていた。

私は、もしかしたら当時飲んでいた薬の影響ではないかと考えている。

当時飲んでいた薬は粉薬で、私はそれを専用のお猪口に入れて水で溶かして飲んでいた。この薬を私は物心ついた頃から飲んでいた。

この薬は甘口だった。
なんの成分が甘みに繋がっていたのかは知らないけれど、薬が嫌いにならなかったのはこの甘みのおかげだったと思う。
トリクロ(小さな子が検査のためなどに飲む眠り薬のようなもの。オレンジ色のシロップ薬でバニラっぽい香りがする。見た目美味しそう、飲むと吐きたい、強烈に甘いけど美味しくない、私調べでは子どもの8割は嫌いだと思うそんな薬)よりもはるかにあっさり、くどくなく飲みやすい。

とにかく私はこの薬が嫌いじゃなかった。

でもその甘さゆえに虫歯になっていたのではないかと思っている。
だってどれほどケアしても、すぐに虫歯になってしまうのだから。

それと、虫歯は口腔内が酸性に傾いたら起こりやすいと聞いたことがある。
薬との因果関係があったかどうかそれも不明だが、どうやら私の口腔内は常に酸性に傾いていたらしい。

乳歯が真っ黒で母は戦々恐々としていたようだ。
そりゃそうだ、虫歯は先天性心疾患の子(人)にとって恐ろしいモノ。
なにより母が心配していたのは、永久歯も同じように虫歯だらけになるのではないかということだった。

※先天性心疾患(生まれたときから心臓病)の子や人たちは、虫歯の個所そのものからや、虫歯治療や抜歯の際に血液に細菌が入り込まないよう気をつける必要がある。血液に入り込んだ細菌が心臓に感染してしまうと「感染性心内膜炎」を引き起こす可能性が出てくるためである。感染性心内膜炎になると場合によっては命を落とすこともある。
それを防ぐために出血を伴う虫歯治療には事前に抗生物質を服用しておく必要があるが、少なくとも治療一時間前には服用している方が望ましいと(私は)言われている。
また先天性心疾患の場合、抗凝固剤(血液を固まりにくくする薬。血栓予防のためなどに用いられる)を服用している患者も多くいる。その場合は治療で大量出血する可能性があるので、そうした情報を事前に歯科に伝えておく必要もある。
要するに、虫歯は先天性心疾患の者にとって百害あって一利なしなのだ。

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母が懸念していた永久歯についてはお歯黒ちゃんにならずに済んだ。
永久歯が生えてからも先ほどの甘い薬は変わらず飲んでいたのに、どんな違いがあったのかは今もよくわからないでいる。でもとにかく回避できて良かった。
40代に突入してからも(虫歯治療はしまくっているけれど)私は今のところすべて自前の歯で乗り切っている。あと、親知らずもそっと埋もれたままで自己主張しないでくれているので抜歯もしたことがない。今のところうまくコントロールできていると言えるだろう。

ただ、現在も虫歯に関しては痛みがない。

私は現在3~4か月ごとに歯科検診を受けているが、何事もなく終わったのに、その検診の数週間後に奥歯の詰め物(銀歯)がボロッと取れたことがある。
「あー、古くなったのかな」と歯医者に行くと、「なかなかのひどい虫歯があるよ」と言われてしまった。そんな急速に虫歯ができることはないらしいので、銀歯の中でひっそり、スクスクと育っていたようだ。
「痛くなかった?」
「はい、全然」
私はケロッとしている。
歯医者さんとしても私が痛みを訴えることがない上に、虫歯が銀歯で隠れてしまっていたので見落としたらしい。

それからは時折レントゲンを撮るようになった。レントゲンで見れば虫歯があったら一目瞭然でわかるそうな。

次回の歯科検診では久しぶりに細かいレントゲンを撮ると言われている。さて、どうなるのだろう…。
痛くないって、案外怖いよ。

私が子どもの頃は、今ほど口腔ケアの重要性は唱えられていなかった。
でも今はあのときと事情が違う。
入院して髪の毛がなかなか洗えなくてもそちらはほっとかれるが、歯磨きはよほどのことがない限りきちんとするよう促される。
緊急性のない開胸手術の前には、歯科で虫歯の治療を受ける必要があると聞く。どうやら歯は、想像以上に大切なようだ。

そうそう、お歯黒ちゃんだった頃とても恥ずかしかったことがある。

何かの授業で、クラスの隣の席の子と似顔絵を描き合うことになった。
相手の子が誰だったのかはすっかり忘れてしまったが、
「ぱきらちゃんのお口はこう」
と、描いてくれた私の似顔絵の口元を、丁寧に黒く塗りつぶしてくれたことがあった。
ああ、子どもって本当に正直(泣)。

そのとき初めて「私ってこんな風に見えてるんだ!」と衝撃を受けた。

人は見た目じゃないとは言うものの、見た目はやはり大切と感じた初めての経験かもしれない。
私はお洒落にも疎かったしそれほど自分の格好にこだわりはなかったけれど、口元だけは綺麗であろうと思った。…いえ、唇がカサカサに乾燥していることもままあるので、偉そうには言えたものではないけれど。


痛みを感じていなくても、たまには歯医者に行くんだよ!

痛みを訴えて来なくても、お子さんの歯を注意深く見てあげてね!

元お歯黒ちゃんとの約束だぞ!


あまり本を読んで来なかった私、いただいたサポートで本を購入し、新しい世界の扉を開けたらと考えています。どうぞよろしくお願いします!