他人のこと

 半年前に共演した友達に会う機会があった。あのとき、舞台女優になりたいものの所属劇団を迷っていた彼女だが、ついに所属する劇団を決めたようだった。聞けばハロプロと提携して舞台を作っている劇団で、その昔、友達の友達の彼氏の妹が所属しているという縁で見に行ったことがあった。それを言うと、「それ、他人って言うんだよ」と突っ込まれた。確かにね。

 今日、同期の飲み会に誘われた。日記を読み返したら、同期に会うのはかれこれ半年ぶりだった。半年前は確か、同期主催のバスケット大会に参加したのだった。友達を自由に連れてきていいという趣旨のもとに、会社の先輩後輩はもちろん、昔のバイト仲間とかいうまったく関係のない人まで紛れていた。みんなで楽しく汗を流してから飲み屋に流れ、同期の昔のバイト仲間と席が一緒になり、彼らがいかに電車を乗り過ごす能力に長けているかで盛り上がりながらも、この人たちの名前なんだっけなどと頭の片隅で考えたりしていた。なんだかね。

 キーボードを買った。88鍵、重さ12kg。立てるとあたしの身長と同じくらいだ。カートに乗せて、キロキロと新宿を歩く。迷惑そうな顔で道を避ける者や、ぶつかられたと難癖をつける者、さまざまだ。新宿駅に着いた。総武線への階段は長くてきつい。すべての改札口にエスカレーターをつけろよと心の中で悪態をつきながら、抱え込んでよいしょよいしょと上る。肩を叩かれた。背の高い外国人のカップルが立っていた。男が何か言っている。女がにこやかに頷いている。男はキーボードをひょいと抱え上げて、すたすたと運んでくれた。ありがとうございます、本当にありがとうございました、と日本語でお礼を言う。彼らは山手線に消えた。スマートだね。

 朝の総武線は壮絶に混雑している。電車を2本見送るのもざらだ。やっとのことでぎりぎり乗れたところに、大急ぎで突っ込んでくる若いサラリーマンの男がいた。扉の上に手を当てて、背中でぎゅうぎゅうと押してくる。痛い。痛いよ。これ以上は本当に奥へ行けないのに。そいつの目の前でドアがぷしゅっと閉まった。動き出して漸くほっと息をつき、男をチラッと見る。鼻の頭が赤い。目の下にクマがある、髪が乱れてコートもマフラーもくたびれている。疲れてんだなと思う。疲れてんだな。コトコトと電車に揺られて、あたしたちは新宿に運ばれていく。まぁいいよ、あの無謀な押し込みも許してやるよ。しょうがないな。

 なんてね。

written: 2009.12.16