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石神井で芸術鑑賞

 石神井池(ボート池)から石神井川に向かうあたりに、「藍美術」という額縁専門店があった。額縁のみならず、画材が揃い、美術を扱う店独特の空気が流れていたことを覚えている。一度だけスケッチブックを買ったことがあるが、そんな客ばかりなら、商売としては難しかったのだろうか。閉店した後は集合住宅が建つようだ。石神井公園通りの坂の途中にも額縁の店があって、こちらでは飾り皿を額装してもらった。丁寧な仕事で、料金も安かったけれど、無くなってから久しい。

 石神井池(ボート池)の中に「聖衣」というモニュメントが立っている。制作は彫刻家の三澤憲治氏で、高さ5.6メートル、重さ23トン、イタリア産大理石が使用されているとのことだ。氏の経歴を見る限りは、特に石神井に縁が深いようではない。この像は「石神井風致協会」の50周年記念事業として1984年に設置された。逆算すると、協会は1933年に地元の人々によって設立され、公園の整備を行ってきたが、完成した翌年に解散をしている。最後のお仕事だったということか。
 池では何度もボートでモニュメントのそばを通ったし、公園の遊歩道からもよく見える。ポイントは自然を背景に鑑賞出来る贅沢さだろう。晴れた日も雨の日も、雪の日もある。一度たりとも同じ姿を見せない。

曇りの日の「聖衣」

 9月23日、狂言の人間国宝・野村万作氏がプロデュースする「みどりの風 練馬薪能」が「石神井松の風文化公園」で開催された。氏は練馬区名誉区民とのことで、息子の萬斎氏ら、区にゆかりのある能楽師が出演する舞台は近年、恒例になっている。今年のチケットは完売だったが、広場の特設ビジョンで生中継が行われ、こちらは無料だ。昨年は悪天候で会場を変更し、自分はスマホで観劇したことを思えば、小雨が降りつつも、最後まで観劇出来たのは幸いだった。これもスタッフさんのおかげである。濡れたベンチを拭いてくれたり、ところどころで蚊取り線香を焚いてくれたり、雨ガッパまで用意してくれた。
 松の風文化公園は敷地に背の高い立派な木が何本も立っていて、いつも感心している。もともとは日本銀行の運動場だとのことだが、夏は特に景観がよい。大型ビジョンの背後にも緑があって、日が落ちるとそこが影絵のようになった。来年はチケットを申し込もうか。抽選とのことだが。

開演前。このあと、日が落ちる

「芸術」「アート」と言っても幅広いが、下石神井には「いわさきちひろ美術館・東京」があり、さまざまな企画展が行われている。石神井公園駅の近くの雑貨店「オリエンタルハート」はミニギャラリーを営まれているし、坂の途中で店内の作品をのぞくのも楽しみだ。
 和田稲荷神社の近くには「knulpAA(クヌルプエーエー) 」という工芸作品を展示販売している店がある。店の入り口によしずが立てかけられ、前から気になっていた。訪れると、石神井の作家さんの陶器が飾られていて、次回は「靴の受注会」だそうである。前売り券の発売されるような展覧会ももちろん良いが、街中の芸術鑑賞は、やり方も様々で面白い。
 石神井はこれから紅葉の美しい季節を迎える。「自分も絵筆をとって描いてみようか」、そう思っても、近場に画材の専門店が無くなってしまった。街の価値を落とすものではないだろうが、残念なことではある。

神社と「knulpAA」のある界隈


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