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石神井の「ねりまグリーン」

 街には街のイメージカラーがある。ずっと前に阪神間で暮らしていた時、「神戸なら青だろう」と自分的には思ってきたが、NAGASAWAというメーカーが、港町神戸をモチーフにした万年筆用のインクを売っている。豊富なラインナップの中に「波止場ブルー」という商品も見つけた。

 東京の練馬区では広報物に「緑色」を使うことが多い。「自然が多い」という連想だろうが、2015年には「NERIMA GREEN(ねりまグリーン)」なるものまでを発表している。絵具メーカー「ニッカー絵具」が開発したとのことで、ホームページには5本入りの見本があがっていた。5色の意味は、「Nature」:動植物の「自然」のみどり、「Town」:建物や標識の「街」のみどり・・・となっていて、参考にした写真なども載っている。
 残念なことだが、絵の具は現在は販売していないようだ。いろいろ探ったが、当時の話も聞けなかった。プロジェクトに携われた会社がCMYKのカラーモデルをあげていて、傾向だけはつかめる。大根の葉っぱのような色合いで、異論はないだろう。

公式アニメキャラクター「ねり丸くん」も緑

  石神井公園内は花や木に事欠かないが、緑色にこだわって歩くと、春や初夏は特別に美しい。冬の間、枯れて地味だった景色も、春になるといっせいに賑やかになる。
 ソメイヨシノは花もきれいだが、葉桜の頃もまた素敵だ。学問的には、花が咲く前には葉が茂って栄養を蓄えるのが道理ではないか。実は、幹や根に十分な栄養がある樹木は、先に花を咲かせられるらしい。ウメやモモ、ハナミズキもそうだと思う。順番が逆だとせっかくの花の色が葉の緑に埋没し、台無しになるだろう。
 毎年四月、最終日曜日に石神井で行われるのが「照姫まつり」だ。この頃になると公園のあちこちで花が咲き、カキツバタをはじめとするアヤメ科は大変元気がいい。水辺の美しさをとるならベストシーズンだと思う。スマホを持って散歩すると、つい足が止まる。

石神井池(ボート池)の黄菖蒲

 その後季節が進み、草木が生い茂る頃になると、公園の緑はぐっと濃くなって、暑さが増すと緑の色に息詰まるほどだ。三宝寺池に咲くスイレンは見た目にも有難い感じがするが、円形で切れ込みのある葉っぱがその印象をさらに強めてくれる。
 今年の冬、石神井でも夕方頃から雪が降ったが、一夜明けると畑の作物や花壇の植物が顔を出していた。実にけなげな感じがしたし、ネギなどは形がユーモラスだ。一年のうちにそんなに機会があることでもないけれど、白い雪と緑とのコントラストもまたよい。

雪が降った翌日、公園内花壇の様子

 練馬区は東京二十三区の中では緑の代表のような顔をしているが、近年は石神井でも生産緑地や保護樹林が目に見えて減った。石神井公園駅のそばに広い畑があったが、どうやら無くなったようだ。将来的にインターチェンジも出来るかも、ともなれば、必ずしも「環境に優しい」練馬区という話ばかりではない。
 少し前、赤坂のとあるオフィスビルの中で「日本茜」の展示があった。赤坂の地名の由来について、赤坂見附から四谷へとぼる紀伊国坂の坂上に茜草が生えていたからという説がある。日本茜は年を経るほどに根が赤くなり、「赤根」になる。煮出すと赤い色が染みだすことから、染料として利用されていたそうだ。
 地名の説が本当だとしたら、ずいぶん直接的な命名の仕方だが、そうした牧歌的な風景が失われてきたことにもう少し真剣になった方がいいと思う。練馬区も昨今の工事のペースで進めば、「どこがグリーンなの?」ともなりかねないが、どうか。

「日本茜」展示 於:赤坂


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