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再エネ普及の“壁”となっている、現実と感情のギャップとは?

世界中で「脱炭素」の動きが加速している今、大きな注目と期待が集まっている再生可能エネルギー。本シリーズ「エネルギーの未来について語ろう」は、そんな再生可能エネルギーに秘められた可能性や魅力について、パシフィコ・エナジーで働く「中の人」や関係者に、それぞれの想いを語ってもらう記事コンテンツです。

前回から引き続き、パシフィコ・エナジーの太陽光発電事業開発部門の推進部門長を務める吉田憲二が登場。日本における再生可能エネルギーの現状と今後の再エネ普及の展望について、想いを語ります。

日本の再エネ普及における“壁”とは?

ご存じの方も多いかと思いますが、2020年10月に日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す方針を発表しました。カーボンニュートラルとは簡単に説明すると、温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて“実質的に”ゼロにすること。2015年のパリ協定の採択以降、世界の多くの国がカーボンニュートラル実現を掲げてさまざまな取り組みを進めています。

そんなカーボンニュートラル実現の大きなカギを握っているのが、電力の生産過程で温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの普及です。日本政府が公式にカーボンニュートラル実現を宣言したことは再エネ普及の追い風になると考える人も多いかもしれませんが、実はそう単純にはいかない事情も存在します。

時はさかのぼって2012年、日本における再エネ普及を目的にFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)がスタートしました。これは再エネ事業者や一般家庭が再エネを用いて発電した電気を電力会社が買い取ってくれる制度ですが、FIT制度のスタート時、1kWhあたり40円代という破格の買取価格によって太陽光バブルが到来。多くの再エネ事業者が市場に参入してきました。

そのような利益第一で参入してきた再エネ事業者のなかには、非常にずさんな太陽光発電所の管理・運営を行なっていた事業者も散見され、こうしたことが再エネ事業者に対するバッシングの一因にもなりました。また電力会社が買取に費やした費用の一部を電気の利用者にも負担してもらう「再エネ賦課金」も、多くの利用者のネガティブな感情につながってしまった側面もあります。

現実と感情の溝(ギャップ)をいかに埋めるか? がポイントに

こうしたことを背景に日本における再エネ普及には、一つの“壁”があると言えます。カーボンニュートラル実現に向けて現実レベルでは再エネの必要性・重要性が高まっている一方、感情レベルでは再エネに対してネガティブな印象を抱いている人も一定程度存在する。こうした現実と感情のギャップが再エネ普及の大きな“壁”となっており、この壁を乗り越えなければ、2050年のカーボンニュートラル実現は難しいのではないか……と個人的には感じている次第です。

未来のことを考えるためには“余裕”が必要

数十年、数百年単位の「未来」を考えるなら再エネという選択肢は欠かせなくなっている

一方で「でもこれからの時代、再エネって必要だよね……」とぼんやり感じている人も多くいらっしゃるのではないか、とも思います。しかし、我々のような一般人が日常生活を送るなかで、生活に即したレベルで再エネの必要性や重要性を実感する機会はなかなか少ないことも事実です。

地球環境や子どもたちが暮らすこれからの未来を考えると、再エネを選ぶに越したことはありません。

しかし、環境や未来について考えるには数十年、ときに数百年単位の非常に長期的な視野に立たなければいけないこともあり、そのような長期的スパンで物事を考えるには、さまざまな“余裕”も必要になってきます。問題は、仕事や家庭のことなど日常生活で多くの雑事に追われる現代人にとっては、普段の日常のなかで長期的な視野で物事を考える時間や余裕がなくなっていること。「より良い未来をつくる」という抽象的なことよりも、どうしても今日・明日の具体的な生活の方が優先されてしまうわけです。

これはある意味では仕方のないことなのかもしれませんが、結果として再エネの優先順位も日常生活のなかでは低くなってしまう。同時にこれは、日本という国自体からさまざまな余裕がなくなっていることのひとつの表れとも言えるのかもしれません。

再エネ事業者や利用者がメリットを感じられる仕組みがもっと必要に

では、そのような状況を打破するためには何が必要なのでしょうか? 

ひとつには“制度づくり”が挙げられます。再エネを普及させることで多くの人に具体的メリットが得られるような制度を国主体でつくっていく。

たとえば、我々のような再エネ事業者がぶつかる壁に経済合理性というものがあります。環境のことを考慮して、可能な限り負荷が少ない形で太陽光発電所をつくったとしても、収益的には負担になる場合もあり、結果的に利益優先型の事業者が得をしてしまうような構造がある。また一般の利用者レベルにおいても、現状では再エネを使用するメリットがあまり感じられていない。

こうした事態を打破するために、より良い運営を行なっている再エネ事業者や、あるいは一般の利用者が再エネを用いることで具体的なメリットを得られる制度をつくる。もしくは、再エネを用いなければデメリットが発生するような、そのような制度を積極的に打ち出していく必要があるのではないでしょうか。たとえば、炭素税などはそのような制度の代表格だと思います。

制度づくりは国主体の話になってきますが、我々再エネ事業者側も再エネ普及のために努力すべきことはまだまだたくさんあるように思えます。

パシフィコ・エナジーとして今後さらに取り組んでいきたいのは、私たちがつくる発電所のあり方をもっと可視化して、多くの人にそれを体感してもらうこと。創業時から“環境配慮型”の発電所を追求している私たちの工夫や姿勢を多くの人にわかりやすく伝えることは、これからさらに力を入れるべきポイントだと感じています。

パシフィコ・エナジーの発電所では一般の方々を招いた交流会も行なっています

太陽光発電所と聞いて無機質なパネルが一面並んでいるような、そんな機械的なイメージを抱く人も多いかもしれません。上空から撮影した航空写真を見ると一見そのように見えるかもしれませんが、実際に発電所に足を運んでみると、パネルの下に植物が生えていたり、動物、野鳥、昆虫といったさまざまな生き物が暮らす豊かな生態系が存在していることがわかったりして、良い意味で印象が覆されるはずです。

そういった意味では、発電所に実際に足を運んでもらうことが一番説得力があると思います。たとえば、発電所を再エネの存在価値や発電所の仕組み・発電方法、生物との共存の意義などを体感して学べる施設として、子どもたちの社会科見学用に使ってもらう。私たちの発電所がそんな教材的な使われ方をしてもおもしろいかもしれないな、と最近では感じています。

良い再エネ事業者を見分けるポイントとは?

パネルをきれいに並べた宮崎市の細江発電所

良い再エネ事業者と、そうではない再エネ事業者を見分けるポイントとしても、完成後の太陽光発電所を見ていただくのが一番わかりやすいはずです。

良い運営が行われている太陽光発電所は、しっかり整備されていて見た目にも綺麗ですし、一目で管理が行き届いているのがわかる。周囲の自然環境にも配慮されていて、もともとの生態系がそのまま残っていたり、周囲からは発電所が見えない地形を選んでいたり、地元住民の声や要望もしっかりと取り入れられている。

一方、無責任に運営された太陽光発電所は、パネルが乱雑に設置されていたり、設備や資材も放置気味で定期的なメンテナンスが行われている気配もなかったりと、パッと見で違和感がわかります。そしてそのような事業者を反面教師とすることで、「パシフィコさんは他の再エネ事業者とは違うんだな」とビジネスの追い風にしてきた部分も少なからずあります。

FIT制度スタート時の“うま味”がなくなり、マーケットから撤退していった再エネ事業者も多くいるなかで、世の中に再エネを普及させていこうという気概を持った事業者の数は少なくなっています。そんななかで、私たちのようないち事業者の力だけで、日本における再エネのあり方やネガティブイメージをガラッと変えることは現実的にはなかなか難しい。

しかし、1人でも理解者を増やすことはできる。ですから、パシフィコ・エナジーが今後の再エネ普及に向けてやるべきことは、これまで同様に理想を追い求めると同時に、現実思考で我々にできることを1つずつ実直にやっていくことに尽きるのかな、と。そうやって賛同者や理解者を増やしていくことが、結局は再エネ普及への一番の近道なのかな、と感じています。

では、実直かつ誠実な太陽光発電所の建設・運営を行う上で何が大切になってくるのか? 次回は私が許認可をはじめとする業務に携わるなかで、どんなことに気をつけているのかなどを具体的にお話したいと思います。


「エネルギーの未来について語ろう」吉田憲二 連載第1回はこちらからご覧いただけます。

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