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「子育ての正解」を類人猿に学んでみる|オランウータン編

「子育ての正解を類人猿に学んでみる」シリーズ(#0,#1,#2)の三回目は、オランウータン先生にご登場いただきます。

さっそく、オランウータンの子育てスタイルの特徴をまとめると、

①母親が完全にひとりで、7年くらい子育てをする

②同時に複数の子育てをせず、手を離れてから次の子を妊娠する

父親と一緒にいるのは交尾の時だけで、そのあとはひとり暮らし

④オトナとしてのふるまいや子育てのしかたは、すべて母親に学ぶ

⑤寿命をむかえるギリギリまで、子育てをする

といったところ。

チンパンジーやゴリラにくらべ、特徴的なのは①③④で、人間に置き換えてみると、なんともパンチの効いた交尾~子育てスタイルをもっていますね。

それでは、①~⑤の特徴をふまえながら、オランウータンの子育てを見ていきましょう~。


孤独を愛する森の人


オランウータンは、現地の言葉で「オラン(人)ウータン(森の)」という名前の通り、鬱蒼とした森に棲む、ヒト科の動物です。

一生のほとんどを樹から降りずに過ごし、寝るのも食べるのも移動するのも交尾するのも出産するのも子育てするのも、ずーっと樹の上です。

また、樹上にくらしている(地面に降りない)動物の中では、世界でもっとも大きな動物です。

そんなオランウータンは、基本的に群れをつくらず、一生をたったひとりで生き抜きます。究極のソーシャルディスタンス。

基本的には、すべての霊長類は群れをつくって生活しているものなので、異端な存在ともいえます。かわいい顔してアウトロー。

唯一、他のオランウータンと密接になるのは、オスとメスが交尾をするわずかな時期と、メスが子育てをする期間のみ。

つまり、オスの場合は子どもの間しか「他の誰かと生活する」ことがないわけですね。うーん、孤独だ。

とはいえ、オトナになってからの一生を完全にひとりですごすわけではなく、ゆるやかな地域社会をもっているとされています。ただ、単独ですごす傾向が強いので、ほぼほぼ「おひとり様」暮らしなことに変わりないわけですね。


孤独な超シングルマザー子育て


オランウータンの子どもは、7~10歳くらいになると母親のもとを離れ、ひとりで暮らすようになります。

メスの場合、10歳くらいで妊娠できるようになるとされていますが、実際には13歳から18歳くらいの間に初めての出産を迎えることが多いようです。妊娠期間は8か月ほど。

他の類人猿にくらべても、子どもがひとり立ちするまでの期間が長いので、その分出産の間隔も長く、8~9年に1頭のペースが平均的です。一生のうちに産む子どもは、多くても5~6頭ほどとされています。

寿命は50~60歳程度とされています。野生では、53歳の時点で赤ん坊を連れている健康なメスが観察されています。他の類人猿と同じく、閉経=寿命ギリギリまで子育てをすることがわかりますね。

最初の方に書きましたが、オランウータンの母親は、たったひとりで子育てのすべてをこなします。子育て、というか、妊娠中も出産も、基本的にはすべてひとりです。

人間社会的な言い方をすれば、シングルマザー中のシングルマザー。しかも保育園や親戚に子どもを預けることもないので、いわば「超シングルマザー」なわけですね。

ただ、ヒトのシングルマザーと単純比較してはいけません。ヒトは母親がひとりで子育てを担当するように進化してきていないので。

オランウータンの研究者いわく、人間とのちがいは「親ではなく子ども」にあるとのことで、「オランウータンの子どもは、騒がないし要求しない」と表現しています。もちろん、ヒトの子どもが騒いだり、要求したりするのも、実はヒトなりの進化の結果なんですが。

とにもかくにも、オランウータンは母親が長い年月をかけて、じっくりゆっくりと子育てをするということです。

さらにいうと、子どもは母親以外のオトナと一緒にすごすこともあまりないので、生きていくうえで必要な知識や行動は、すべて母親との暮らしの中で学ぶ必要があるということですね。

チンパンジーは「保育は母親、教育は群れ全体」

ゴリラは「保育は母親、教育は父親」

オランウータンは「保育は母親、教育も母親」

と、それぞれの子育てスタイルの特徴が見えてきましたね~。

そんなオランウータンの子育ての大きな大きな特徴が、子どもの生存率の高さ。研究により、オランウータンのメスがオトナになるまで生きのびる確率は、94%であることがわかっています。

これは野生動物のなかでは最も高い数値で、これを超える生存率は、先進国に暮らすヒトの女性のみです。

つまり、ヒトが先進的な暮らしを獲得する20世紀になるまでは、

地球上でもっとも子どもが死なない動物=オランウータン

だったわけですね。食物の安定した供給や医療なんて存在しない環境なわけですからね。これはすごい。

この驚異的ともいえる生存率の高さは、そもそも争いが少ない(成熟したオス同士がメスを巡って激しい闘争をすることはありますが)というオランウータンの性質があってこそなのでしょうが、「少ない子どもを大切に育てる」という子育てスタイルも影響しているようです。

オランウータンは、一生のうちに5~6頭くらいしか子どもを産みません。これは、子どものときに命を落としやすい野生動物としては、異例の少なさです。

数億個の卵を産み、そのうち1%にも満たない数しかオトナになれないような魚などとは、正反対の繁殖戦略といえますね。ただ、野生動物にとって重要なのは、「どれだけ子どもを産むか」「どれだけ子どもをじっくり育てるか」ではなく、「どれだけ子どもをオトナまで生きのびさせ、遺伝子をつなぐか」なので、どちらが優れている、という話ではありませんが。

ただひとつ確かなのは、オランウータンが暮らしてきた環境の中では、短い期間で子どもをたくさん産むよりも、長い期間をかけてでも、少ない子どもをじっくりと育てあげるほうが、生存に有利だったんでしょうね。


オランウータンの子育て|まとめ


それでは、オランウータンの子育てスタイルの特徴をまとめます。

①母親が完全にひとりで、7年くらい子育てをする

②同時に複数の子育てをせず、手を離れてから次の子を妊娠する

父親と一緒にいるのは交尾の時だけで、そのあとはひとり暮らし

④オトナとしてのふるまいや子育てのしかたは、すべて母親に学ぶ

⑤寿命をむかえるギリギリまで、子育てをする

という感じ。

「超シングルマザー型」の子育てをしていますが、子どもの生存率がとても高く、母親が長い年月をかけて、ゆっくりと子どもを育てあげるというというところが、特徴的で面白いですねー。

これで、類人猿のうち有名どころのチンパンジー、ゴリラ、オランウータンの子育てスタイルについて紹介し終わりました。それぞれのちがいや特徴が見えてきたのではないでしょうか。

それでは、オランウータンについてはこのあたりで。

次の記事が、このシリーズで子育てを紹介する(たぶん)最後の動物です。ご紹介するのは・・・テナガザル!

地味!?地味じゃない!

実はテナガザル、これまでに紹介した類人猿とは違い、オス一頭とメス一頭が「夫婦」になり、一生を添い遂げながら共同で子育てをする、という、なんとも「人間らしい」子育てスタイルをもっている動物なんです!

それでは、テナガザル編をお楽しみに~!

ここまで読んでもらえたことが、なによりうれしいです!スキをぽちっとしていただくと、30代の男が画面のむこうでニヤニヤします。