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石神井のゆく年くる年

 この冬、東京都内のいたるところでイルミネーションが灯された。それぞれ趣向が凝らされ見事だけれど、所によってはその豪華絢爛さに気おくれするほどだ。スマホ撮影にはいかにも都合がいいが、都会の冬の風物詩は、この先どこまで派手になるのかと心配になる。
 そうした中、西武池袋線・石神井公園駅前はいたって地味だ。前は広いロータリーなのだからして、何か派手なものを設置することは可能だろうが、今のところそんな動きは感じられない。もっとも高架化する前の駅前はさらに地味であったし、そんな景色が好きだった。

 西武新宿線の上井草駅に近い下石神井商店街に「M's Dining」というレストランがあって、夜遅くまで開いている。何年か前、隣のもともと精肉店があった場所までお店を拡げられた。
 昨年、クリスマスの頃のことだ。店頭にビールやホットワインを出して、生ハムやチーズなどの総菜やデザートの販売を行った。期間限定のことだし、ここで飲むにはちょっと人目が厳しいかなとも感じたけれど、こういう企画があると、元気を失いがちな古い商店街の中に、ぽっと灯りがさすような気がする。

ホットワインを頂いた

 それから年が押し迫り、老舗のそば店「なかやしき」にかなり久しぶりに入った。改装した時以来だから、もう十年以上前になるだろう。昔の店名は「中屋敷」といい、移設した古民家を店舗としていた時は何度もここで食事をした。石神井池(ボート池)の畔にあり、ロケーション的には申し分ない。今はモダンな外観に変わっている。
 休日のなかやしきは、いつも店の前に行列が並んでいて、それが足を遠のかせた原因だ。仕事納めという時期が功を奏したのか、その日は開店を待つ数組がいるだけですんなり進めた。もっとも、その後も客足は途絶えなかったけれど。
 店内にはお酒を楽しむ人の姿がちらほら。以前、バス旅の番組で店が紹介されたのを見たが、その時の色紙が店内に飾られていた。古民家だった当時の記憶はすでに曖昧になっているし、この辺りは道路の拡大で街並み自体が変わった。昔とは比較しようもないが、今も石神井を代表するお店のひとつであることは間違いないと思う。

「なかやしき」にて、久しぶりに

 石神井公園駅の南側は再開発が進められている。かねて営業を続けていた「星乃珈琲」と「サンメリー」は、あと数日で閉店する。チェーン店であるし、渋谷や下北沢のようにニュースになりえようもないが、地元にとってはそれぞれ思い出のある場所だ。商店街に向かう角の建物に入っているから、取り壊しがあれば、街の景色はかなり変わるだろう。
 通行人たちが「高い建物が建つらしい」「市庁舎が入るそうだ」と噂している。いつもながら「誰が決めたのだろう?」と考えてしまう。高架化で踏切がなくなり、バス通りも東に移動したわけで、すでに交通事情は改善しているのだから。

営業はあと数日。なんとも寂しい

 なかやしきが古民家だった当時、自分は一枚も写真を撮っていない。家族で思い出話にふけるためにも、少しは残しておけば良かった。石神井のことを書いているが、ずっと続くと思っていた街の景色が再開発で消えてしまうような体験は、多くの人がしているのではないだろうか。便利になることも多い反面、寂しい思いをすることも多い。
 備忘録として、今年は写真を撮る機会が増えそうだ。

正月に出会ったカワセミ。公園内、遭遇率高し


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