【読了】監査のための統計サンプリング入門

の続き

サンプリングについて理解できていないと得られた結果の信頼性を定量的に議論できない

第1編 サンプリングの基礎

Q1. 監査におけるサンプリングの位置づけ

監査証拠の入手方法
項目の抽出を伴わない方法:業務プロセスの概要を理解するため
 ・分析的手続
 ・質問
項目の抽出を伴う方法:取引の詳細を検証するため
 ・精査:母集団の全件を抽出してテスト対象とする
 ・試査:母集団の一部を抽出してテスト対象とする
  ・特定項目抽出による試査:母集団推定を目的としない、異常データの検知(内部監査など)
  ・サンプリングによる試査:母集団推定を目的とする、内部統制の評価
   ・非統計的サンプリング(判断サンプリング):確率論に基づかない(確率論以外の理屈に基づく)
    ・ハップハザードサンプリング
    ・ブロックサンプリング
   ・統計的サンプリング:確率論に基づく
    ・ランダムサンプリング:狭義の「統計的サンプリング」
    ・階層化サンプリング

統計的サンプリングの定義
以下の2要件を共に満たすサンプリング手法
・無作為抽出法によりサンプルを抽出する
・確率論に基づき母集団に関する結論を導く

母集団推定(サンプリングによる試査)のステップ:統計的/非統計的に共通
①母集団の特定
②サンプル数の決定
③サンプルの抽出
④抽出されたサンプルに対するテスト:標本逸脱率の算出
⑤母集団全体の特性の推定(仮説検定):許容逸脱率との比較

統計的サンプリングのステップ
①(非統計的サンプリングと同様)
②以下のパラメータを定義して、サンプル数と棄却域を算出する
・許容逸脱率:5%
・予想逸脱率:1%
・信頼度:90%

・サンプル数:78件
・棄却域:1件以下
③ (非統計的サンプリングと同様)
④ (非統計的サンプリングと同様)
⑤帰無仮説を棄却できるか判断する(逸脱が1件なら棄却可能、2件以上なら棄却不可能)

Q2. サンプリングリスクとは

・非サンプリングリスク:監査人の判断ミスが原因となり、監査人の結論が誤るリスク(サンプリングしなくても不可避的に発生)
・サンプリングリスク:抽出した標本が母集団を代表しないことが原因となり、監査人の結論が誤るリスク(サンプリングすることにより不可避的に発生)

 ・属性サンプリングの場合:帰無仮説「内部統制は有効である」
  ・統制リスクを過大評価するリスク:サンプルに基づいて、実際よりも統制リスクを高く評価してしまう(統制に依拠しなさすぎる)というリスク。つまり、監査の効率性が下がる。
  ・統制リスクを過小評価するリスク:サンプルに基づいて、実際よりも統制リスクを低く評価してしまう(統制に依拠しすぎる)というリスク。つまり、監査の有効性が下がる。

 ・変数サンプリングの場合:帰無仮説「虚偽表示金額はゼロである」
  ・過誤棄却のリスク(αリスク):実際には虚偽表示がゼロであるにもかかわらず、帰無仮説を誤って棄却(inocrrect rejection)し、「虚偽表示が含まれている(対立仮説)」をサンプルが支持してしまうリスク。つまり、監査の効率性が下がる。
  ・過誤採択のリスク(βリスク):実際には虚偽表示がゼロではないにもかかわらず、帰無仮説を誤って採択(incorrect acceptance)してしまうリスク。虚偽表示が含まれていないと結論づけた場合、追加的手続は実施されないため、虚偽表示は修正されないことになる。つまり、監査の有効性が下がる。

Q3. サンプリングの種類

・属性サンプリング:母集団における逸脱率に関する仮説検定を行うため、項目の成否(有効か/無効か)に着目
・変数サンプリング:母集団における虚偽表示金額に関する仮設検定を行うため、項目の金額に着目

Q4. 統計的サンプリングとは

Q5. 統計的サンプリングの基礎用語

・許容逸脱率
・予想逸脱率:過去実績値や予備調査結果を参照して決定
・対立仮説
 ・属性サンプリングの場合:「逸脱率はゼロである(内部統制は有効)」
 ・変数サンプリングの場合:「虚偽表示金額はゼロである(虚偽表示なし)」
・過誤棄却リスク(偽陽性FPを起こすリスク):危険率α、信頼度1-α
・過誤採択リスク(偽陰性FNを起こすリスク):検出力1-β

Q6. 監査業務の流れとサンプリングの位置づけ

①監査契約の締結
②監査計画の立案
・基本方針を決める
 ・内部統制を利用(依拠)できる程度
 ・監査手続の実施時期
 ・必要な監査資源
・統制テストの計画を決める
・実証性テストの計画を決める
 ・個々の取引記録
 ・個々の財務諸表項目
・監査手続を決める:監査手続に統計的サンプリングを含めることにより、母集団を精査する負担をかけることなく、証明力の高い監査証拠を取得できる
③統制テストの実施
・統制リスクが低い場合、実証性テストを減らせる
④実証性テストの実施
・サンプリング手続の結果はあくまでも評価根拠(監査証拠)のひとつであり、他の手続の結果も合わせて評価を行う
⑤意見形成と報告
・財務諸表全体に重大な虚偽表示がないか意見を出す

Q7. 統計的サンプリングと内部統制

内部統制監査において、統計的サンプリングの適用は強制されているわけではなく、監査人の判断により、統計的サンプリングと非統計的サンプリングを選択できる

Q8. サンプリングと不正誤謬の摘発

財務諸表監査の目的は、個々の不正や誤謬の発見ではなく、財務諸表全体に「重要な虚偽表示がない」という合理的保証を得ること

内部監査では、個々の不正や誤謬の発見や洗い出しを目的として実施される場合がある

第2編 属性サンプリング

Q9. 仮説検定とは

①帰無仮説を立てる
②標本を抽出する
③p値を算出する
④p値と有意水準αを比較して、帰無仮説を棄却できるかどうか判断する

Q10. 内部統制評価のための仮説検定

仮説検定に必要な情報
・対象となる内部統制の記述
・逸脱の定義
・母集団:期間や件数
・許容逸脱率
・予想逸脱率

Q11. 仮説検定と統計的サンプリング

Q12. 仮説の設定における注意点

・帰無仮説が棄却できた場合、対立仮説は採択できる
・帰無仮説が棄却できなかった場合、帰無仮説と対立仮説のどちらが正しいかは判定できない

母逸脱率5%のもとで78件のサンプル中に含まれる逸脱件数Xの確率分布(ポアソン分布における計算結果)
・X≦1となる確率:10%以下
・1<X<8となる確率:80%程度
・8≦Xとなる確率:10%以下
つまり、信頼度90%(100%-10%)の元で、
・X=1の場合、帰無仮説「母逸脱率は5%に等しい」を棄却して、対立仮説「母逸脱率は5%よりも小さい」を採択できる
・X=2〜7の場合、帰無仮説「母逸脱率は5%に等しい」を棄却できないし、対立仮説「母逸脱率は5%よりも小さい」も採択できない
・X=8の場合、帰無仮説「母逸脱率は5%に等しい」を棄却して、対立仮説「母逸脱率は5%よりも大きい」を採択できる

Q13. 2つのサンプリングリスク

仮説検定は100%正しい結論を導けず、過誤が生じるリスク(サンプリングリスク)がある
精査すれば、サンプリングリスクはゼロにできる

・棄却域上限:検出された逸脱件数が何件以下であれば帰無仮説を棄却できるか

第1種エラーが起きる確率
・危険率α(=1ー信頼度)
・統制リスクを過小評価してしまう確率(監査の有効性に関わる)
・サンプル数および棄却域上限を変えることにより、操作できる
・サンプル数および棄却域上限を決定する際には、監査人があらかじめ要求する「要求信頼度」よりも、サンプリングによる「達成信頼度」が高くなるようにしなければならない(信頼度条件

第2種エラーが起きる確率
・β(=1ー検出力):母逸脱率が高いほど検出力は低くなる(検出力曲線
・特に、母逸脱率が予想逸脱率であると仮定した場合の検出力を、予想検出力と呼ぶ
・統制リスクを過大評価してしまう確率(追加的な手続が必要になるため、監査の効率性に関わる)
・サンプル数および棄却域上限を変えることにより、操作できる

・監査人がサンプル数および棄却域上限のペアを決定するにあたっては、まず有効性を重視(要求信頼度の決定)し、次に効率性を重視(反復計算法または期待件数法)すべき。いくら効率的でも有効性が乏しいと監査の意味がないため。

Q14. 第1種のサンプリングリスク

Q15. 第2種のサンプリングリスク

Q16. 要求信頼度の設定

適用できる監査手続がサンプリングのみである場合、要求信頼度αは高くするべき

Q17. 予想逸脱率・予想誤謬金額の決定

以下の場合、予想逸脱率および予想虚偽表示金額は高くするべき
・監査人の業務理解度が不十分である場合(そもそも予想の精度が低いので保守的に高めておく)
・内部統制が弱い場合(過年度評価や予備調査で逸脱が多い場合)
・業務担当者の経験が浅い場合
・業務に恣意性が介入しやすい場合

許容誤謬金額についての補足

監査上の重要性の基準値(PM):20,000円
・この金額以下の虚偽表示なら、そのまま修正されなくても許容する
・監査業界では一般的に、税引前当期純利益の5%相当

手続上の重要性の金額(TE):10,000円
・試算表上の勘定科目の金額が、この金額以下である場合、その勘定科目の担当者はそもそも見ない
・勘定科目により決まる
・監査業界では一般的に、PMの50%〜75%相当

パス基準金額:1,000円
・勘定科目の内訳明細のうち、この金額以下である場合、誤謬に気付いたとしても集計しない
・監査業界では一般的に、PMの5%相当

許容逸脱率についての補足
・あるコントロールからの逸脱は、必ずしも全てが虚偽記載になるわけではない(リスクに対してコントロールは複数かかっているため)
・許容誤謬金額<勘定科目金額×許容逸脱率

Q18. サンプル数算定の概要

○サンプル数算定に必要な3条件
信頼度条件(α条件):要求信頼度≦達成信頼度
検出力条件(β条件):必要検出力≦予想検出力
最適化条件:できる限り少ないサンプル数であること

○サンプル数算定のために必要な数値
・母集団サイズ:母集団サイズが十分に大きい場合、サンプル数に与える影響は少ないとみなせる
・信頼度条件に関わる値:要求信頼度C_R、許容逸脱率q0
・検出力条件に関わる値:必要検出力、予想逸脱率

○サンプル数算定法の種類
・反復計算法:昔は計算に時間がかかり実行しにくかったため、AICPA”Audit Sampling”などの表を参照していた
 ・検出力条件を考慮しない場合(要求信頼度& 許容逸脱率・棄却域上限件数から、サンプル数を計算)
  ※棄却域上限件数が0である時、達成信頼度は最大(αリスクは最小)になる
 ・検出力条件を考慮する場合(要求信頼度&許容逸脱率・必要検出力&予想逸脱率から、サンプル数&棄却域上限件数を計算)
・期待件数法(要求信頼度&許容逸脱率・予想逸脱率から、サンプル数&棄却域上限件数を計算)
 ※確率分布にかかる計算が不要なため簡単
 ※実務的には必要検出力を合理的に決定することが難しい場合もある
 ※監査上、αリスクの方がβリスクよりも重視されている
 ※ AICPA”Audit Sampling”の値と近似している

Q19-21. サンプル数算定

○標準的な反復計算法のステップ
①初期値の設定
・十分に小さいサンプル数および棄却域上限件数を初期値として設定
達成信頼度予想検出力の計算
③信頼度条件(α条件)のチェック:条件を満たせない場合、①で数を増やす
④検出力条件(β条件)のチェック:条件を満たせない場合、②で数を増やす
⑤反復計算法の終了

○期待件数法のステップ
・予想標本逸脱件数の期待値を「予想逸脱率×サンプル数」だと考える
・棄却域上限件数が、「予測標本逸脱件数の期待値」以上になるようにする

Q22. サンプリングリスクの総量と配分

○2つのサンプリングリスクの総量はサンプル数により決まる
許容逸脱率/予測逸脱率が一定の場合でも、サンプル数を大きくすれば(母集団から得る情報量を増やせば)、2つのサンプリングリスクの両方を小さくすることができる(帰無仮説のもとでの確率分布と、対立仮説のもとでの確率分布が”離れる”ため)
サンプル数を最大にすると(母集団全件を精査すると)、2つのサンプリングリスクは共にゼロになる

○2つのサンプリングリスクの配分は棄却域上限により決まる
許容逸脱率/予測逸脱率/サンプル数が一定の場合、棄却域上限を小さくすると
・αは小さくなる=達成信頼度は大きくなる
・予想βは大きくなる=予想検出力は小さくなる


Q23. 基礎数値とサンプル数の関係

属性サンプリングにおけるサンプル数は、以下の数値(5基礎数値)が与えられれば決定できる
①許容逸脱率:監査人が許容できる母逸脱率
②予想逸脱率:監査人が予想する母逸脱率
③要求信頼度:監査人がサンプリングに要求する信頼度
④必要検出力:監査人がサンプリングに要求する検出力(期待件数法を使う場合は不要)
⑤母集団サイズ

Q24. 母集団の定義(内部統制評価の場合)

母集団を特定する際の留意点
①立証したいアサーション(網羅性/実在性)
②母集団の完全性
③母集団の階層化

②母集団の完全性
・サンプリングの前に母集団の完全性を確認する(連番チェック、件数チェック)。
・例えば注文書を母集団に選ぶとして、注文書の整理方法によっては、抜け漏れがないかの確認が困難な場合がある。例えば、受注番号の連番順に保存されてない場合、システムとマニュアルが併用されている場合。

Q25. エラーの定義(内部統制評価の場合)

・「統制が有効でない」とは、統制記述から逸脱していることではなく、統制目的が達成されないこと。統制目的に留意しないと、統制記述からの些末なズレでエラー扱いにするという形式的な判断に陥ってしまう。

例えば、
統制記述「標準販売単価以外の価格を適用する場合には、個々の受注について営業部長が個別に事前承認を行い、注文請書に承認印を押す」
に対して、
監査手続「標準販売単価以外の価格が適用された受注に係る注文請書からN件をサンプルとして抽出し、営業部長の承認印があることを検証する」
を実施し、
・発見事項A「N件の注文請書には、営業部長の承認印が捺印されていなかった」
・発見事項B「N件の注文請書には、所定の場所ではないところに承認印が捺印されていた」
・発見事項C「N件の注文請書には、営業部長の承認印が捺印されていなかったが、稟議書が作成されていた」
・発見事項D「N件の注文請書には、営業部長の承認が事後承認となっていた」
が得られた場合を考える。

もし、
統制目的「販売単価が、会社の方針に基づき、適切な承認を得て決定されていること」
ならば、A〜Dを逸脱として扱うことはできない。適切な承認を得て決定されていたが、捺印を忘れたり、別の方法で承認されたりしている可能性があるため。

もし、
統制目的「標準販売単価以外の価格を適用する場合には、個々の受注について営業部長が個別に事前承認を行い、注文請書に承認印を押すこと」
ならば、A〜Dは全て逸脱の扱いになる。

Q26. 計画段階における文書化(内部統制評価の場合)

・監査プログラムの記載例(属性サンプリング)
・計画段階の監査調書の記載例

Q27. サンプルの代表性

Q28. 無作為抽出(属性サンプリング)

○乱数法

○系統的抽出法(固定間隔抽出法)
・最初のサンプルは乱数で決める

Q29. 母集団データ入手時の留意点

①計画段階

②データ依頼段階

③データ取込段階

Q30. テスト実施時の留意点

Q31-36. 結果の評価

①母集団の特性の評価
○テストにより確認できる母集団の特性
1. 推定上限逸脱率(ULD):母逸脱率の上限として推定される値
2. 母逸脱率は許容逸脱率よりも小さいと判断できるか
(1を目的とする場合を「属性推定サンプリング」、2を目的とする場合を「採択サンプリング」と呼び分ける場合もある)

例えば、78件の抽出サンプル中で逸脱が1件だった場合、標本逸脱率(1/78=1.3%)が算出できる
しかし、サンプリングリスクを考慮すると、母逸脱率は標本逸脱率よりもある程度大きくなることが想定できる(この程度を「サンプリングリスクに対するアロワンス」と呼ぶ)
母逸脱率の上限値は、帰無仮説「母逸脱率はN%に等しい」の仮説検定において、Nを徐々に大きくしていくことで求められる(N=4.987%の時、対立仮説「母逸脱率は4.987%よりも小さい」を採択できる)
よって、以下のように計算できる
78件中で逸脱が1件だった場合
・標本逸脱率:1.3%
・サンプリングに対するアロワンス:3.687%
・推定上限逸脱率(ULD):4.987%

同様に、以下を算出できる
78件中で逸脱が2件だった場合
・標本逸脱率:2.6%
・サンプリングに対するアロワンス:4.3%
・推定上限逸脱率(ULD):6.9%

78件中で逸脱が0件だった場合
・標本逸脱率:0.0%
・サンプリングに対するアロワンス:3.0%
・推定上限逸脱率(ULD):3.0%

「推定上限逸脱率(ULD)≦許容逸脱率」である場合、帰無仮説を棄却でき、「母逸脱率は許容逸脱率よりも小さい」と判定できる

②前提となる分布とその特徴
本書では、サンプル中の逸脱件数がポアソン分布に従う前提で推定上限逸脱率(ULD)を計算しているが、他の確率分布を前提として算出することも可能である

↑数学的に厳密だが計算負荷は高い
・超幾何分布:母集団から非復元抽出を行う場合の逸脱件数が従う分布(統計的サンプリングの実態に一番近い)
・二項分布:サンプルサイズが十分に大きい場合(復元抽出と見做せる場合)、超幾何分布は二項分布に近似できる
・ポアソン分布:逸脱率が十分に小さいかつ「サンプルサイズ×逸脱率」≦5の場合、二項分布はポアソン分布に近似できる
・正規分布:逸脱率が十分に小さいかつ5<「サンプルサイズ×逸脱率」の場合、二項分布は正規分布に近似できる
↓数学的に厳密ではないが計算負荷は軽い

③AICPA “Audit Sampling”数表との比較
AICPA数表は、二項分布を前提として計算されている
・要求信頼度95%(危険率5%) の推定上限逸脱率(ULD)
・要求信頼度90%(危険率10%)の推定上限逸脱率(ULD)
 ・サンプル25件中エラー0件であれば、ULD=8.8%

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/9781119448617.app1

④「実施基準」によるサンプル件数(25件)の解釈
実施基準の記述は、正規分布を前提として計算されている
・要求信頼度:90%
・予想逸脱率:0%
・サンプルサイズ:25件
に基づき、ULD(推定上限逸脱率)を計算すると、
・ULD:8.8%
これは許容逸脱率10%以下である

⑤追加的サンプリングの検討
サンプリングによる監査手続で棄却域上限件数よりも多くの逸脱が検出された場合、どうするか?(サンプル差し替えは不可)

1. 過誤採択リスク(βリスク)が顕在化しただけかもしれないので、サンプルを追加抽出し、追加的サンプリングを行う
 ・予想逸脱率と必要検出力を高めに補正して、サンプルサイズと棄却域上限を再計算して、不足数分を追加で抽出する(この際、初回に抽出したサンプルと重複しないよう事前に母集団から取り除いておく)
2. 追加的サンプリングを行わない場合(抽出コストが大きい場合など)、以下のような監査手続を適用して、総合的な判断を行う
 ・当該リスクに対する補完統制を特定して評価する
 ・実証性テストを増やす(統制テストよりも実証性テストをやる方が低コストな場合もあり得る)

1と2を検討した後、財務報告に及ぼす潜在的な影響金額を検討して、質的・金額的に重要性がある場合、「開示すべき重要な不備」だと判断する

Q37. 実施・評価段階における文書化(内部統制評価の場合)

・実施段階の実施チェックリストの記載例
・評価段階の監査調書の記載例
・監査プログラムの結論の記載例

第3編 金額単位サンプリング

⚪︎変数サンプリング
・金額単位サンプリング:属性サンプリングの考え方を変数サンプリングに適用したもの、母集団に含まれる「誤謬金額」に対する結論を得られる(実在性アサーションの立証に使える)

Q38. サンプル数算定(金額単位サンプリング)

金額単位サンプリングのサンプルサイズ算定に必要な要素:考え方は属性サンプリングと同様
①母集団の合計金額
②予想誤謬金額
③許容誤謬金額
④信頼度条件(α条件):例えば、要求信頼度
⑤検出力条件(β条件):考慮しない場合もある(例えば、機体件数法を使う)

Q39. 母集団の定義(実証手続の場合)

Q24は統制テスト、Q39は実証性テスト

実証性テストでは、以下のように母集団を分割することがある
・一定金額以上:精査を適用
・一定金額未満:試査を適用

Q40. エラーの定義(実証手続の場合)

Q25は統制テスト、Q40は実証性テスト

全サンプルについて原始帳票と仕訳の金額が一致していればOKだが、以下のようなケースでは一致しなくてもエラーとは見做さない(調査の結果、OKとする)
・差額があったが、調査の結果、締日のズレに起因するものだった

Q41. 計画段階における文書化(実証手続の場合)

Q26は統制テスト、Q41は実証性テスト

・監査プログラムの記載例(金額単位サンプリング)
・計画段階の監査調書の記載例

Q42. 無作為抽出(金額単位サンプリング)

○系統的抽出法:母集団に周期性があるとサンプルの代表性が損なわれるという欠点があるため、乱数を使って伝票をランダムソートしてから行う
・金額単位抽出法:サンプリング区間(=合計金額÷サンプルサイズ)を使う方法

Q43-47. 結果の評価

・推定誤謬金額(projected misstatement):母集団全体の誤謬金額の推定値(各サンプリング区間の推定誤謬金額の合計値)
・推定上限誤謬金額(ULM、Upper Limit on Misstatement):推定誤謬金額+サンプリングリスクに対するアローワンス(監査人としては、母集団の誤謬金額を過小評価してしまうことを避けたいため、ある程度の余裕を設けて誤謬金額の最大値を使う)

○信頼性係数λ
・サンプル中に含まれる誤謬件数がポアソン分布Po(λ=np)に従うと見做した時の、「検出誤謬件数を超える領域の確率」が要求信頼度以上の値となるようなポアソン分布パラメータλの最小値
・要求信頼度と検出誤謬件数から導出する
 ・要求信頼度95%、検出誤謬件数2件の場合、信頼性係数λ=6.30
 ・要求信頼度95%、検出誤謬件数0件の場合、信頼性係数λ=3.00
・属性サンプリングと対応させて考えると、λ=推定上限逸脱率ULD×サンプルサイズである
 ・要求信頼度95%、検出誤謬件数2件の場合、λ=6.63%×95件=6.30
 ・要求信頼度95%、検出誤謬件数0件の場合、λ=3.16%×95件=3.00

○誤謬が検出されたサンプルの計上金額が、サンプリング区間未満である場合
・誤謬が検出されなかった場合:ULM=信頼性係数λ×サンプリング区間 ※この場合のULMを基礎調整額と呼ぶ
・誤謬の差異率が100%である場合(差異額=誤謬額):ULM=信頼性係数λ×サンプリング区間
・誤謬の差異率が100%未満である場合(差異額の一部が誤謬額):難しいので省略

○誤謬が検出されたサンプルの計上金額が、サンプリング区間以上の場合
難しいので省略

推定上限誤謬金額が許容誤謬金額を超過した場合、まずは以下のような追加評価を行う必要がある
・サンプルサイズの拡大
・母集団を分割する:拠点により統制リスクが異なる場合がある(例えば、特定の拠点では統制が弱い)ため、拠点ごとに母集団を分ける
・他の監査手続を実施する
以上を実施しても、「重要な虚偽表示がない」と示せなければ、「重要な虚偽表示がある」と判断し、まずは会社に修正を依頼する
その後、修正されなかった虚偽表示額を集計し、財務諸表全体の「重要性の基準値(PM)」と比較する
もし虚偽表示額がPMを超える場合、監査報告書で開示することになる

Q48. 実施・評価段階における文書化(実証手続の場合)

・実施段階の実施チェックリストの記載例
・評価段階の監査調書の記載例
・監査プログラムの結論の記載例

第4編 サンプリングのための確率統計学

Q49. 統計的サンプリングにおいて用いられる確率分布

略(Q31-36参照)

Q50. 順列・組合せ

Q51-54. 重要な確率分布

・超幾何分布:H(n,M,N)
・二項分布:Bin(n, p)
・ポアソン分布:Po(λ=np)
・正規分布:N(μ, σ2)

Q55. 超幾何分布と二項分布の関係

Q56. 二項分布とポアソン分布・正規分布の関係

Q57. 帰無仮説の形式

なぜ
・帰無仮説「母逸脱率は許容逸脱率以上である
・対立仮説「母逸脱率は許容逸脱率より小さい」
ではなく、
・帰無仮説「母逸脱率は許容逸脱率と等しい
・対立仮説「母逸脱率は許容逸脱率より小さい」
なのか?

もし
・帰無仮説「母逸脱率は許容逸脱率(5%)以上である
を棄却するためには、母逸脱率が許容逸脱率以上のどの値(6%、7%、8%、…)でもないことを検証しなければならない
しかし、「母逸脱率は許容逸脱率(5%)と等しい」を棄却できる場合(サンプル数78件、信頼度90%のもとで、逸脱が1件だった場合)は、「母逸脱率は許容逸脱率(6%)と等しい」「母逸脱率は許容逸脱率(7%)と等しい」「母逸脱率は許容逸脱率(8%)と等しい」も棄却できる
なので、
「母逸脱率は許容逸脱率(5%)と等しい
についてだけ検証すれば十分

第5編 ケーススタディ

〔総合ケーススタディ1〕属性サンプリング

〔総合ケーススタディ2〕金額単位サンプリング

第6編 Appendix

発見サンプリング

不正調査(不正取引の発見)で母集団の精査ができない場合、要求信頼度95%以上・許容逸脱率5%未満を前提として、予想逸脱率0%と仮定して属性サンプリングを行い、少なくとも1件の逸脱を発見しようとする場合がある。
この場合、たまたま標本中に逸脱が含まれず、母逸脱率を過小評価してしまうことが問題になるため、過誤棄却リスク(αリスク)が問題になる(元々、母逸脱率が低いことを見込んでいるため、βリスクは考慮不要)。そのため、棄却域上限件数0件としてサンプル数を算出する。
発見サンプリングにより逸脱が1件も見つからなかった場合、要求信頼度95%以上で、母集団に許容逸脱率以上の逸脱がないことを主張できる。
もし1件の逸脱が見つかったとしても、不正取引の証拠が特定できたことになる(ただし他にも逸脱がある可能性があるため、推定上限逸脱率ULDは計算できない)。

発見サンプリングにおけるサンプル数は、理論的には超幾何分布で計算する(母集団サイズに占めるサンプルサイズの割合が高くなりやすいので、非復元抽出として考える必要があるため)
・母集団サイズ
・許容逸脱率
・要求信頼度
に基づき、サンプルサイズを算出できる。
母集団サイズが大きくなるほどサンプルサイズは大きくなるが、一定値(固有サンプル数)以上にはならない

固有サンプル数(発見サンプリングと属性サンプリングの接点)

・要求信頼度95%、許容逸脱率0.5%の場合、固有サンプル数は598件
・要求信頼度90%、許容逸脱率9%の場合、固有サンプル数は25件
母集団サイズがこれ以上に大きくなっても変わらない。
何故ならば、母集団サイズが十分に大きくかつ予想逸脱率0%である場合、棄却域上限件数0(βリスクを考慮せずαリスクのみを考慮する)とすると、サンプルサイズ(固有サンプル数)は、
・許容逸脱率
・要求信頼度
の2要素のみで決まるため。


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