FASS 資金編(完)

全体のポイント

・ABC(承認/記録/保管)の職務分離
・日々の記録が必要
・台帳の継続的な整備運用が必要
・会計処理(BS計上額の決定、PL計上額と期間帰属)は投資目的(事業投資/金融投資)により異なる
・資金繰りの確認手法は情報の用途(銀行に提示?社内利用?)により様々
 ・運転資金/固定資金?
 ・経常収支/経常外収支?
 ・営業CF/投資CF/財務CF?

資金繰りの方法

○銀行
・預金管理
・借入:利息支払と元本返済
・外貨建取引:為替予約は銀行との取引

○仕入先/売上先、グループ会社
・貨幣性資産(手形、小切手)
・債務保証
・貸付/借入

○投資先、調達先(株主/社債権者)
・有価証券:取得、売却、評価
・社債発行
・デリバティブ取引
・ヘッジ会計
・設備投資
・キャッシュフロー計算書

現金出納管理

銀行預金管理

○入金予定日の到来時
・銀行口座の入金明細を確認
・入金伝票の発行→入金仕訳の計上
・請求データとの照合
・請求依頼元への通知

○出金時
・支払依頼書の発行(営業部門)
・契約書&請求書と照合して承認(経理部門)
・振込依頼書の発行(経理部門)
・振込の実行(財務部門の出納係):振込先口座番号や自社口座残高のチェック
・支払依頼元への通知
・支払伝票の発行→出金仕訳の計上

○公共料金や税金の支払時
・納付依頼書の提出が必要
・振込手数料は不要

○現物管理
・通帳と銀行印について、保管金庫と管理責任者は別々にする
・払戻伝票(引出伝票)への押印は、銀行持込の直前に行う(銀行印の持ち出しは禁止)

○預金勘定残高管理(決算処理の一部)
・預金残高証明書を銀行から取り寄せる
・銀行勘定調整表を作成する

○ペイオフ(預金先銀行破綻時の保険機構による支払)
・決済性預金(当座預金):利息なしのため全額保護
・貯蓄性預金(普通預金、定期預金、通知預金):元本1000万円以内とその利息額
・その他(譲渡性預金、外貨預金、海外銀行の日本支店への預金、日本銀行の海外支店への預金):保護なし

小口現金管理

・小口現金勘定は、日常的な経費の支払いのための現金
・定額資金前渡法(インプレストシステム、定期的に定額まで補充)が推奨だが、随時補充法も可能
・支払いが可能な内容と限度額を規定しておく
・支払いは領収書と引き換え

現金出納管理

・現金勘定は、入金された現金(レジに保管される売上金のイメージ)
・現金:紙幣貨幣+通貨代用証券(銀行に持ち込めばすぐ換金できる)
・切手と印紙は貯蔵品
・現物管理:記帳係と出納係は分ける(職務分離)
・出納帳管理:日々記載する
・実際有高と帳簿残高の一致性確認:管理者以外が行う(職務分離)、まず現金過不足勘定を使って現金勘定を調整し、調査しても解決しなければ、期末に現金過不足を雑損雑益に振り替える

手形管理

領収書

・「売上」(収益)の計上タイミング:「商品の引渡し」「対価の受領」の両方が揃った時点
 ・対価:現金、売掛金、受取手形、小切手、など
・領収書の発行タイミング:対価物(対価ではない)を受領した時点
 ・現金や受取手形を受領したら領収書を発行するが、売掛金(対価ではあるが対価物ではない)が計上された時点では領収書は発行しない

手形の種類

・約束手形:2者間、振出人Aが受取人Bに支払うことを約束して振り出す
・為替手形:3者間、振出人Aが「受取人Bに支払うこと」を支払人Cに委託するために振り出す

手形の記載内容

・支払約束文句(約束手形の場合)/支払委託文句(為替手形の場合)
・支払金額
・満期日:支払期日
・支払地:どの銀行が支払うか
・受取人:誰が受け取るか
・振出地
・振出日
・振出人の署名&捺印(銀行届出印)
・支払人の住所氏名

手形の性質

・手形は証券の一種(振り出された理由を問わず、手形自体に権利がある)
・手形法に従って記載内容の実行が要請される
・手形の権利を実行するためには、手形自体の提示が必要
・手形と小切手による代金支払は当座決済(当座勘定契約に基づく)であるため、当座預金口座を持ってないと不可能

受取手形の管理

①入手前準備
・発行元の財務状況の信頼性をチェック:回収のため
・決済日までの期間(サイト)をチェック:資金繰りのため

②入手時の検収
・手形の形式の有効性:裏書手形の記名の連続性など
・支払金額が当社発行の請求書と一致しているか突合

③台帳管理
・誰から受け取ったか/誰から支払われるか/いつ決済されるか/決済されたかを台帳で管理する
・振出人の信用力を継続チェック
・手形台帳と現物を定期的に照合する(実査)
・期日別に管理する
 ・期日の延期に応じるかどうかを検討できる
 ・期日前に使う(裏書譲渡、手形割引)かどうかを検討できる
  ・裏書譲渡:金券のように使う(例:買掛金を支払うときに受取手形を渡す)
  ・手形割引:銀行などに渡して換金してもらう
  ※売掛債権(受取手形/売掛金)の現金化
   ・受取手形→手形割引
   ・売掛金→ファクタリング
・顧客別に管理する:顧客からの入金がどんな手段(手形など)で決済されたのか?を知るため

④入手後の現物管理
・受取次第、銀行に渡して取立依頼を行う(台帳記録と現物保管は別者がやるべきなので)

⑤手形に関する記帳
・手形を受領したタイミングで、売掛債権の消込を行う(売掛債権台帳)
・期日到来したタイミングで、当座預金に入金される

仕訳の種類

・手形代金の回収: 当座預金/受取手形
・手形代金の支払: 支払手形/当座預金

裏書譲渡の仕訳:買掛金の支払いに受取手形を使った場合

①資産から受取手形をなくす方法(対照勘定処理)
買掛金/受取手形
裏書義務見返/裏書義務
※裏書すると不渡時に遡及(買取請求)される可能性があるため

②資産から受取手形をなくさない方法(評価勘定処理)
買掛金/裏書手形

手形割引の仕訳
・実質的には、受取手形を担保とした借入金と同じ(売却日から満期日までの期間で借入利息10が発生していると考える)

売却日の仕訳
現金預金990/受取手形1,000
手形売却損10

※手形売却損(支払利息の性質)は資金調達コストなので、金利だけではなく、発行者や当社の信用度により金額が変動する

不渡手形

不渡リスクに対するコントロール
・得意先の不渡情報を得た場合
 ・商品引渡の停止(未回収債権をこれ以上増やさないため)
 ・設定されている担保の有無を確認し、権利行使要否を検討する
・自社が不渡を起こしそうな場合
 ・手形振出前に、当座預金に充分な残高があることを確認する
 ・銀行と当座借越契約を結ぶ

不渡の種類
・0号不渡:形式や要件に不備があって不渡になってしまった場合
・1号不渡:振出人の資金不足などが理由の場合(6ヶ月間に2回発生すると取引停止)
・2号不渡:手形が偽造された場合などに支払いたくない場合

電子記録債権債務(電子手形)

・電子記録債権債務:電子記録法に基づき、電子債権記録機関(銀行など)が保有する記録原簿に電子記録されている金銭債権債務(売掛金/買掛金、受取手形/支払手形)

・電債を利用するためには、取引する双方が、取扱機関に利用登録(利用番号の交付など)している必要がある

メリット
・取立依頼作業が不要になる(支払期日になると自動的に入金される)
・現物を紛失するリスクがなくなる
・分割譲渡が可能になる
・収入印紙が不要になる

小切手管理

・手形と基本的に同時だが、以下の点が異なる
 ・受取人の指定がない
 ・支払日の指定がない:「先日付小切手(実際の作成日<記載された振出日)」でも、受け取った時点で即換金できる
 ・小切手法に従う
 ・小切手には、支払委託文句(取引銀行に支払を委託する文言)が記載されている
 ・支払人と支払地は、銀行名と銀行所在地
 ・換金可能期間:振出日の翌日から10日間
・銀行に当座預金口座を開設(当座勘定取引契約を締結)し、預金から小切手代金の支払いを行う

小切手のステータス

・未取立
・未渡
・不渡
・未取付
・先日付小切手:会計上、受取手形として処理する(商習慣上、指定された振出日までは取立しないことになっているため)

小切手の仕訳

入手時
現金/売上or売掛金

振出時
仕入or買掛金/当座預金

有価証券管理

投資の前準備

○運用方針を決めておく
・投資額と手元確保資金の配分率
・運用賞品の選択根拠(収益性/安全性/流動性)の策定
・リスクとリターンの検討
・市況状況の把握
・運用期間の検討

○継続管理する
・投資先企業の財務情報モニタリング
・現物保管を外部委託している場合でも、自社で台帳管理して会計処理を行う(委託先が発行する預かり証と定期的に照合して実在性を確認する)

○金融リスク
・信用
・価格変動
・為替変動
・金利変動
・流動性:現金化できないリスク
・インフレ

代表的な投資の種類

株式への投資(出資)
・配当利益(インカムゲイン)
・キャピタルゲイン:株式売却による
・ハイリスクハイリターンハイリスクハイリターン

公社債への投資(貸付)
・有価証券利息(インカムゲイン)
・ローリスクローリターン

投資信託への投資(信託)
・多くの投資家から小口資金を集めて、運用委託されたファンド(専門家)が信託銀行に売買指示する
・分配金
・種類
 ・オープン型:追加購入(買い増し)可能、MMF、MRF
 ・ユニット型:追加購入不可

投資利回り

指標の種類
・ROA:資産に対する利益
・ROE:純資産に対する利益

以下の意味の違いに注意
・利回り:投資額に対する儲け
・利率:証券の償還価額に対する利息
・内部収益率(IRR):投資期間を考慮できる


・5年国債
・発行価額:1,000,000
・償還価額:1,100,000
・年利率(クーポン利息):1%
↓1年間の単純利回りを求めると
・1年で20,000もうかる(5年後にもらえる100,000を1/5)
・毎年11,000の利息を受け取れる(償還価額の1%)
合計で31,000
投資額は1,000,000
よって3.1%

有価証券の会計処理

・約定日基準:商品売買とは異なり、取得日ではなく、約定日(契約成立日)に仕訳を計上する
・売買単位がある:株数(株式)、口数(公社債、投資信託)
・金融商品の取得コスト(証券会社への支払手数料など)は、有価証券原価に算入
・金融商品の売却コストは、営業外費用
・証憑書類(契約書や請求書)が会計処理のエビデンスとなる
・期末時点で所有している場合、BSに資産計上が必要

資産計上時の金額:保有目的別に分類して期末評価額を決める
①売買目的
・時価評価して評価損益(営業外損益)をPL計上
・BS上は有価証券(流動資産)
②支配目的(影響力行使目的)
・取得原価のまま(固定資産と同じで売る気がないため)
・BS上は関係会社株式(投資その他の資産)
③満期保有目的(債券のみ)
・償却原価に修正して有価証券利息(営業外損益)としてPL計上(長期貸付金と同様の性質であるため)
・BS上は投資有価証券(投資その他の資産)
④その他
・全部純資産直入法(原則):時価があれば時価評価して「その他有価証券評価差額金」としてBS純資産に計上(売買目的ではないためPLには計上せず、あくまでも期末に参考価格を開示するための処理なので翌期首には原価に戻す仕訳を切る)
・部分純資産直入法(例外):評価損が予想されるならPLにも計上しておく、評価益は予想なら計上しない(保守主義)
・BS上は投資有価証券(投資その他の資産)
※税法上は時価評価が認められていないため、時価評価額との差額は将来一時差異となる(税効果会計が適用される)

減損処理
・売買目的有価証券には適用しない(毎期時価評価するので)
・以下のような場合、通常は時価評価しない有価証券でも、時価評価して評価損(特別損失)を計上しなければならない
 ・時価の著しい下落(50%以上)かつ回復見込みがない(合理的根拠あり)場合
・減損処理後は、処理後簿価が「取得原価」となる

債務保証管理

債務保証

・他人の債務について、万が一の場合に自分が代わりに返済することを約束すること
・債務保証した時点から、偶発債務(↔︎確定債務)を負う

内部統制
・偶発事象の洗い出し(偶発事象を特定するためのルールぎめ)
・経理部門や保証実行部門へ速やかに情報連携される仕組みづくり

・当社が他者(保証協会など)に債務保証してもらう場合は、契約内容に基づく保証料の支払いが必要になる
・ただし、保証契約書に基づき当社が支払う「保証料」の勘定科目は支払利息になる(資金調達コストとして考えられるため)

保証類似行為

債務保証に類似するが異なる行為

保証予約
何らかの自由が将来発生した場合に保証人になることを約束すること
・停止条件付保証予約
・予約完結権行使型保証予約

経営指導念書の差し入れ
債務のある子会社に対して、その親会社が経営指導(債務返済できるように)を行うことを銀行と約束して文書化して渡すこと

会計処理

①保証人になる
②期末時点で、代理弁済しなければならない可能性を判定する
・代理弁済の可能性は低い:偶発債務をFS注記に記載して開示
・代理弁済の可能性が高い:引当金(債務保証損失引当金)を計上し、債務額から引当金相当額を控除した残額をFS注記に記載して開示
 ※投資家は、FSと注記を併せて見ることで債務総額が把握できる

 債務保証損失金繰入額 / 債務保証損失引当金
 (営業外費用or特別損失) (流動負債or固定負債)

③代理弁済の要求を受けた時
 ・支払うべき金額が確定債務になるため、未払金の計上
 ・「求償権(当社で立て替えた代理弁済分を後で回収する権利)」を貸付金として計上する
 貸付金 / 未払金

連帯保証

通常の債務保証より重たい保証:連帯保証人になると以下の権利を失う
・「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」:そもそもの債務者から優先的に取り立ててもらえなくなる
・「分配の利益」:連帯保証人が複数いる場合でも、自身が債務全額を支払う必要がでてくる

保証の実行

グループ会社への保証に関する注意点
・連結範囲への影響:保証額の大きさが「実質的な支配」に該当する場合、連結範囲に含まれることになる
・保証可否判定基準:グループ外会社と同様の水準で財務内容をチェックする必要あり(身内だからといって保証額を過大にしないように)

台帳管理
・当社が保証人になっている全ての保証先の案件ごとに受け取る保証料を計上し、債務履行状況を確認し続ける
・保証先の財政状態を定期的にモニタリングして、引当金の計上要否を検討する

貸付金管理

貸付に伴う事前準備

あらかじめ社内で規定した融資判定基準や信用調査会社(帝国データバンクと東京商工リサーチの寡占)データに基づき、貸付(ローン、融資)の可否を決定する

分析指標
・安全性:確実に返済されるのか?
・収益性:特に又貸しする場合、自社の資金調達コストを上回る利益(大きな利息、早い回収期限)があるのか?
・保全性:保証人や保証金、担保や相殺可能債務があるか

貸付にあたって決めること
・貸付額
・貸付利率
・返済額
・返済スケジュール、返済期限
・返済方法
・担保の有無
・遅延損害金

利息の受取

・契約に定めがある場合:契約に従う
・契約に定めがない場合:元本返済時に利息をまとめて支払うのが原則(毎月利息を払うのは原則ではないことに注意)

利率(通常の利息)や遅延損害金(返済遅延時の利息)の上限額は、利息制限法により規制されている

契約書面

貸付に伴って作成する契約書:以下のいずれか
・借用書:1部作成して貸主が保管
・金銭消費貸借契約書:2部作成して双方が保管

グループ間融資

グループ会社に対して融資する場合、通常の融資判断に加えて、貸付残高によっては「実質的な支配」に該当する(連結範囲に含まれる)可能性を考慮する

・コントロール:融資の実行前に、融資管理台帳と融資先(関連会社)の借入金残高を突合し、実質的な支配(連結範囲に含まれる)に該当していないかチェックする

回収と管理

・返済期日が近づいてきたら、返済請求書(元本&利息)を発行する
・返済期日になったら、入金確認を行う

回収遅延時の処理
・まずは回収業務の手違いを疑う
・次に貸付先との取引状況を確認
・最終的には貸付先に問い合わせ
・営業部門などに報告

融資管理台帳:貸付金に関する全ての情報を一元管理するため(契約書や帳簿とは別に作成する)
・元本の増減
・利息の回収状況
・返済スケジュール
・返済方法
・利率
※期末には帳簿(貸付金勘定)と照合して、未収利息/前受利息を計上する

借入金管理

借入前の準備

①借入銀行の選定
②借入申込書(添付書類)の提出
③面談:交渉(借入可能期間、借入額、借入利率、担保・保証人の要否)
④借入

添付書類
・会社の存在証明:登記簿謄本、印鑑証明、定款書、許認可証書
・人員構成:役員名簿、株主名簿
・経済状況:過去3年分の決算書
・その他:担保や保証人の情報

借入金(銀行から借りる)は相対取引であり、社債発行(市場から借りる)とは異なるため、「管理者」の設定は不要

借入金の種類

使用目的別分類
・短期借入金:借入期間が1年以内(一瞬の穴埋めしかできない)
・長期借入金(通常は証書借入):当分は返済しなくてよいので設備投資用に使える

表示科目:決算時に分類し直す必要あり
・流動負債:1年以内に返済するもの
・固定負債:その他
※「財務諸表等規則」(上場会社に適用)では、役員や従業員からの借入金は別勘定で開示する必要あり(5%基準)

借入金として表示しなければならないもの(実質的には借入取引とみなされる)
・当座借越
・手形借入:手形振出を利用した借入(借用書の代わりに約束手形を渡す)
 「現金/支払手形」ではなく「現金/手形借入金」として仕訳する

金利

適用金利の種類
・プライムレート:最優遇金利=支払額が最小となる金利
 ・短期:市場金利+銀行でかかる経費
 ・長期:長期国債利回りの変動に連動
・LIBOR:ロンドン市場で金融機関が資金調達する際にかかる金利レート(貸出側から提示される)、国際的な基準、日時で開示される
・TIBOR:東京市場で金融機関が資金調達する際にかかる金利レート(貸出側から提示される)

日割計算のための考え方

借入日数
・両端入れ:4/1-15の場合、15日間
・片端入れ:4/1-15の場合、14日間

年利からの換算
・日本市場:借入日数/365日
・LIBOR:借入日数/360日

借入台帳管理

管理項目:借入先別に、以下を一元管理
・借入日
・借入期間
・当初借入額
・現在借入残高
・利率
・返済期日
・返済方法

管理手続
・変更のたびに追記
・定期的に帳簿残高(借入金)と照合
・返済計画書(貸出側が作成)と照合
・資金繰表と整合させる

返済実行

①請求書を受領
②返済計画書と照合
③支払依頼書の作成
④支払実行

残高確認

・銀行からの借入:期末に残高証明書を発行してもらって自社で照合する
・銀行以外からの借入:期末に残高確認書を送付して先方に確認を依頼する

発行社債管理

社債発行は資金調達手段のひとつではあるが、稀にしか行わないため、簿記では1級レベルの知識
・償還(返済)
・社債利息(支払利息)

社債

・銀行からではなく投資家からの資金調達
・長期借入
・増資(株式発行)ではない
・間接発行(証券会社が代行)/直接発行がある
・投資家にとっては株式よりもリスクが低い(株式には返済がない)

会社法により以下が規定されている
・社債発行時には取締役会の決議が必要
 ・発行総額上限
 ・利率
 ・発行価額
 ・期限
 ・償還方法
・社債原簿(管理台帳)を作成して本店に備えおく
社債管理者の設置

社債管理者

・会社法は、発行会社に、「債権保全業務の外部委託」を義務付けている
・設置義務の対象は、公募債(一般投資家向け)のうち無担保社債(少人数私募債などに対しては設置不要)
・社債購入者(一般投資家)の権利保護が目的
・社債管理者になれるのは、銀行・信託銀行・信用金庫など(証券会社はなれない)

・社債管理者の義務:公平誠実義務、善管注意義務

社債発行受託会社

・通常は証券会社など
・社債券の発行事務(契約書や社債原簿の作成など)、社債の権利の管理事務(担保権の査定、担保権の設定など)を行う会社

発行と償還

発行(借入)
・平価発行(Par):10,000で発行し、N年後に10,000で償還する
・打部発行(Premium):
・割引発行(Discount):9,900で発行し、N年後に10,000で償還する
 ・社債発行体は、今9,900を調達できる代わりに、N年後に10,000を購入者に返済する
 ・社債購入者は、N年待てば差額100を社債利息として発行体から受け取れる

償還(返済)
・一括償還:期間満了時にまとめて返済
・分割償還(期中償還、定時償還):期間中に段階的に返済
・繰上償還(任意償還):約定よりも早く返済する(社債購入者にとってメリットが生じるようにプレミアムを上乗せして返済を行う)

社債の種類と格付け

引受者による区分
・公募債:不特定多数に対して募集する
・私募債:特定者に対して募集する(譲渡制限はあるが、有価証券届出書などの提出・決算などの開示が不要なため、発行体にとって使い勝手がいい)
 ・プロ私募債:機関投資家向け
 ・少人数私募債:50名未満の縁故者向け

担保有無による区分
・無担保社債:現在の主流
・担保付社債
 ・一般担保付社債:発行会社の全財産が担保になっている
 ・物上担保付社債:発行会社の特定物的財産(土地、工場など)が担保になっている
・保証付社債:銀行などの第三者による元金利息の支払い保証が付いている

格付
・発行会社の債務支払能力(信用力)を、格付機関が評価し、投資家に情報提供するもの
・社債発行時に開示資料(有価証券届出書・目論見書)への記載が必要(格付がない場合はその旨の注記が必要)
※目論見書(投資家に交付)と有価証券届出書(金融庁に提出)の内容はほとんど同じ。目論見書は、有価証券届出書から「第三部 特別情報」を取り除いたもの。

指定格付機関
・S&P(スタンダード&プアーズ)
・ムーディーズ
・格付投資情報センター(R&I)
・日本格付研究所(JCR)
など

格付の種類
・発行体格付:債務全体(社債以外も含む)に対する格付
・個別債務格付:発行された社債のみに対する格付

社債発行費

社債発行にかかるコスト全般
・原則:発生期に全額を費用処理する
・容認:繰延資産として計上し、償還期間に亘って償却する
 ※償却する場合の計算方法
  ・原則:利息法(資金調達にかかるコストとして考えるため)
  ・簡便法:継続適用する場合に限って定額法も可能(利息法は計算が複雑なため)

償却原価法(Amortized Cost Method)

・利息法(IFRSにおける実効金利法に対応)
・定額法(IFRSでは禁止)

以下の2つの側面がある
①PL側:取得価額(借入金額)と償還価額(返済金額)との差額を、取得時または償還時に一括して計上するのではなく、期間に配分して計上する(未収利息)
②BS側:満期保有債券について、簿価を取得原価から償還価額に近づくように、毎期末修正していく(修正後の価額を「償却原価」と呼ぶ)

定額法の場合
①発行時: 現預金900/社債900 ※長期借入金と同じ性質
②1期末: 社債利息25/社債25
③2期末: 社債利息25/社債25
④3期末: 社債利息25/社債25
⑤4期末: 社債利息25/社債25
⑥償還時: 社債1000/現預金1000


デリバティブ取引管理

デリバティブ

・一般的な金融商品:株式、公社債、投資信託、外国為替
・金融派性商品(デリバティブ):現物(一般的な金融商品)の取引に上乗せされた約束事の部分(予約の一種)

デリバティブ取引の特徴
・差金決済:実際には現物(元本)の売買は行わず、将来的に売買損益のみをやりとりする
・想定元本:デリバティブ取引において、決済金額などの算出に利用するために定める金額(実際には交換されない)
 ・例えば、金利スワップでは金利を計算するために使う

デリバティブの種類
・先渡取引(Forward Contract):相対取引しかできない、現物決済、為替予約など
・先物取引(Future Contract):市場取引できる、差金決済(なので証拠金が必要)
・スワップ取引
・オプション取引

スワップ取引

キャッシュフローを交換する相対取引
・取引時点では等価交換だが、将来的には等価ではなくなっていくので損益が発生する
・取引に市場は不要

スワップ取引の種類
・金利スワップ:固定金利と変動金利の交換
・通貨スワップ
など

オプション取引

特定商品を決まった価格で売買する権利を売買する取引所取引
・取引市場がある(相対取引ではない)
・権利の種類:
 ・プットオプション:売る権利
 ・コールオプション:買う権利(呼んで買う)
・権利行使するかは所有者の自由(損になる場合は権利放棄してもOK)
・権利行使可能なタイミング
 ・ヨーロピアンタイプ:満期日のみ権利行使可能
 ・アメリカンタイプ:契約期間中はいつでも権利行使可能(より自由度が高い)

先物取引

特定商品を決まった価格で売買する約束を行う取引所取引
・取引所:証券取引所、商品取引所、など
・状態(まだ反対売買を行っていない状態)の種類
 ・ショートポジション:売り持ち(売建=空売りを行って、まだ買い戻しをしていない状態)
 ・ロングポジション:買い持ち(買建を行って、まだ売却していない=値上がりを待っている状態)

会計処理
例:
・2/15に、4/30に国債を110円で売ることを予約
・3/31の時価は105円とする
・4/30の時価は90円とする

○予約日(契約締結日):
 仕訳なし
○期末日:時価評価が必要 ※仮にこの時点で決済すれば5円儲かることになるため
 先物取引差金5 / 先物利益5
○翌期首:洗替(逆仕訳)→収益を正しく期間配分(当期5、翌期15)するため
 先物利益5 / 先物取引差金5
○決済日(反対売買の実行日) ※実際にはこの時点で90円で買って110円で売るので20円入金される、収益は期首の洗替仕訳と相殺されて先物利益15円になる
 現金預金20 / 先物利益20

取引の管理

・取引先は、デリバティブ取引方針を定めて、過去実績/財務データ/格付けデータなどに基づき選定する
・取引開始後は、ポジション台帳により、契約日/数量/金額/期日などのデータを管理する
・取引先から定期的に送付される残高証明書をポジション台帳と照合するコントロールを行う

デリバティブ取引の認識
・約定日基準(契約締結日に資産売買を認識する基準):有価証券と同じ扱い(金融資産であるため)
・現物受渡日や、代金決済日ではないので注意
 ※例えば、株式売買では、約定日の3営業日後(T+2)が株券の受渡日=現金決済日となるが、売買は約定日を以って認識することになっている

デリバティブ取引の期末評価(「金融基準」)
・期末に時価評価する:売買目的有価証券と同じ扱い
・正味の債権債務金額をBS計上し、評価差額をPL計上

デリバティブによるリスクヘッジ

デリバティブを使えば、価格変動リスクを回避できる
デリバティブをリスク回避目的(投機目的ではなく)で使った場合の会計処理が定められている

ヘッジ取引の種類(何をヘッジするか)
・CFヘッジ:将来のCFを固定化する(まだBSには計上されていない)
 例:金利スワップを行うことにより、金利変動リスクを回避
・FVヘッジ(公正価値ヘッジ):既にBS計上された資産負債の相場変動による損益(変動額)を相殺する

ヘッジ会計

独立処理(原則)
・ヘッジ対象(現物)とヘッジ手段(デリバティブ取引)を独立に処理する

ヘッジ会計処理(例外)
・リスク回避目的でデリバティブ取引を行っており、かつ一定要件を満たしている場合、「ヘッジ会計処理」を適用することができる
 ・企業のリスク管理方針(規程が文書化され、内部統制組織が存在していること)が整備運用されていること
 ・リスク回避効果が有効性あり(相関関係が高い)と判定されること
・ヘッジ対象(現物)とヘッジ手段(デリバティブ取引)をまとめて、どちらかの損益認識期間に揃えて処理する
 ・繰延ヘッジ(原則):ヘッジ手段をヘッジ対象に合わせる(デリバティブの損益認識を繰り延べる)
  例:デリバティブの時価評価(毎期末)をせず、現物の売却時にまとめて計上する
 ・時価ヘッジ(例外):ヘッジ対象をヘッジ手段に合わせる(現物の損益認識を時価で行う)
  例:現物もデリバティブと一緒に時価評価(毎期末)する
  ※現物が「その他の有価証券」の場合のみ適用可能

有効性の判断指標:ヘッジ手段によるヘッジ対象の相殺度合が80~125%にあること(「金融商品会計に関する実務指針」)
・決済日には必ずヘッジ有効性の評価を行う
・少なくとも6ヶ月に1回程度は継続して有効性評価を行う

例:現物国債の売却損が△80、先物国債の売建取引利益が+100の場合、相殺度合は100/80=125%と測定できるため、ヘッジ対象とヘッジ手段の相関関係は高い=ヘッジ有効性あり、と判定できる

外貨建取引管理

外貨建取引

「為替取引方針」に従って実施される
・円ではなく外国通貨で行われる以下の取引

物品の売買
役務の提供
資金の借入/貸付
社債の発行
前渡金(前払金)/仮払金の支払い: ※金額と内容が不確定な場合は「仮払金」
前受金・借入金の受け入れ
デリバティブ取引

為替相場

外貨を円貨に変換するための換算率
・直物為替相場(SR、スポットレート):当日に交換する場合に使う
・先物為替相場(FR、フォワードレート):将来時点に交換する場合に使う

会計処理

○取引発生時:商品を1ドルで掛け売り、SRは1ドル=100円
売掛金100/売上100

○期末決算時
売掛金10/為替差益10

○代金決済時:SRは1ドル=115円
現金預金115/売掛金110、為替差益5

為替差損益は、最終的に相殺し、その純額のみを「PL営業外収益費用」に表示

期末換算に使うレート

①貨幣性資産/負債:決算時レート(CR、カレントレート)
・貨幣性資産:受取手形、売掛金、未収金、未収収益、貸付金、現金預金、など
・貨幣性負債:支払手形、買掛金、未払金、未払費用、借入金、など
②非貨幣性資産/負債:取得時レート(HR、ヒストリカルレート)
・非貨幣性資産:前払金、前払費用、棚卸資産、有形固定資産、など
・非貨幣性負債:前受金、前受収益、など
③有価証券:基本はCR
・取得時: 取得原価×HR
・決算時:保有目的別の外貨価額×レート
 ・売買目的: 時価×CR、PL有価証券評価損益に参入
 ・満期保有: 原価×CR または 償却原価×CR、PL為替差損益に参入
 ・子関連株式: 原価×HR ※取得価額のまま据え置きたい(評価損益を一切認識したくない)ため
 ・その他(時価あり): 時価×CR、BS評価差額金に計上
 ・その他(時価なし): 原価×CR 、BS評価差額金に計上
 ・減損処理: 時価×CR、PL関係会社株式評価損など

※有価証券の期末評価額を厳密に計算しようとすると、
10ドル×@100=1000

8ドル×@110=880
の場合、この差額△120は、
・2ドル×@100=△200:有価証券の評価損
・8ドル×@10=80:為替差益
の総和である。しかし、仕訳するときには区別しない。
・売買目的の場合は、両方を「PL有価証券評価損益」として扱う
・その他有価の場合は、両方を「BS評価差額金」として扱う

為替予約

・決済時レートを予め決めておく(先物レート)
・デリバティブである先渡取引(銀行との相対取引)の一種
・為替相場の変動リスクを回避するために使える

先物レート(予約レート)
・予約日のレートに、決済日(支払日)までの金利を考慮して予測されるレート
・予約日が変われば予約レートの算定値も異なっていく(予約日と決済日が同じ場合、先物レートは直物レートを等しくなる)

為替予約の手続
・当社が先物レート(FR)で決済できるか、信頼されている必要あり
 ・事前に企業から包括約定書を提出する必要あり

期末時の会計処理
・原則は独立処理
・一定要件を満たせば、振当処理(処理が簡便になる)を適用できる
 ・ヘッジ会計の要件を満たし、かつ将来CFが固定されるもの
 
・例
  ・外貨建て金銭債権債務(借入金、貸付金など):振当処理は適用可能
  ・外貨建て満期保有目的債権:振当処理は適用可能、償還日が決まっており将来CFが固定できるため
  ・外貨建てその他有価証券(売買目的など):振当処理は適用不可、売却時期が未確定なので将来CFが固定できないため

為替ポジション

外国為替の持高(純額)のこと

外貨預金取引

外国通貨による預金:両替手続(為替売買)が必要になるため、為替手数料が発生する
・外貨による預け入れ
・円貨による払い出し

預け入れ/払い出し/預金利息受取した場合、換算して帳簿記入が必要
決算日には決算時レートで換算して帳簿記入が必要
換算差額は「為替差損益」として取り扱う

外貨預金は、外貨支払いの手段としても使える

レートの種類

資産負債の評価レートには以下を採用できる(継続適用要件あり)
・資産:TTB(電信買相場buy、銀行は何ドルでドル資産を買ってくれるか)
・負債:TTS(電信売相場sale、銀行から何ドル買えばドル負債を支払えるか)
※TTM(中値middle):TTM=1ドル90円の時、TTBは89円/TTSは91円

法人税法上では、原則的にTTMを利用する

資金管理

長期資金調達の方法

増資
・株式発行による
・返済義務なし(調達資金は自己資本となる)

長期借入・社債発行
・約定または社債権発行による
・返済義務あり(調達資金は負債となる)

営業利益の類似概念

EBIT(利息控除前当期純利益)=営業利益+利息以外の営業外損益+特別損益
・IFRSにおける営業利益に相当(各国の金融政策の違いによる影響を排除できるため)
・借入金の支払利息の影響を排除できるため、ベンチャー企業で用いられる

EBITDA=EBIT+減価償却費
・減価償却費(会計基準により差異がある)の影響を排除できるため

NOPAT(税引後営業利益)=営業利益×(1- 実効税率)

投資効果分析の方法

DCF法(現在価値法)
・「将来CFの現在価値」と「初期投資額」を比較して投資可否判断を行う
・CFにはフリーキャッシュフロー(使途制限がない資金)を使う

フリーキャッシュフローの算定法:以下のいずれか(同じ金額になるわけではない)
・CFベース:営業CF−投資CF
・PLベース:税引後営業利益(NOPAT)−増加運転資本+減価償却費−設備投資額

回収期間法
・投資金額が何年で回収できるかで投資可否判断を行う

投下資本利益率法(ROI法)
・利益/(投下総額)で投資可否判断を行う

設備投資と減価償却

・減価償却の自己金融効果:減価償却はCash支出を伴わない費用計上であるため、資金確保の手段となる

資金の分類

固定資金
・短期的に流動化されない資金

流動資金(=運転資金)
・日々の営業活動に使う資金
・正味運転資金:1年以内に発生が見込まれる資金収支残高

資金繰表

・資金繰り:入出金管理
・内部資料であり、開示は不要

資金運用表
・BSから作成する:前期BSから当期BSへの推移(どのように調達し、どのように運用したのかを分析するため)
・流動/固定に分類

・資金の源泉(調達):資本・負債が増加すれば、キャッシュも増加する
・資金の使途(運用):資産が増加すれば、キャッシュは減少する

資金移動表
・PLから作成する
・経常/経常外に分類

キャッシュフロー計算書

・上場企業における財務諸表のひとつであり、開示が必要
・CS上の「現金(現金および現金同等物)」の範囲は、BS上の「現金」とは異なる

利息と配当の表示区分
以下の2パターンがある
○第1法(PLに計上されるか否かで分類):実務では一般的
・PLに計上されるもの(受取配当金、受取利息、支払利息)→営業CF
・PLに計上されないもの(支払配当金)→財務CF
○第2法(取引属性による分類)
・受け取るもの(受取配当金、受取利息)→投資CF
・支払うもの(支払配当金、支払利息)→財務CF

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